会社の経営に行き詰まったとき、選択肢の1つとして「廃業」が存在します。
廃業というと、ネガティブな言葉のように感じられますが、「倒産」という状況に陥る前に廃業を選択するというケースも多いのです。
廃業にはデメリットだけではなくメリットも存在します。
この記事では、メリット・デメリットを中心に、廃業について詳しく解説していきます。
事業者にとっては、廃業のことはあまり考えたくない内容かもしれません。
しかし、事業が安定している内に「もしもの場合」をシミュレーションし、備えておくことがいざという時に選択肢の幅を広げることになります。
記事の後半では、廃業以外の選択肢についても解説いたします。
最後まで読むことで、正しい選択をするための参考となるでしょう。
廃業とは?
「廃業」という言葉は、法的に定義されたものではありません。
一般的には、個人事業者または法人が自己の意志で事業や法人格を消滅させることを意味する言葉として使われます。
廃業の原因には、いわゆる経営破綻は含まれません。
主な原因には次のようなものが挙げられます。
- 経営者の後継者がいない、人材不足
- 経営不振(経営破綻の前段階)
- その他経営者が経営を続けることが困難である一定の事由
主に人材・後継者不足については中小企業の経営者によくあることなのですが、事実、中小企業の廃業は年々増加していっています。
一定の事由とは、商品の需要の低下、経営者の体調不良、経営を継続するモチベーションの低下などです。
コロナウィルス感染症の影響で廃業する会社は増えている
近年、コロナ禍により飲食店業を始めとした多くの事業者が経営難に陥っています。
しかし、2020年の企業の倒産件数は7,163件と、過去50年間で1990年度に次いで4番目に少ない水準となりました。
(出典:東京商工リサーチ調べ2021年4月8日報告 全国企業倒産状況より)
景気の悪化と共に企業の倒産も増えると思われがちなところ、予想を裏切って過去稀に見る低水準を記録しているのです。
ただし、これを単純に「良い傾向」と見ることはできません。
倒産が減っている裏側に、事業の廃業は増えているのです。
実際に、2020年の廃業・解散した企業の数は2000年代最多の49,698社を記録しています。
(出典:東京商工リサーチ調べ2021年1月18日報告 2020年「休廃業・解散企業」動向調査より)
廃業を選ぶという状況
では、どのような状況下にある会社が廃業を選ぶのでしょうか。
一言で言うと「債務を返済する余裕がある内に事業をたたむことを決める」という状況です。
会社の廃業というと一般的にはマイナスなイメージが強いかもしれませんが、実は必ずしもそうではありません。
経営者が経営を引退して老後を楽しみたい、廃業をすることで自身や周囲の負担が軽くなる、などむしろポジティブなきっかけで廃業を選択するというようなケースも存在するのです。
また、廃業にはメリット・デメリットどちらもありますから、それらを正しく理解すればある種の経営戦略として廃業が機能することもあります。
「債務を返済する余力を残して事業をたたむ」とは
廃業を選ぶ状況について、より詳しく解説いたします。
先ほども述べた通り、「廃業」は経済状況が深刻な時のみ選択されるわけではありません。
黒字であるにもかかわらず廃業する会社も存在するのです。
そのため、廃業は債務超過により破産手続が開始されるほどの状況ではなく、その前段階の余力がある状態で事業をたたむことを言います。
現にコロナ禍という環境下においても、国からの融資や補助金を受けることができる支援策がいくつか設けられました。
そのため、すぐさま倒産するような事態を避ける余力が生まれ、結果廃業を選択する企業の数が増加したのではと考えられます。
債務の完済ができないと破産となる
混同されやすい言葉として、「倒産」がありますが、倒産は会社の状況の悪化等によって資金繰りに窮する事で、事業を継続することが困難である状況を指します。
ですので、廃業はあくまで自己の判断のもと事業をやめるのに対し、倒産は事業をやめざるを得ない場合に使われます。
倒産の影響範囲
業績不振により会社を倒産する場合、さまざまな影響が生じます。
例えば、
- 債務超過の場合、破産となり裁判所が手続きに関与します
- 取引先に迷惑がかかる
- 代表者が連帯保証人の場合、自身も破産手続きが必要な場合がある
- 社会的イメージが悪くなる
というような事柄が挙げられます。
事務負担や会社関係者への影響を始めとして、代表者への家庭にまで迷惑が及ぶ可能性もあるのです。
また、破産手続きの申し立てには弁護士への相談料など、別途費用が発生します。
なんとかこの事態に直面する前に別の措置が取れるかどうか検討しなければなりません。
廃業のメリット
廃業は、タイミングさえ間違えなければ、経営の状態が深刻化する前に事業から手を引くことができます。
実際に廃業をする場合の手続きを正しく理解し、良いタイミングでその効力を最大限に発揮できるように事前知識を持っておくことが必要です。
廃業をすることによる具体的なメリットを詳しく解説いたします。
- 1.破産の手続きが不要
- 2.関係者への迷惑が倒産よりも少ない
1.破産の手続きが不要
廃業の場合、会社が債務を完済することができれば通常清算手続きにより事業を終了することができます。
通常清算手続きに必要なことは、大きく分けて、
- ①会社の業務を終了させる
- ②債務を完済する
- ③残余財産の分配を行う
の3つです。そのため、破産の手続きのように裁判所の関与が必要になることはありません。
2.関係者への迷惑が倒産よりも少ない
廃業の1番のメリットとして、取引先などへの迷惑が倒産に比べて少なくなるというのがあります。
倒産が決定すると、現場は非常に混乱した状態となります。
解雇される従業員は勿論、債権が貸し倒れとなってしまう取引先にも影響が出てしまうからです。
それに対し、廃業については、債務は返済した状態で事業を終了させることができるため、取引先への影響は最小限に抑えることができます。
「取引先に迷惑をかけたくない」という経営者ほど、経営が本当の窮地に立たされるまで事業を頑張ってしまいがちです。
ですが、倒産という事態を避けるため、戦略的に廃業を選ぶということも時には必要になってきます。
廃業のデメリット
上記の通り、廃業にはメリットいくつかありますが、反対にデメリットがないわけではありません。
経営を続けていくか廃業をするかの判断をする際に、留意すべきデメリットをご紹介いたします。
廃業に限らず、倒産の場合も同じデメリットがあると言えるでしょう。
具体的には以下の通りです。
- 1.事業そのものが終了する
- 2.関係の深い仕入れ先の連続廃業のリスク
- 3.資産の売却に影響が出る場合がある
1.事業そのものが終了する
これは倒産したときと同様ですが、廃業の場合企業活動そのものが終了します。
基本的に企業活動が再開される見込みはありません。
その他、会社の資産整理や登記手続きに費用が発生すること、経営者の社会的印象に影響が出ることなども考えられます。
2.関係の深い取引先の連続廃業のリスク
債務の返済さえ完了すれば、取引先への影響は全くない、というわけではありません。
例えば、廃業する会社に製品や商品の主要な仕入れ先があった場合、その仕入れ先の会社はその分の売上げが減少することになります。
相互間の関係が深ければ深いほど減少する売上げの割合は大きくなるのです。
その結果、その仕入れ先や販売先までもが倒産し、連鎖的にいくつかの企業が次々と倒産することも可能性としてはあり得ます。
反対に、廃業する会社が主要な仕入れ先であった場合も、その仕入れをしていた側の会社が新しい仕入れ先を探す必要がありますから、そういった点でも迷惑がかかると言えます。
3.資産の売却に影響が出る場合がある
廃業に伴いそれまで保有していた事業用資産等を売却する場合、会社側としては「多少売却価額が低くなってもいいからなんとか資産を売りたい。」という気持ちが強くなります。
多くの在庫を抱えたまま廃業した時などは、在庫処分をすることに必死ですから「換金できるだけありがたい」とどんどん商品価値が下がっていくことも考えられます。
前向きに行う廃業が増加傾向にある
ここまで廃業のデメリットをお伝えしましたが、冒頭の通り、廃業が増えている理由の一つとして「前向きな理由での廃業が多くなっている」という事実があります。前向きな廃業とは、廃業をして事業のスタイルを変えたり、事業承継で経営者が変わることでより良い会社となる、というケースです。
経営承継円滑化法の改正やM&Aプラットフォームの確立によって、まさに今増加傾向にあります。
廃業という言葉のイメージがあまり良くないため、悪いことのように捉えられがちですが、廃業をすることで最終的に会社にとって良い結果になるという可能性も大いにあるのです。
廃業ができるということは、倒産しなくて済むということです。
廃業を選ぶことは、決して不幸な結末ではありません。
事業承継に関しては、次の項からより詳しく解説していきます。
廃業・倒産以外の選択肢は?
それでは、廃業・倒産よりもリスクが少なくて済む選択肢は存在するのでしょうか?
考えられるのは、主に「休眠」と「第三者承継」という方法です。
ただし、これらの選択肢にもメリット・デメリット両方ありますので、会社の状況や今後の方針などを踏まえたうえで、慎重に選択する必要があります。
どちらも有効な経営戦略になりうるので、手続き方法や廃業との違いを知っておいて損はないでしょう。
休眠
休眠とは、法人としての登記簿上の記録は残したまま、事業活動を一時的に停止させることを言います。
休眠した法人は「休眠会社」と呼ばれ、株式会社が最後に登記をした日から12年が経過した場合には自動的に休眠会社となります。
自ら休眠会社となるには、納税地の所轄税務署長に異動届出書を提出、都道府県税事務所・市町村役場に休業届を提出することが必要になります。
休眠をするメリットとしては、
- 法人税、消費税の納税義務が発生しない
- 会社を消滅させる必要はなく、いつでも事業を再開できる
- 解散や清算をする場合のコストを削減できる
といったものがあります。
あくまで一時的に事業を停止したいという場合には有効な手段です。
一方、デメリットとしては、
- 保有不動産に関する固定資産税は毎年納税義務が発生する
- 税務申告は毎年必要
- 最後の登記から12年が経過すると実質企業が解散したものとみなされる
- 営業を再開しても取引先が戻ってこない
といった点が挙げられます。
資産のうち不動産が多くを占める会社である場合は、休眠しても固定資産税の発生によりかえって資金が目減りする場合があります。
第三者承継
第三者承継とは、会社の事業を社外の後継者に引き継がせることを指します。
第三者承継にもいくつかパターンがあり、引継ぎ先が子供でない親族であったり、役員や社員であったり、М&Aであったりとさまざまです。
第三者承継のメリットは、
- 従業員・取引先との関係を維持できる
- 株式売却資金が入る
という点です。
事業は継続できるので、関係各社へ影響を与えずに済み、経営者のレガシーを残すことができます。
デメリットとしては、
- 後継者は株式売買資金を準備する必要がある
- 後継者が必ず現れるとはかぎらない
などが挙げられますが、事業承継のプロフェッショナルにアドバイスを受けるという手段があります。
第三者承継を検討しても、まずは何をすればいいのかわからない、そもそもM&Aが成功するかもわからない……というお悩みは、企業オーナー向けコンサルティングを受けることで解決するでしょう。
まとめ
会社を設立し、事業を始めることは意外と簡単なのですが、それを終わらせるとなるとさまざまな影響や考慮しなければならない点が発生します。
会社やその関係者に愛着があればあるほど、お互いが納得のいく選択をし、事業活動を着地させるために、事前知識を持って可能性を広げておくことは大切です。
M&Aは、必ず成功するわけではありません。
M&Aができず、倒産せざるを得ないというような、選択肢すらない状況を避けるため、早めに廃業を検討する企業が増えています。
事業承継は、プロのコンサルティングを受けることで最適な選択をすることができます。
「まだ事業承継を検討するのは早い」と思わず、迷ったら、相談やセミナーの参加から始めましょう。
いざという時の選択肢を広げる準備が大切です。
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