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事業承継は企業の存続と成長を左右する重要なプロセスです。本記事では、成功のための計画、専門家の選び方、税務・法務対策を詳しく解説します。
事業承継とは何か
事業承継とは、現経営者から次世代の後継者に経営権や資産、ノウハウを引き継ぐプロセスです。このプロセスは企業の存続と持続的な成長のために 非常に重要で、特に中小企業においては経営者の交代が企業全体の存続に直結するケースが少なくありません。
事業承継の定義と重要性
事業承継は単なる経営のバトンタッチではありません。企業が持つ価値、理念、顧客との関係、ブランド、そして従業員のスキルなど、あらゆる経営資源を次世代に引き継ぐ行為です。これがうまくいかなければ、企業の価値が損なわれるだけでなく、最悪の場合、企業の存続自体が危ぶまれることになります。
多くの中小企業において、現経営者が企業の中心的な存在であり、顧客や従業員との信頼関係が経営者個人に基づいて築かれているケースが多いです。経営者が引退すると、その信頼関係が揺らぐことがあり、これは企業の存続に深刻な影響を与えます。そのため、事業承継は企業の未来そのものを見据えた計画的な取り組みが必要です。
事業承継の種類
事業承継には、大きく3つの主要なタイプがあります。それぞれのタイプには特徴があり、企業の状況や後継者の有無によって適した方法を選択することが重要です。
親族内承継
親族内承継は、現経営者の子どもや親族に事業を引き継ぐ形態です。この方法の最大のメリットは、親族内で企業の理念や経営に対する想いが共有されている点です。また、親族内であれば、後継者が現経営者の経営方針に対する深い理解を有していることも多く、承継後も企業の価値観を維持しやすいです。
しかし一方で、親族内に適任者がいない場合や、後継者の経営能力に不安がある場合は、問題が発生します。また、親族間の関係性が複雑である場合、事業承継が親族間のトラブルの原因となることもあります。特に複数の子どもがいる場合、誰が後継者になるかを巡って対立することがあります。そのため、早い段階から親族内で後継者について話し合い、合意を形成することが重要です。
従業員承継
従業員承継は、企業内の幹部や長年勤務している社員を後継者として選ぶ方法です。この方法の大きな利点は、後継者が企業の内部事情に精通しているため、事業の運営や従業員との関係が良好である場合が多い点です。また従業員も、長年の同僚が後継者となることで安心感を持つことができます。
ただし、従業員承継を行う際には、経営者としてのスキルを十分に持つ人材であるかどうかを見極める必要があります。優秀な従業員であっても、経営者としての判断力やリーダーシップを持っているとは限りません。そのため、従業員承継を行う場合には、適切なトレーニングや育成が重要です。
第三者承継(M&A)
親族や従業員に適任者がいない場合、事業を第三者に譲渡する方法が「第三者承継」、いわゆるM&Aです。この方法では、企業の価値を評価し、外部の企業や投資家に買い取ってもらうことで、事業を継続します。M&Aは後継者問題を解決するだけでなく、新たなリソースや技術を取り入れることができ、企業にとって成長のチャンスともなります。
一方で、M&Aは買収後の企業文化の融合や従業員の不安を取り除くことが課題となります。特に、買収後の経営方針が大きく変わると、従業員のモチベーションが低下するリスクもあるため、事前に企業文化の違いを理解し、双方が納得できる形での交渉を行うことが大切です。
事業承継が失敗する原因とその影響
事業承継がうまくいかない理由には、以下のような要因があります。
後継者不在(後継者不足)
まず直面する問題の一つは、適切な後継者が見つからないことです。親族内に適切な後継者がいないだけでなく、社員の中に経営を任せられる人材がいないこともしばしばあります。また、M&Aも事業承継の出口としては有効ですが、売り先が見つかるとは限りません。
計画の不足
事業承継における計画不足も大きな失敗要因です。事業承継は長期的なプロセスであり、計画が不十分だと、後継者の育成が遅れたり、事業承継時にかかる納税資金が不足していることで、企業にとって大きな負担が発生します。そのため、少なくとも数年単位での計画を立て、段階的に準備を進めることが必要です。
税務上の課題
事業承継には、相続税や贈与税の負担が伴います。特に企業の資産価値が高い場合、後継者がこれらの税金を支払うための資金を用意できないことが、事業承継を困難にする要因です。税務の専門家と連携して、事前に株価評価や資金計画を行うことで、こうした税務上の課題をクリアすることが求められます。
2. 事業承継計画と成功のためのステップ
事業承継は突発的に実施するものではなく、長期的な視野で計画を立てて準備することが必要です。ここでは、事業承継を成功させるための基本的なステップを解説します。
事業承継計画の立て方
事業承継計画は、後継者の選定から育成、税務・法務対策、そして利害関係者との調整など、幅広い要素を含む包括的なプロセスです。この計画がしっかりしていれば、承継プロセスにおけるトラブルを最小限に抑え、スムーズな引き継ぎを実現できます。
ビジョンと目標の明確化
まず、事業承継後の企業のビジョンと目標を明確にすることが重要です。後継者との間で、どのような企業に成長させたいのか、どのような社会的な価値を提供したいのかといった方向性を共有しましょう。現経営者と後継者が同じビジョンを持つことで、承継後の経営が一貫性を持って進められます。
後継者の選定と教育
後継者の選定は、事業承継における最重要課題の一つです。適切な後継者が見つかったら、後継者が企業の経営全体を理解し、従業員や取引先からの信頼を得ることができるようにするため、以下のような教育ステップを取り入れます。
・実務経験の積み重ね
後継者にはさまざまな部門の実務を経験させることで、企業全体の仕組みや各部門の役割を理解させます。これにより、後継者が企業の経営状況を把握し、適切な判断ができるようになります。
・経営会議への参加
後継者を経営会議に参加させることで、経営者としての視点を養います。重要な意思決定に携わることで、経営者としての責任感と判断力を育てることができます。
・外部の研修やセミナーへの参加
後継者が他の経営者と交流し、最新の経営理論を学ぶために、外部の研修やセミナーに参加させることも有効です。これにより、他の企業の事例から学び、自社に取り入れるべき新しいアイデアを得ることができます。
財務・税務対策
事業承継には、多くの財務・税務の問題が伴います。特に多額の相続税や贈与税の負担は事業承継の妨げとなり、適切な対策が不可欠です。税務対策を行う際には、専門家のアドバイスを受けることが推奨されます。
・事業承継税制の利用
中小企業の事業承継に適用される税制で、一定の要件を満たせば相続税や贈与税の納税が猶予されます。この制度を利用することで、税負担を軽減し、後継者が安心して経営を引き継ぐことが可能です。
・生命保険の活用
相続税の納税資金を確保するために、生命保険を利用することも一つの手段です。生命保険金を納税に充てることで、相続時の資金不足を防ぐことができます。
ステークホルダーとのコミュニケーション
事業承継をスムーズに進めるためには、社内外のステークホルダーとのコミュニケーションが非常に重要です。
・従業員への説明と準備
従業員に対しては、後継者がどのような経営方針を持ち、どのように企業を成長させていくのかを明確に伝えることが重要です。特に、後継者が従業員と信頼関係を築けるように、現経営者がサポートすることが求められます。
・取引先や金融機関との連携
重要な取引先や金融機関に対しては、早い段階で事業承継の計画を共有し、後継者を紹介することで信頼関係を維持します。これにより、取引先や金融機関の不安を取り除き、承継後も良好な関係を続けることができます。
具体的な事例を通じた事業承継計画の実施
例えば、ある製造業の中小企業では、現経営者が70歳を迎えた段階で事業承継を計画しました。後継者は経営者の息子であり、彼はすでに10年近く製造現場で働き、実務経験を積んでいました。しかし、彼には経営の経験がなかったため、経営会議への参加や外部セミナーへの参加を通じて、経営スキルを身に付けさせる計画を立てました。
さらに、事業承継税制を活用して、株式の相続税を猶予することで、息子が経営を引き継ぐ際の税負担を軽減しました。このように、長期的な視野で計画的に事業承継を進めることで、従業員の安心感を維持し、企業の成長を続けることができたのです。
事業承継の相談先の選び方とその重要性
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事業承継を成功させるためには、多くの専門的な知識と経験が必要です。そのため、適切な相談先の選定が重要です。ここでは、事業承継の際に頼りになる専門家とその選び方について詳しく説明します。
専門家の種類と役割
税理士・会計士
税理士や会計士は、事業承継における税務面での支援を行います。特に、相続税や贈与税の対策、自社株の評価、納税資金の確保など、税務の専門知識が必要とされる場面で重要な役割を果たします。
・株価評価と税負担の最小化
自社株の評価が高い場合、相続時に多額の税負担が発生することがあります。税理士は、適切な評価方法を選び、税負担を最小限に抑えるためのアドバイスを提供します。
・事業承継税制の活用
税理士は、事業承継税制を利用する際の手続きをサポートし、税金の負担を軽減するための具体的な提案を行います。
弁護士
弁護士は、事業承継に伴う法的リスクの管理を行います。特に遺言書の作成や、契約書の整備、親族間での相続トラブルの防止など、法的な側面で企業を守ります。
・遺言書の作成
後継者に対する経営権の確保や、他の親族との公平な資産分配を実現するために、弁護士とともに遺言書を作成することが推奨されます。
・法的リスクの回避
弁護士は、親族間での争いを避けるために遺留分への配慮や契約の適正化など、法的な観点から助言を行います。
経営コンサルタント・中小企業診断士
経営コンサルタントや中小企業診断士は、後継者育成や企業価値向上のための具体的な戦略を提供します。
・経営改善のサポート
経営コンサルタントは、企業の強みや弱みを分析し、承継後の企業の成長戦略を策定します。特に、経営のノウハウが不足している後継者に対して、経営の基礎から応用までを指導することが可能です。
・後継者の育成支援
後継者がリーダーシップを発揮できるよう、指導やアドバイスを行い、企業の成長を促進します。
金融機関
金融機関は、事業承継に伴う資金調達や納税資金の確保などの面で支援を行います。特に承継に必要な融資の提供や、金融商品の提案を行います。
・資金調達のサポート
事業承継には、株式の買い取り資金や納税資金の確保が必要です。金融機関は、これらの資金調達に関する相談に応じ、必要に応じて融資を提供します。
相談先の選定にあたっての考慮点
実績と専門性
事業承継には、専門知識と豊富な経験が求められます。専門家を選ぶ際には、その分野での成功事例を持つかどうか、どの程度の経験があるかを確認することが重要です。特に事業承継に関する経験が多い専門家は、承継に伴う複雑な問題にも対応できる可能性が高いため、安心して任せることができます。
信頼関係の構築
専門家との信頼関係は非常に重要です。事業承継は長期にわたるプロセスであり、その間に信頼できるパートナーとして相談に乗ってもらえる人物であることが必要です。実際に面談を重ね、専門家の考え方や企業の価値観を共有できるかどうかを確認しましょう。
ワンストップサービスの利用
事業承継には、税務、法務、経営など多岐にわたる分野での支援が必要です。それらを一つの窓口で対応できる事務所を選ぶことで、各専門家との連携が容易になり、手間を省くことができます。また、専門家同士が密に連携することで、より適切で統合的なサポートを受けることができます。
事業承継における重要な法律と税金の基礎知識
事業承継においては、法律や税金に関する知識を持っておくことが重要です。これらの知識が不足していると、承継プロセスで思わぬトラブルが発生し、企業の存続に深刻な影響を与えることがあります。
株価評価の基礎知識
事業承継時におけるもっとも大きな問題の一つが「株価評価」です。特に自社株の評価が高い場合、相続税や贈与税が重くのしかかり、後継者にとって大きな負担となることがあります。
純資産価額方式と類似業種比準価額方式
・純資産価額方式
企業の純資産額に基づいて株価を算定する方法です。土地や建物などの評価額が高い企業では、この方式により高い評価額となることがあります。
・類似業種比準価額方式
同じ業種の上場企業の株価と比較して自社株の価値を評価する方法です。利益が安定している企業や、成長性のある業種では、この方式により高い評価額となることがあります。
自社にとって有利となる評価方法を税理士と相談し、最適な方法を選ぶことが重要です。
法的トラブルの回避策
事業承継の際には、法的なトラブルが発生することがあり、特に親族間でのトラブルが発生しやすいです。以下のような対策を講じることで、法的な問題を未然に防ぐことができます。
遺言書の作成
後継者に対する経営権を確保するためには、遺言書を作成することが重要です。遺言書には、後継者や親族に対しどのように遺産を分配するかを明記します。これにより、相続の際にトラブルが発生することを防ぎます。
遺留分の配慮
遺留分とは、相続人に保障された最低限の相続分の割合です。他の親族が遺留分を請求する権利を持つため、後継者に経営権を集中させる際には、遺留分を考慮した遺産分配を行うことが求められます。これにより、後継者と他の親族との間でトラブルが発生することを未然に防ぐことができます。
後継者育成と企業価値向上のための戦略
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事業承継において、後継者を育成し、企業価値を向上させることは、承継後の企業の成長を持続させるために不可欠です。
後継者育成の重要性
後継者の育成は、事業承継におけるもっとも重要な要素の一つです。後継者が適切に育成されないと、承継後の経営が不安定になり、企業価値が低下する可能性があります。
段階的な権限委譲
後継者には、段階的に権限を委譲することが推奨されます。まずは特定の部門の管理を任せ、その後徐々に経営全体を引き継ぐようにすることで、後継者が責任感を持ちながら学び、成長することができます。
メンター制度の導入
後継者の育成においては、メンター制度を導入することも有効です。現経営者や他の経営者から直接指導を受けることで、後継者がリーダーシップを発揮するための準備を行えます。また、外部の専門家をメンターとして招き、経営に関する幅広い視点を提供することも後継者の成長に寄与します。
企業価値の向上策
企業価値を向上させることは、事業承継後の企業の成長と存続を確かなものにするために不可欠です。
業務プロセスの改善
後継者の新たな視点を生かして、既存の業務プロセスを見直し、効率化を図ることが求められます。業務の標準化やデジタル化の推進、従業員のスキルアップを通じて、企業全体の生産性を向上させることが可能です。
新規事業の展開
後継者が主体となって新たな事業を立ち上げることで、企業の収益源を多様化し、経営基盤を強化することができます。新規事業の展開は、後継者が経営者としてのリーダーシップを発揮し、信頼を得るための良い機会ともなります。
外部資源の活用
M&Aや業務提携を通じて、企業価値を向上させる方法もあります。他企業との提携によって新たな市場に進出したり、技術を導入することで競争力を強化したりすることが可能です。
社内外への適切な情報共有
事業承継の成功には、社内外への適切な情報共有が不可欠です。
・従業員への説明
事業承継の目的や、後継者が持つビジョンを従業員に対して明確に伝えることが重要です。従業員が安心して業務に取り組むためには、承継の計画や承継後の企業の方向性を共有し、従業員との信頼関係を築くことが必要です。
・取引先や金融機関への対応
重要な取引先や金融機関に対しては、早い段階で事業承継の計画を伝え、後継者を紹介することで信頼関係を維持します。これにより、取引先や金融機関の不安を取り除き、承継後も円滑な取引を続けることができます。
まとめ
事業承継は、企業の未来を左右する重要なプロセスです。適切な後継者の選定と育成、財務・税務の対策、法律面でのリスク管理、そして社内外のステークホルダーとの円滑なコミュニケーションが欠かせません。
特に、専門家のサポートを受けることは、事業承継を成功させるために非常に重要です。税理士、弁護士、経営コンサルタントなどの専門家と連携し、適切な計画を立てることで、税金の負担を軽減し、法的なトラブルを回避し、企業価値を維持・向上させることができます。
監修者
- 松川 洋平Matsukawa Yohei
- 執行役員 コンサルティング事業本部 第一事業部 部長
1983年兵庫県生まれ。早稲田大学 商学部 卒業。
辻・本郷税理士法人にて、相続・事業承継の税務業務に従事、デロイト・トーマツ税理士法人にて、事業承継のコンサルティング業務に従事する。
2018年に株式会社青山財産ネットワークスに入社し、上場・非上場問わずオーナー経営者に対して、財産の承継・運用・管理の総合コンサルティングを提供している。
- 専門分野
- 企業オーナー向けコンサルティング
- 資格
- 税理士
- 著書
- 事業承継 親の心子知らず 子の心親知らず~19の失敗事例から導く「思い」「理解」「感謝」のない対策の行方~
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