相続土地国庫帰属制度とは

2025.02.25
土地持ち資産家 相続対策

相続土地国庫帰属制度ができた背景

土地を取得する機会の一つに相続があります。相続人は土地を取得すると、その土地を自分で使うか、他人に貸すか、売却するというのが一般的です。しかし使えない土地、売れない土地、貸せない土地は相続が発生しても相続人の関心が薄くなりがちです。遺産分割もされず、相続人の共有状態が継続したり、遺産分割により特定の相続人が取得したとしても、相続登記がされずに放置されることも少なくありません。こうして何十年も経過し相続が重なると、相続人がどんどん増えてしまい、所有者の特定が困難になり、所有者が不明になってしまうといったケースが非常に多く発生していました。高齢化の進展による相続件数の増加もあり、2024年現在ではこのような所有者が不明になっている土地は、日本全国で合計すると九州の面積を超えると言われています。

こうして所有者不明土地が発生すると、例えば公共事業を進めようとしても円滑に公共事業用地の買収が進められず、公共的な土地の有効利用ができなくなり社会経済上の多大なマイナスが生じるといった事態が生じます。

また、所有者不明土地を放置すると、管理が行き届かなくなり、環境、防災、治安等の面で周辺に悪影響を及ぼします。このような背景から、所有者不明土地の発生を予防するために、相続により不要な土地を引き継いでしまった場合に、その土地を国に引き取ってもらう制度として、2023年4月27日に「相続土地国庫帰属制度」が施行されました。

制度の概要

相続等で取得した土地を国に引き渡したい意向がある方は、一定の要件を満たした場合に、土地の所有権を国に引き渡すことができます。

1.国庫帰属までの流れ

2.承認申請

申請ができる人 

相続又は遺贈により土地を取得した相続人が申請可能です 。

売買や贈与により土地を取得した人や相続等により土地を取得することができない法人は基本的に本制度を利用することはできません。

遺贈により土地を取得した人でも、相続人でない場合は本制度を利用することができません。

単独所有の場合

共有者も申請ができます。

共有者の全員が共同して申請を行うことによって本制度を活用することができます。

例えば、売買により共有持分を取得した共有者がいる場合であっても、相続等により共有持分を取得した共有者がいるときは、共有者の全員が共同して申請を行うことによって本制度を活用することができます。

共有の場合

施行前に相続した土地も対象です。

本制度の施行前に相続した土地も対象となるため、例えば数十年前に相続した土地についても、本制度の対象となります。

3.法務大臣(法務局)による要件審査・承認

(1)申請先 

土地の所在する法務局の本局です。

(2)審査手数料 

土地一筆当たり14,000円です。

手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果、却下・不承認となった場合でも、手数料は返還されませんのでご注意ください。

(3)審査期間について 

審査には、申請から帰属の決定(却下、不承認の判断を含む。)までに一 定の期間(半年~1年程度)を要します。

(4) 負担金の納付 

要件審査を経て法務大臣の承認を受けた方は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費 相当額の負担金を納付します。

※負担金の自動計算シート(法務省HP )

法務省HP資料を加工して作成

4. 帰属ができない土地

土地の管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードの発生を防 止するため、国庫帰属の要件が法令で具体的に定められています。

①申請ができない土地

(申請の段階で直ちに却下となる土地)

  • 建物の存する土地
  • 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が 設定されている土地
  • 通路その他の他人による使用が予定される土地が 含まれる土地
    • 現在、道路として利用されている土地
    • 墓地内の土地
    • 境内地
    • 現在、水道用地、用悪水路、ため池として利用されている土地
  • 土壌汚染対策法上の特定有害 物質により汚染され ている土地
  • 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、 帰属又は範囲について争いがある土地

②帰属の承認ができない土地

(審査の段階で該当すると判断された場合に不承認となる土地)

  • 崖※がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
    • ※勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル 以上のもの
  • 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は 樹木その他の有体物が地上に存する土地
  • 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
  • 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
  • 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地
    • 災害による被害を防止するための措置が必要な土地
    • 土地に生息する動物により被害を生じさせる土地
    • 国による整備(造林、間伐、保育)が必要な森林
    • 国庫に帰属した後、国が管理費用以外の金銭債務を負担する土地
    • 国庫に帰属したことに伴い、申請者の金銭債務を国が承継する土地

相続土地国庫帰属制度の統計

相続土地国庫帰属制度が2023年4月27日にスタートしてから2024年9月30日時点で1年以上経過しました。法務省が、以下の通り本制度の各種件数を公開しています。

1 申請件数(2024年7月31日現在)

(1)総数  2,481件

(2)地目別

2 帰属件数(2024年7月31日現在)

(1)総数    667件

(2)種目別
    宅    地:272件
    農用地: 203件
    森   林: 20件
    その他: 172件

3 却下・不承認件数(2024年7月31日現在)

(1)却下件数  11件

(却下の理由)

  • 9件:現に通路の用に供されている土地に該当した
  • 2件:境界が明らかでない土地に該当した

(2)不承認件数  30件

(不承認の理由)

  • 5件:崖がある土地に該当した
  • 12件:工作物、車両又は樹木その他の有体物が存する土地に該当した
  • 10件:国による追加の整備が必要な森林に該当した
  • 9件:その他

※ 1つの事件で複数の却下の理由又は不承認の理由が認められる場合があります。

4 取下げ件数(2024年7月31日現在)

333件

※ 取下げの原因の例

  • 自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
  • 隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
  • 農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
  • 審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した

(留意点)

  • 申請件数2481件の内訳は以下の通りとなります。
  • 申請件数の内、帰属の決定など手続きが終了した件数は1041件です。
  • 申請件数の内、手続きが終了した件数を差し引くと審査中の件数は1440件となります。審査中の件数のうち、今後、多数の帰属が認められるものと推測されます。

法務省ホームページ「相続土地国庫帰属制度のご案内」
「相続土地国庫帰属制度の統計」を加除修正

(参考サイト)

内閣府大臣官房政府広報室 政府広報オンライン
「なくそう、所有者不明土地! 所有者不明土地の解消に向けて、 不動産に関するルールが大きく変わります!」

※本記事は記事投稿時点(2024年9月30日)の法令・情報に基づき作成されたものです。

現在の状況とは異なる可能性があることを予めご了承ください。

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