廃業すると会社自体が法的に消滅します。これまで働いてきた従業員も、雇用先の会社が無くなってしまうため、解雇されることになります。働く場所を失うことは従業員の生活にとって重大な問題であり、経営者は丁寧かつ慎重に対応しなければなりません。
そこでこの記事では、廃業を検討している経営者に向けて、廃業が従業員に与える影響や廃業を従業員に受け入れてもらうためのポイント、廃業時の従業員対応の流れ、廃業時の従業員解雇で想定されるトラブル、従業員の雇用を守りながら事業を畳む方法などについて解説します。
廃業が従業員にもたらす影響
何らかの事情でこれ以上会社の経営を続けることができない場合、経営者は「廃業」という選択をすることがあります。廃業は、会社自体が無くなることを意味しますが、もし廃業を選んだ場合、その会社で働いている従業員はどうなってしまうのでしょうか。
廃業が従業員にもたらす影響について確認していきましょう。
従業員は解雇される
会社と従業員の間には、会社が労働力に対して報酬を支払い、一方で従業員が労働力を提供するという雇用契約が結ばれています。しかし、会社が事業の存続が難しい状況になり、廃業を決断した場合には、最終的に法人格が消滅することになります。
そうした状況下で従業員の雇用契約を継続させることは不可能です。そのため、廃業に向けて清算手続きを進める前に、会社は従業員との雇用契約を解除する必要があります。つまり、廃業では従業員が職を失うことになります。
給与や賞与による収入が途絶える
従業員は、基本的に会社から給与や賞与などを得て生活しています。しかし、会社が廃業すると従業員は職を失うため、給与や賞与などの収入が途絶えることになります。会社としてできるだけ早く従業員に新たな就職先を見つけなければ、従業員の生活や将来設計が大きく狂ってしまうかもれません。
健康保険と年金が切り替わる
会社に雇用されている間は、従業員は健康保険組合の健康保険を利用することが可能です。しかし、会社が廃業すれば健康保険組合から脱退することになり、保険は国民健康保険へと切り替わります。
保険証を持っていない状態で病院にかかると医療費は全額が自己負担になるため、元従業員は解雇後できるだけ速やかに国民健康保険への切り替えが必要です。
また、年金に関しても、廃業のタイミングで厚生年金から国民年金に自動的に切り替わります。
廃業を従業員に受け入れてもらうポイント
廃業による解雇は、従業員の生活に大きな影響を与える問題です。たとえば、廃業の事実を廃業の直前に従業員へ知らせた場合、従業員には次の仕事を探す時間も無いまま働く場所を失うことになります。
そのため、経営者は廃業することになったらできるだけ早く従業員に告知するなど、誠意をもって対応することが求められます。
解雇通知の説明会を開く
廃業で従業員を解雇する場合、それぞれの従業員にただ事実を通告するだけでは、全員には納得してもらえないかもしれません。なぜ廃業しなければならないのか、従業員の今後の処遇はどうなるのかなどについて説明する場を設け、従業員から理解を得られるように努力することが大切です。
そうすることで、スムーズに廃業の手続きが進むようになります。円満に廃業するには従業員からの疑問や意見にしっかり耳を傾ける必要はありますが、その際、無理な約束をするのは避けた方がいいでしょう。
再就職の支援
廃業に伴い従業員は職を失うため、会社としては従業員の再就職を支援する必要があります。支援の方法は様々ですが、取引先や同業者などの関係者にアプローチして、雇用してもらえるように依頼するのが現実的と言えるでしょう。また、自分で再就職先を探す従業員には、転職の面接や再就職に向けた研修の受講などに有給休暇を使えるようにします。
退職金の支払い
就業規則や労働条件通知書などに退職金の支払いについて記載されているのであれば、たとえ廃業でも会社は解雇される従業員に退職金を支払う義務が生じます。一方で退職金の規定が無い場合は、退職金を支払う必要はありません。
ただ、退職金が支払われることで従業員が廃業を受け入れやすくなる可能性があるため、退職金制度が無くても退職金に相当する一時金を用意できるのであれば支払うのが望ましいと言えるでしょう。
廃業時の従業員対応の流れ
会社の廃業が決まったら、経営者は最終的に会社を清算するために様々な手続きを進めていくことになります。その中で、従業員に対する解雇の通知や再就職支援、退職金等の支払いなどの対応も、従業員の生活を考えると極めて重要です。こちらでは、廃業時における従業員対応の基本的な流れについて解説していきます。
解雇通知
廃業する場合は、まず従業員に解雇通知を行う必要があります。会社の現状や廃業の経緯、今後の処遇などについて丁寧に説明し、理解を得ることが大切です。
なお、次の就職先探しに早く取り掛かれるようにするため、解雇の30日前までに通知することが労働基準法で定められています。
ハローワークに再就職援助計画を提出
廃業にあたり一事業所で30名以上の離職者が発生する場合には、ハローワークに再就職援助計画を提出する義務が生じます。
再就職援助計画は、解雇される従業員の再就職活用を支援するための資料で、従業員を解雇する会社が作成します。なお、解雇される人数が30人未満でも任意で作成することは可能です。
給与・退職金等の支払い
廃業前の最後の給与は、原則として本来の給与支払日に支給します。ただ、解雇した従業員から請求があれば、請求日から7日以内に支払わなければなりません。
また、退職金が規則で定められている場合は、従業員に退職金を支給することになります。なお、解雇通知から30日に満たない日数で解雇する場合は、「解雇予告手当」として不足日数分の賃金を支払う義務が生じます。
各種保険の手続き
労災保険や雇用保険に関して、労働基準監督署とハローワークに届出を行います。また、健康保険や厚生年金保険の手続きとして、年金事務所への届出も必要です。
源泉徴収票の発行手続き
会社は年末調整で、源泉徴収された税額の年間の合計額と年税額を一致させる作業を担っています。
廃業する場合には、その年の1月1日から最後に支給した給与について、従業員の給与所得の源泉徴収票を発行します。その源泉徴収票をもとに、従業員が再就職した会社が年末調整を実施します。
廃業時の従業員解雇で想定されるトラブル
廃業で従業員を解雇する場合、会社の経営状況や会社と従業員との関係性が原因で、何かしらのトラブルが発生する恐れがあります。
では、どのようなトラブルが考えられるのか、具体的な例を取り上げて解説していきます。
法令順守の不徹底による法的措置を取られるリスク
会社が従業員に対して日常的に就業規則に反した働き方をさせているような場合には、従業員は会社に対して悪い印象を抱いている、会社に非があると考えている可能性があり、解雇が実施された後に、従業員から訴訟を起こされるかもしれません。
こうした状況にならないよう、普段から会社は法令順守を徹底するなど、従業員に対して誠実に接していくことが重要です。
賃金の未払いにより法的手段を起こされるリスク
経営状況の悪化による廃業であれば、廃業までの従業員の賃金(月給や残業代)が未払いになることも想定されます。そうなった場合、従業員から法的手段を起こされる可能性も否定できず、さらに会社が廃業することに応じてもらえない可能性もあります。
円満に廃業の手続きを進めるためにも、給与の支払いの遅延を極力防ぐ努力が必要です。
有給休暇の扱い
会社が廃業すると、従業員に残っている有給休暇も消滅します。場合によっては、有給休暇を消化できないまま解雇される従業員もいるでしょう。
労働基準法では、有給休暇を会社が買い取ることは認められていません。しかし、就業規則などに有給休暇の買い取りに関する規定がある場合、従業員が希望すれば会社が買い取ることも可能です。
従業員の雇用を考えるならM&Aという選択も
解雇された従業員は、その後の生活に大きな不安を抱えることになるでしょう。経営者として従業員の雇用を考えるのであれば、第三者に自社を買い取ってもらうM&Aという手法を検討する価値は大いにあります。
ではM&Aには従業員の雇用に対してどのようなメリットがあるのでしょうか。
M&Aは新しい会社で雇用を継続することができる
M&Aによって会社を他の第三者に売却すれば、廃業という選択を取る必要は無くなります。その場合、従業員は引き継いだ会社に雇用されることになり、そのまま働き続けることが可能です。
解雇された場合、従業員がスムーズに再就職先を見つけることができないこともあるかもしれません。しかし、M&Aであれば従業員の雇用は守られるため、不安を感じずに済むでしょう。
売却後に従業員に多くのチャンスが与えられる
M&Aは、従業員が勤務する会社が変わることを意味します。新たに働く会社で従業員の仕事ぶりや能力が評価されれば、元の会社よりも良い収入を得たり、責任あるポジションを任されたりするといった将来の展望も期待できます。
環境が変わることで従業員に新たなチャンスが生まれるのは、M&Aのメリットでもあります。
縮小型の事業承継ファンドという選択肢
M&Aによる事業承継を希望しても赤字の会社は後継者が見つかりにくく、M&Aも難しいのが現実です。 資産価値が高い場合には、M&Aのために多額の資金を用意しなければならず、さらに買い手はなかなか現れません。
そのような場合に有効なのが、当社の「縮小型の事業承継ファンド」です。
縮小型の事業承継ファンドは、一旦会社の株式を引き受けて、不採算事業や赤字店舗の撤退、余剰資産(本社や過剰設備など)の処分などを行って、会社の資産や事業を適切な形に縮小する手法です。買い手の資金的な負担は減るため、M&Aが成立しやすくなります。
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まとめ
経営者として会社を継続していくことが困難になった場合、考えられるのが廃業という手段です。赤字が続いており、回復のチャンスや待遇の向上が期待できない場合、廃業することで新たな機会を得られるケースがあります。
しかし、経営者と従業員の双方にデメリットが生じるリスクを想定すると、積極的に選ぶのは避けたいとお考えの方が多いでしょう。
その場合はM&Aを選択することで、従業員の雇用を守ることができ、自社の事業を他社で継続させることが可能です。これ以上自ら会社を続けていくことが難しいという状況に直面したら、まずはM&Aを検討することをおすすめします。
また、事業が赤字でなおかつ資産価値が高いためM&Aが難しい場合には、当社の縮小型の事業承継ファンドを活用することも有効です。
廃業やM&Aは仕組みや手続きが複雑で、自分で実行しようとすると大きな負担になるでしょう。しかし、廃業やM&Aの専門家にアドバイスを受けたり、手続きを依頼したりするとスムーズに進みます。廃業の問題に対処するなら、まずは事業承継のコンサルティング会社に相談してみましょう。
青山財産ネットワークスの特徴
青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。
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