2024.11.25
健康
「心」と「体」の健康セミナー
心臓血管病のおはなし
青山財産ネットワークスは、人生100年時代を幸せに過ごすために、「財産」面での支援に注力すると同時に、「心」と「体」の健康も大切であると考えています。

本年11月、「心臓血管病」をテーマに行ったオンラインセミナーより、内容を一部抜粋してお届けします。
今回お招きした講師は、大阪大学大学院医学系研究科 特任教授、大阪けいさつ病院 院長の澤芳樹先生です。
「心臓病で死なない世界を作りたい」をミッションとして、常に新しい治療に挑み、多くの世界的な実績を築き上げてこられた澤先生に、心臓血管病の最新の診断や治療についてご講演いただきました。




ゲスト講師プロフィール
澤 芳樹 氏
大阪大学大学院医学系研究科 特任教授
大阪けいさつ病院 院長
(顔写真)   ゲスト講師プロフィール
澤 芳樹 氏
大阪大学大学院医学系研究科 特任教授
大阪けいさつ病院 院長
・経歴
1980年大阪大学医学部第一外科入局。1989年ドイツMax-Planck研究所心臓生理学部門、心臓外科部門に3年間留学。
2006年より大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科教授および大阪大学医学部附属病院未来医療センター長に就任。
現在は、大阪大学大学院医学系研究科特任教授、大阪けいさつ病院院長、社会医療法人大阪国際メディカル&サイエンスセンター理事長を務めている。
紫綬褒章、文部科学大臣科学技術賞、厚生労働大臣賞など数々の賞で讃えられている。

心臓血管の機能と主な病気

心臓は生命を維持するために最も重要な、全身に血液を送るポンプです。1分間に10リットルの血液を送り出し、1日10万回、人によっては100年動く精密臓器です。 

日本人の死因で1番多いのは「がん」ですが、2番目に多いのが「心臓病」です。心臓血管の主な病気として、以下が挙げられます。

●心臓弁膜症
●冠動脈疾患
●大動脈瘤
●不整脈
●心不全
●下肢虚血疾患(重症虚血肢)

心臓血管の病気で表れる症状

心臓血管系が傷んでいると、次のような症状が表れます。

●動悸、息切れ、身体を動かすと呼吸困難が起こる
●胸が痛い
●むくみが生じる、体重の増加
●身体がだるい
●歩くのがつらい  

上記症状が表れた場合、放置せず、専門医で診てもらうことが重要です。

心臓血管の病気になる原因

心臓血管の病気になる根本原因は「動脈硬化」です。


「糖尿病」「高血圧」「高脂血症」「肥満」といった生活習慣病が、動脈硬化を引き起こす原因になりやすいと言えます。動脈硬化が増える原因には「ストレス」「喫煙」があります。

冠動脈硬化の治療法

心臓の周囲にある「冠動脈」が狭くなると、動脈硬化が進み、心筋梗塞や狭心症を引き起こします。予防するためには、冠動脈の検査が必要です。

最初の治療法としてカテーテル治療が選ばれますが、治らない場合はバイパス手術を行います。 かつては心臓を停止させて行う手術が中心で、身体への負担がありましたが、今では心臓を動かしたまま行う手術が可能になり、低侵襲化が進んでいます。1956年に大阪大学が日本で初めて「人工心肺」を使った開心術に成功し、今の一般的な開心術に繋がっています。

大血管の病気の治療法

動脈硬化や血管の傷によって血管が膨れて瘤化することを「大動脈瘤」と言います。症状はほとんどありませんが、瘤が破裂すると致命的状況になります。

従来の治療法は「人工血管置換手術」であり、身体への負担が大きく、合併症リスクは15~30%、死亡リスクも5~10%と高いものでした。

大阪大学では2008年に「ハイブリッド手術室」を日本で初めて設置し、従来の心臓血管手術を行いつつ、精度の高いカテーテル治療が安全に行えるようになりました。胸部外科学会の手術統計によると、大阪大学の低侵襲化ハイブリッド手術は、1.1%という死亡率の激減に貢献することができました。

心臓の弁の治療法



高齢化による動脈硬化の進行や、生活習慣による「大動脈弁狭窄症」と言われる病気も増えています。放置すれば突然死・心不全・狭心症などを来たすため、狭くなった弁を広げる、または元に戻す手術が必要です。 従来は、心臓を止めた状態で手術を行っていましたが、新たな治療法としてカテーテルを使った大動脈弁置換術が確立されました。超高齢化社会の日本では、大動脈弁狭窄症の患者が増える中、手術が難しいとされていた高齢者の方も治療可能となりました。

もう一つ、弁膜症の治療対象となるのが「僧帽弁」です。こちらも内視鏡手術やカテーテル治療など低侵襲化が進んでいます。

心不全の治療法

心不全は、心筋そのものの病気であり、「慢性心不全」は多くの場合は生活習慣が原因となるため、誰もがなる可能性があり、予防することができます。そして心不全は増加傾向にあり、感染症ではないものの、新たな「パンデミック」になると言われています。

心不全の治療においては、「Fantastic4(ファンタスティックフォー)」と呼ばれる4種類の新薬の効果が著しいと言われていますが、薬だけで治らない場合は外科治療が必要になります。

重症度によって「僧帽弁形成術」「左室形成手術」「機械的補助循環(補助人工心臓)」などの手法がとられ、最終的には心臓移植となります。移植待機期間は5年に及ぶため、その期間は補助人工心臓を使い何とか命をつなげてくることができました。人工心臓は多くの種類があり、機械のトラブルや合併症も伴います。それでも人工心臓の進化により、5年間の待機期間を経て60%の方が心臓移植まで到達できるようになっています。

新たな治療法の開発――「再生医療」

新たな治療法の開発を目指し、私たちが20年以上前から手がけてきたのが「再生医療」です。2012年にノーベル賞を受賞した山中伸弥先生とは、2008年から iPS細胞を使った共同研究を始めてきました。

この研究から生まれたのがiPS細胞から作った「心筋細胞シート」です。人の体内で動く心筋細胞をiPS細胞から作り出し、安全性を確保しながら、10年ほどかけて人への投与に至りました。2020年にiPS心筋細胞シート移植による治療を開始し、大阪大学を中心に、順天堂大学、九州大学、東京女子医科大学の4施設で8例の患者さんに治療を行いました。治療から半年以上が経過していますが、皆さん元気に社会復帰されています。

再生医療の進化により、心臓移植前の段階で多くの患者さんが救えるのではないかと期待しています。この治療法は世界にも普及させられると考え、アメリカに拠点を作り、スタンフォード大学との共同研究の準備を進めています。

「足」は第2の心臓

足は第2の心臓と言われます。血流が悪くなると足が腐り、最終的に切断が必要になることがあります。足の切断を行うと予後は約2年と言われており、足の病気を防ぐためにも、生活習慣に気を付ける必要があります。

足の病気、動脈硬化を患っている方の半数近くは、脳や心臓にも動脈硬化の可能性があります。原因として「糖尿病」も挙げられますので、糖尿病の方は早めに足の検査をお勧めします。 「足の指先の色が悪い」「歩くと痺れが出る」といった症状がある場合は要注意です。ほんの数カ月で大きく悪化することもあります。

治療法としては、カテーテル治療やバイパス手術を行います。

医療を進化・発展させる拠点「Nakanoshima Qross(中之島クロス)」

2024年6月大阪に未来医療国際拠点「Nakanoshima Qross(中之島クロス)」がグランドオープンしました。iPS細胞による心筋再生治療の開発経験をもとに、さらなる発展を目指して設けられた拠点です。アントレプレナー型人材育成、スタートアップ集積育成、産学連携/企業連携によるオープンイノベーションを展開していきます。

アメリカではこのようなエコシステムがビジネスになっていますが、日本ではまだ例がなく、その実現を目指して取り組みを始め、手応えを感じています。

大阪では2025年の4月から大阪・関西万博も始まります。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」つまり「命」です。命の大切さを感じていただき、未来を担う子どもたちに興味を持ってもらうべく、私たちはiPS細胞から作った心臓モデルを展示する予定です。

【質疑応答】

ここからは、事前にいただいたご質問について、澤先生にご回答いただきます。


Q)ヨガやマインドフルネスなどのリラクゼーション法と、心臓の状態や心拍数は、どのような関連性がありますでしょうか?

A) 心臓は、「交感神経」と「副交感神経」でバランスを取って動いています。ヨガやマインドフルネスなどのリラクゼーションは副交感神経が優位となり、心臓が落ち着き良い方向に作用するでしょう。


Q)若いうちからやっておくと心臓に良い習慣はありますでしょうか?また、食生活で意識した方がよいことがあれば教えてください。

A) 人によって異なりますが、多くの場合は「心臓病≒生活習慣病」なので、若いうちから運動をし、バランスの良い食生活をすることが重要です。適度な運動で心臓に負荷を与えつつ、栄養を過剰に摂り過ぎないようにしましょう。


Q)心臓病についてどんな異変が出始めたら、気を付ければよいでしょうか?

A) 心臓のポンプ機能が弱まると、各所で血液の流れが悪化し、運動時、酸素需要に対して供給が追い付かなくなります。「階段を上ったり動いたりしたときに息切れ、動悸がする」「じっとしていても足がむくむ」「体重が増える」などの症状や、「足のしびれ」に注意してください。異変を感じたら、専門医の診察を受けることをお勧めします。


Q)心筋梗塞、心臓疾患などの心臓病はどんな人がなりやすいなど傾向はありますか?

A)100%ではないですが、心臓病、さらには糖尿病や高脂血症になりやすいのは体質的な遺伝と言われているので、日頃から注意しながら、適度な運動、バランスの良い食事で健康を保つことができます。


Q)心筋梗塞になり、その後、脳梗塞と立て続けに症状が出たのですが、何が原因でしょうか?一度心筋梗塞になった人は日頃何に気をつけたらいいのか教えてほしいです。

A)両方が重なって出ているということは、生活習慣による動脈硬化の可能性が高そうです。原因を気にするよりも、予防に意識を向け、生活習慣の見直しを心がけてみてください。


Q)日本ではまだ知られていない世界の最先端医療がありましたら教えていただきたいです。

A) 心臓血管外科領域に関しては、心臓手術にあたり、できるだけ身体に負担をかけない治療法にどんどん進 化しています。例えば、人工心肺を付けて心臓を止めて行う手術には3時間程度を要し、1週間から10日の入院が必要です。しかし、今はカテーテルでの治療が可能であり、30分ほどで完了し、その日の夜から食事ができて3日ほどで退院できます。 ロボット手術に関しては、前立腺では8割ほどがロボットで行われています。これからは、内視鏡手術はほとんどロボットに置き換わっていくでしょう。心臓に関しては、ロボット手術は1~5%とまだ進化しきれていないですが、これから実用化できるように進めていきます。 「人が病気では死なない」という状況にならない限り、医療の進化は求められていると思っています。