2024.12.06
事業承継
非上場株式の譲渡で発生する税金とは?税金の種類や計算方法について解説
東京証券取引所などに上場している株式である「上場株」に対して、上場していない株式を「非上場株式」と呼びます。非上場株式には取引所など公の市場はありませんが、第三者との個別の交渉などによって売買することは可能です。ただし、株式の譲渡(売却)によって売却益を得た場合には、税金が課されることになります。

それでは、非上場株式の譲渡では、具体的にどのような税金が発生し、どれだけの額を支払うことになるのでしょうか。こちらの記事では、非上場会社の経営者や事業承継に携わる方などに向けて、非上場株式についての概要や譲渡時に発生する税金の種類、譲渡所得の計算方法、非上場株式を売却する方法、非上場株式の売却における注意点などについて解説していきます。


そもそも非上場株式とは?

世の中には多くの会社がありますが、そのほとんどが「非上場」の会社です。そうした会社の株式を「非上場株式」と呼びますが、どのような特徴があるのでしょうか。まずは、非上場株式についての基本的な理解を深めていきましょう。

上場していない会社の株式を非上場株式と呼ぶ

株式は、東京証券取引所や名古屋証券取引所などの証券取引所に上場している会社の「上場株式」と、上場していない会社の「非上場株式」に分類されます。上場株式は、証券取引所を通じて売買することが可能です。

総務省の令和3年経済センサスによると、国内にある法人等の数は368 万以上に上ります。その一方で、上場会社の数は2024年7月の時点で約4,100社とごくわずかです。こうした点から、日本の産業界は、ほぼ非上場の会社で占められているといえます 。

非上場株式には市場価格がない

上場株式は証券取引所を通じて売買され、売りたい人と買いたい人との取引の中で株式の価格は決まります。一方で非上場株式は、証券取引所に上場していません。そのため、売買ができないというイメージがあるかもしれませんが、実際は売買することが可能です。ただし、非上場株式は売買するための市場がないため、市場価格が設定されているわけではありません。


非上場株式は売却することができる

非上場会社の多くでは、一般的に株式に譲渡制限が設けられています。そのため、発行会社の承認がないまま勝手に株式を売却することはできません。ただし、発行会社からの承認を得ることでができれば、売却可能となります。 

譲渡制限がある株式を売却する場合、譲渡をしたい人は株式の発行会社に対して、株式の数、譲受会社の名称などが記載されている譲渡承認請求書の提出が必要です。会社が株式譲渡承認請求書を受領したら取締役会が開催され、株式譲渡について決議がなされます。取締役会が設置されていない会社の場合は、株主総会を開催して株式譲渡の承認を決議する必要があります。承認されれば、譲渡制限株式が売却できるという流れです。

非上場株式の譲渡で発生する税金

上場株式を譲渡(売却)すると、基本的に所得税や住民税といった各種税金が発生します。では、非上場株式を譲渡した場合には、どのような税金が発生するのでしょうか。個人による譲渡、法人による譲渡、株式の発行会社への譲渡のケースに分けて見ていきましょう。

個人による譲渡の場合

個人が保有している株式を譲渡(売却)する場合は、発生した譲渡所得に対して所得税と住民税が課税されます。譲渡所得の計算式は、「譲渡価額−必要経費(取得費用+委託手数料など)」で割り出すことが可能です。

所得税は、基本的には所得の額に応じて税率が変動する超過累進課税制度ではありますが、株式譲渡における所得税の税率は15%と決まっています。実際は、復興特別所得税と合わせて15.315%が所得税という扱いです。復興特別所得税とは、東日本大震災からの復興のための財源を確保するための税金で、2037年12月末までの時限的な措置です。住民税の税率は一律で5%で、譲渡すると結果として20.315%の税金がかかります。

法人による譲渡の場合

会社などの法人が非上場株式を譲渡した場合、法人税等(法人税、法人住民税、事業税)が課税されます。法人実効税率は株式譲渡益以外の損益と合わせて計算される仕組みで、税率は個人の所得税のように一律ではありません。年間の事業上の利益や事業の規模、事業年度などによって変動する仕組みで、2018年度の改正以降の法人実効税率は約29%となっています。

発行会社への譲渡の場合

個人が保有している株式を、その株式を発行している会社に譲渡すると、税務当局から「対象の会社から配当を受け取った」とみなされる場合があります。その場合は「みなし配当」が発生したと判断され、課税の対象です。

みなし配当は配当所得とされ、所得の大きさによって税率は5~45%の間で変動します。ここに、さらに10%の住民税も加算されるため、みなし配当の税率は最大で55%になる可能性があります。このように、みなし配当が発生した場合、所得によっては多くの税金を納めることになるため注意が必要です。
 

非上場株式の税務上における株価算定方法

税金の額が決まるプロセスでは、「株価」が重要な意味を持ちます。ただ、上場株式と異なり、非上場株式は市場での取引によって株価が決まるわけではありません。そこでこちらでは、非上場株式の価格を算定する主な方法について、解説していきます。

類似業種比準方式

類似業種比準方式とは、評価対象の会社を類似の上場会社と比較する評価方法です。上場会社の平均株価や年間の利益、純資産価額、配当金などをもとに、対象となる会社の1株あたりの株価を算定します。事業や規模が似ている会社であれば収益構造も類似しているということから、原則的評価方式として採用されています。その一方で、計算式が非常に難解なことが懸念点です。

純資産価額方式

純資産価額方式とは、評価対象となる会社の1株あたりの純資産額を割り出すアプローチです。わかりやすく表現すると、「評価対象の会社が解散した場合、株主にどれくらいの金額が戻ってくるのか」という考え方と言えます。

貸借対照表に記載されている資産と負債を参考に、相続税を計算するときの時価に置き換えるのがこの純資産価額方式の特徴です。評価した総資産の価額から負債や評価差額(相続税評価額による純資産評価額−帳簿価額による純資産の合計額)に対する法人税等の相当額(37%)を差し引き、最終的に残った金額で評価します。

配当還元方式

配当還元方式とは、株主に対して支払う配当金をベースに株価を算定する方法です。議決権の大半を保有している同族会社や同族株主がいる会社において、少数株主の株式を評価する際によく用いられます。
配当還元方式は、過去2年にわたって支給された配当額の平均を10%で割り戻して、元本の株価を逆算して求めます。ただし、一般的に他の手法で計算した場合より評価額が低くなる事例が多いので、注意が必要です。なお、中には配当がない会社もあるため、その場合は1株あたりの年配当金額を2円50銭と仮定して計算します。

非上場株式売却時の注意点

非上場株式の譲渡では、株価の算定に加えて気を付けておくべき点がいくつかあります。こちらでは、非上場株式の売却時における注意点について解説していきますので、当事者になる可能性がある場合は参考にしてください。

無償や明らかに低い価格での譲渡には税金が発生する

非上場株式の譲渡は、証券取引所を通すことはありません。そのため、売り手と買い手が直接交渉したり、話し合いをしたりすることで売買価格が決まります。ただし、無償や明らかに低い価格で譲渡すると、贈与税や時価による譲渡所得課税が発生するため注意が必要です。

売り手が個人の場合、譲渡によって損失が発生するため税金が発生することはありません。しかし、売り手が法人の場合には、取得金額と時価との差額が株式売却益として課税されます。
一方で買い手に対しては、個人であれば時価と譲渡金額との差額にみなし贈与税がかかり、法人であれば法人税等(法人税、法人住民税、事業税)が発生する仕組みです。

非上場株式の売却では、場合によっては思わぬ額の出費が発生する恐れがあります。そうならないためにも、当事者になる可能性がある場合には事前に専門家に相談してから判断するといいでしょう。

売りたいタイミングで売れるとは限らない

上場会社の株式は、「ただちに売却したい」という意思があればすぐに売却することが可能です。しかし、非上場株式の場合は取引所などの市場が設けられておらず、株式を売りたい人は買いたい人を自分で見つけなければなりません。このように、非上場株式は売却したくても買い手が見つからなければ売ることはできないため、できるだけ早く売却したい場合には注意してください。
非上場株式の買い手を自分だけで見つけるのは、実際は非常に困難です。そのため、M&Aの仲介を手掛ける会社などに依頼し、買い手探しをサポートしてもらうことが大切です。

まとめ

非上場株式は、譲渡制限というルールが設けられている場合が多いですが、譲渡すること自体は可能です。ただし、非上場株式は上場株のように明確な株価があるわけではなく、適切な算定方式によって価値を導き出さなければなりません。そして、株価によって課せられる税金の額は変動するため、非上場株式の株価の算定には慎重を期す必要があります。また、非上場株式の譲渡先についても、自分だけではなかなか見つけることはできません。こうした背景から、非上場株式の譲渡を検討している場合は、専門家に相談することが大切です。

青山財産ネットワークスの特徴

青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。

 

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