2024.12.12
事業承継
“人”を第一優先に、親会社の評判を落とさずに「不採算事業を畳む」方法
顧客情報:出版業、所在地:首都圏、売上:約15億円、提供サービス:廃業のご支援
グループ会社の中に赤字続きの子会社があり、畳まざるを得ない状況になってしまったらーー。  親会社と子会社は別法人とはいえ、廃業の仕方によっては、親会社の評判を下げてしまいかねません。経営者に求められるのは、会社の「上手な仕舞い方」です。

今回、ご紹介するのは、首都圏にある出版社の事例です。出版不況で売上が落ちる中、銀行からの借り入ればかりが重くなってしまった同社。ついに親会社は廃業を決めました。その際、気をつけなければならなかった点とは何でしょうか。

目次
1.“仕舞い方”によっては、親会社の評判も落としかねない
 1-1.“生身の人”たちの生活を考えて、包括的に支援
2.従業員との軋轢を生まず、全員が納得できる説明が重要
 2-1.「いちばん最悪のケース」を回避できた
3.最大の難問“廃業までの資金繰り”を実行する「2つのフェーズ」
 3-1.本社ビルと印刷工場を売却し、大きな資金を得て返済が完了
4.「ソフトランディング」を重視し、多面的なアドバイスを
課題
  • 銀行借り入れが重く、その返済で資金繰りが厳しい
  • 地場の有力企業グループで労働組合もあり、
    悪い風評となる閉じ方はできない
提案
  • 廃業のご支援
 

“仕舞い方”によっては、親会社の評判も落としかねない


代々、100年以上にわたり地元で事業を展開するA社。約60年前に出版事業を子会社化していましたが(B社)、出版業界が好調だった時代を経て、近年は赤字が続いていました。

「本業は不振でしたが、本社ビルなどをテナント提供しており、その賃貸収入でなんとか回している状況でした。ただ、過去に行った本社ビルや印刷工場に対する投資で銀行からの借り入れが重く、継続することが難しくなってきたので、廃業を決めました」

そう語るのは、親会社からB社に出向し、同社で役員を務めるC様です。

「廃業を決めたものの、従業員にどう説明をしたらいいのか、そしてどのような救済をしたらいいのか……不安があります」(C様)

というのも、地元の有力企業であるA社。B社の廃業にともない、多くの人を解雇して、銀行へ債務返済のリスケジュールをお願いすることになります。ここで“仕舞い方”を間違えてしまったら、一事業部門であったB社だけでなく、A社も経営責任を問われ、グループ全体の評判を落としかねません。

A社には難しい舵取りが求められていました。


“生身の人”たちの生活を考えて、包括的に支援

そこで今回、当社で廃業のご支援をさせていただきました。ポイントとなるのは、「人」「資金繰り」「資産」の3つです。これを念頭に置き、廃業までにしなければならないタスクを洗い出しました。

廃業までのプロセスは2つのフェーズに分かれます。

  1. 廃業計画を立てるフェーズ
  2. 計画通りに実行するフェーズ

重要なのは、想定されることをリアルに織り込んで計画を立てること。会社という器を畳むだけなら、自力もしくは弁護士や税理士と相談しながら実行することもできるでしょう。なぜ、当社が支援させていただくのか。

それは、会社には多くの“人”が関わっているからです。従業員や取引先、そして顧客――生身の人たちの生活を考えて、包括的に支援をする必要があるのです。


従業員との軋轢を生まず、全員が納得できる説明が重要


計画を立てた後にまず行ったことは、従業員への説明です。これが入り口であり、肝でもあります。ここでは、実態に基づき「廃業以外はあり得ない」というシナリオに徹することがポイントとなります。

B社の場合も、過去の経緯をすべて洗い出したうえで課題解決策を検討してきたが、廃業以外の道を選択する余地がなかったことを説明しました。

説明会の後には当社同席で個別面談も行い、各従業員のグループ会社内での転職や他企業への再就職支援プログラムを準備してサポートしました。B社の総務人事へ問い合わせがあった場合には、当社がサポートしながら回答を用意しました。

特にお客様の場合は地元の有力企業グループで労働組合もあることから、もしここで従業員の不安や不満を募らせてしまった場合に、もめごとに至ってしまう可能性が高かったため、皆さまにご納得いただけるよう、当社グループ内の社労士法人とも連携を取りながら包括的なサポート体制の整備に努めました。
その結果、従業員との軋轢をもたらさずに解決することができました。

「納得いかない社員もいるだろうと思っていたので、無事に全員が次の職場へと移ることができて、本当にホッとしました」(C様)



「いちばん最悪のケース」を回避できた

「廃業」というと最悪のケースのように聞こえますが、何よりよくないなのが、畳もうと思っても畳めない状況になり、倒産へと至ってしまうこと。関係者への支払いやフォローができる状態で廃業できるのは、「いちばん最悪のケース」を回避できたと言えるでしょう。

従業員のフォローと並行して、ライターなど外部委託先への未払金を支払い、本社や印刷工場を処分。借入の精算についても、銀行と話をしながら進めていきました。

しかし、廃業を決めた後は、会社は無収入になるわけです。最後まで残る職員の人件費などの固定費や仕入先・外注先への支払いをしながら、返済をしていくのはかなり厳しい状況となります。それらを見越してお金のやりくりをしていかなくてはなりません。



最大の難問“廃業までの資金繰り”を実行する「2つのフェーズ」


さて、この2つ目のポイントだった「資金繰り」については、どのように実行していったのでしょうか。これには、2つのフェーズがありました。

  1. 従業員への説明会から廃業までの約10ヶ月間の資金繰り計画を立てる
  2. 最後に大きな不動産を売却して、借入を一気に返済

資金繰り計画には、会社の資産の正確な換金可能性や出入金見込を把握する必要があります。収入に関しては、期間の異なる手形決済や振込入金など複雑な取引状況だったものをすべて当社のほうで把握し、資金繰り予定表に落とし込んで管理していきました。

ただ、無収入の状態で当面の資金を銀行から借入するのは、至難の業です。そこで、多くの事例を持つ当社が銀行とのやりとりを全面サポートさせていただきました。

廃業までの一時的なつなぎ資金の借入ですが、これは3つ目のポイントである、まとまった「資産(不動産)」があったことによって何とか可能になりました。


本社ビルと印刷工場を売却し、大きな資金を得て返済が完了

もともと本社の一部をテナント貸しにして、家賃収入を得ていたB社。廃業を決めて、この本社ビルも売却することとなりました。当社の不動産部門が持つ数多くの事例やネットワークから適切な売却先を洗い出し、出来るだけ高値での売買交渉をさせていただきました。

当社は不動産売買についても豊富な経験を持っているため、客観的なアドバイスを提供することが可能です。売却先や価格が適切なのか、ぜひご相談いただければと思います。

B社の場合も、無事に本社ビルと印刷工場の売買が成立し、大きな資金を得ることができました。それを借入への返済に充て、負債をクリアにすることができたのです。



「ソフトランディング」を重視し、多面的なアドバイスを


会社を畳むということは、ただ法律上の「清算」をすればいいということではありません。前述した通り、“人”の問題は判断を誤ると大事に至ってしまいます。

経営者の皆様の多くは「廃業」のご経験はないかと思います。未知のゴールに向かうために、当社では「ソフトランディング(軟着陸)」を重視しています。大きな衝撃を生まず、いかに安全に着地させていくのか。お客様に寄り添いながら多面的な観点でアドバイスさせていただきます。


担当コンサルタント

       青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
  青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。

・著書
青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位

※役職名、内容等は2024年12月時点のものです。

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