会社設立は通常事業経営として行うため、相続対策として行うことに違和感を覚える人は多いでしょう。
実は、相続は個人の死により余儀なくされるため、経営者を交代させて継続できる資産管理会社で財産を保有することは、長期的な相続対策となるのです。
相続税は、財産の額(評価額)が上がるほど高くなります。このため結果的に財産評価額が下がることは相続対策として有効であり、資産管理会社を活用する上では、その会社に関する株式評価額が重要です。
設立時に株価は出資した額で始まりますが、会社の財産額も最初は出資額と同じです。そこから財産が増えれば株価は上がりますが、運用による利益は財産を増やし株価を上げる要因になります。
3. 利益が法人に計上され、個人の財産増加が抑制される
家賃収入がある不動産を個人で相続すると、所得が増え、所得が増えるほど税率も上がります。また、不動産による所得は基本的には家族へ給与としての支払いができないため、経費がほとんど発生しないのです。
そのため、会社を設立して利益を法人で計上することで、個人の財産増加を抑制することができます。
こうして個人の資産から切り離すことで、相続財産から除外をすることができ、相続対策となります。
資産管理会社を設立するメリット
資産管理会社を設立し運営するにあたっては、メリットが生まれるとともにデメリットも発生します。
会社に相続財産を移転することで利益が法人に計上され、個人の財産の増加を抑えて相続対策になることは説明しました。
ここでは相続税以外にかかってくる所得税等の税金や、税金以外の手続き面から2つのメリットを挙げます。
1. 株の名義変更が楽
2. 毎年の所得が分散でき所得税対策にも
一つずつ解説していきます。
1.株の名義変更が楽
不動産の名義変更を行うには、不動産屋が窓口になってくれることが多いですが、法務局に対する手続き(登記)が必要であり、付随して登録免許税・印紙税(売買契約書に貼付する印紙の代金)・司法書士費用も発生します。
これらの費用は、名義変更時点での不動産評価額によって変わります。
司法書士費用は1件につき数万円程度です。登録免許税の税率は、移転方法によって異なります。
一方資産管理会社の株式に関して名義変更を行う場合には、登記は必要ありません。
このため登記費用がかからずにすむメリットがあります。
なお2000年代前半までは、株券発行によるコストがかかりましたが、2000年代後半以降は株券不発行が原則ですので、株券に関しては気にしなくても良くなりました。
2.毎年の所得が分散でき所得税対策にも
個人で賃貸不動産を所有していると、賃料収入が得られるのは嬉しいですが所得が多くなると所得税が高くなります。
資産管理会社を設立して、賃貸収入のある不動産を会社に移すと、収入は会社のものとなります。このように、個人で得る収入を会社に分散することで、相続対策だけではなく所得税を低くすることもできるのです。
また、資産管理会社の利益が不動産によるものではない場合は、共同経営をしている家族に報酬を与えることができます。役員に家族を採用することで、役員報酬として会社の所得を家族に分散することができ、これも所得税対策となります。
ただしこの方法は、役員採用された家族に役員としての実態が伴っていなくてはいけません。
未成年だったり、他の会社に勤めている場合は役員報酬が正しい会社の経費と認められないケースがあるため、注意が必要です。
資産管理会社を設立するデメリット
所得分散や手続き面で資産管理会社にはメリットがある一方で、デメリットもあります。資産管理会社を作ってからデメリットに向き合い、後悔する事態にならないよう、あらかじめ理解しておきましょう。
1. 税制の改正による影響が大きい
2. 相続税の特例を受けられなくなる場合も
3. 簡単に廃業はできない
一つずつ解説していきます。
1 .税制の改正による影響が大きい
税制の改正は、年1回は何かしらの項目で必ず行われます。資産管理会社の活用はあくまでも裏技的であり、会社を設立したばかりに、税制の改正で不利な影響を被ることもあります。
考えられるのは、一つは相続税において資産評価引き下げの優遇税制が導入された場合です。個人で持っていれば活用できた税制が使えないことでマイナスの影響が懸念されます。
もう一つは、会社の運用益にかかる法人税率が引き上げられることです。財源確保のための税率引き上げが国際的な動きとしてあり、実際に税制改正されれば個人の所得税率より高くなる危険性も考えられます。
また2000年代には、同族会社の課税所得を増額するような改正が行われたことがあり、資産管理会社を活用していた人の中にはこの改正の影響を受けた人もいました。
この改正は批判を受けて廃止されましたが、会社活用を抑制しようという動きがあることも頭に入れておきましょう。
2.相続税の特例を受けられなくなる場合も
原則的な資産評価額に基づけば相続税が課税される場合でも、特例により資産評価額や相続税額を引き下げる特例が存在します。
一例をあげると、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」があります。この特例を利用すれば、通常の持ち家であれば、330平方メートル以下の敷地に関しては80%評価額を減少させることができます。
個人で所有していれば利用できる特例が、資産管理会社が所有していると80%の評価減は受けられなくなります。
またどの相続でも、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」だけ相続税の基礎控除が認められています。
法定相続人が最低1人いるとすれば、財産評価額の合計が3,600万円以下であれば、資産管理会社を使わなくても相続税はかかりません。かえって資産管理会社を使うことで手間と出費が増えることになります。
3 .簡単に廃業はできない
資産管理会社に限らず、会社の廃業は簡単とはいえません。
廃業は経営が苦しくなってやむを得ず行うイメージがありますが、会社の廃業は解散と清算の2段階で手続きが必要であり、最低でも10万円単位の大きな出費を伴います。
資産管理会社の清算においては、会社財産を個人に戻す必要があり、不動産に関しては費用と手間のかかる登記が求められます。
二世代以上の株式相続を経て資産管理会社を継続させないと、設立時と廃業時の資産名義変更で手間と費用がかかって、相続対策として割に合わないと言わざるを得ません。
なお、設立時の不動産移転には譲渡した個人に所得税、受け入れた会社に登録免許税がかかります。廃業時の移転には手放した会社側に法人税が、戻された個人に登録免許税がかかります。
設立前の計画、経営の知識が重要
資産管理会社に財産を移せば、相続財産を株式のみに減らせます。ただ設立時の不動産名義変更には所得税・登録免許税がかかり、廃業時には法人税・登録免許税がかかります。
また、設立・廃業時ともに会社の登記費用がかかり、毎年最低7万円の法人住民税は払い続けないといけません。
資産管理会社の活用にあたっては、上記にあげた費用を見積もる計画が重要です。もちろん、相続財産を資産管理会社に移すことで、どれだけ相続税が減るかの試算も重要です。
さらに役員報酬をどれだけ出すかといった、経営面も考えないといけません。役員報酬は年度ごとに金額を決め毎月一定額を出すようにしないと、役員報酬の一部を経費にすることができなくなります。
このように経営の知識や計画性が重要であることから、相続対策としての資産管理会社の設立は、誰にでもおすすめな手段とは言い難いのです。
資産管理会社は「合同会社」の方が良い?
それでは、メリットとデメリットを把握した上で、実際に資産管理会社を設立するとなった場合に、まずは会社の形態を選ぶこととなります。
会社というと株式会社が一般的ですが、他にも様々な種類があります。営利行為を行う形態の会社として株式会社以外によくあるのは合同会社であり、有名企業の中にもわずかですがあります。
資産管理会社を設立するなら合同会社にすべき、というセオリーがあります。
大きなメリットとして、株式会社より経営コストをおさえられることが理由の一つでしょう。
ただし所得にかかる税金に関しては、株式会社と変わらないと言った注意点もあります。
合同会社について、詳しく解説いたします。
合同会社とは
合同会社は2006年5月の会社法改正によって新たに認められた会社形態です。
株式会社では出資者(株主)と経営者は必ずしも一致しないのですが、合同会社では出資者である社員が経営に携わるため、確かに資産管理会社向きとも言えます。
会社設立の登記手続きで払う登録免許税は、株式会社が最低15万円かかるのに対し、合同会社は6万円で済むというメリットもあります。
また会社運営上の取り決めとなる定款に関しても、株式会社は認証に伴う手数料が5万円発生するのに対し、合同会社は認証が不要です。
●合同会社を設立する場合の注意点
合同会社運営上の注意点は、まず株式会社の株式にあたる社員の出資金は、社員が死亡した場合は払い戻すのが原則です。
つまり、社員が1名の合同会社で1名が死亡してしまうと、合同会社は解散となるのです。
相続したい場合は、定款で相続人に承継できる旨を定めておく必要があります。
また会社運営上の注意点として、社員が賛成反対の意思表示をすることにより議決権行使が行われる際には、両者同数になって物事が決まらないようことは避けるべきです。
社員数を奇数にする、奇数にできなければ議決権を2以上持つ社員を定めるなどの対策が求められます。
●税制のメリットは株式会社と変わらない
設立時の登記に伴う登録免許税は別として、設立後に経常的に発生する税金に関しては、税制のメリットは株式会社と変わりません。
例えば、
・法人税率
・法人住民税の最低額(7万円)
・経費にできるものの範囲
・役員報酬にかかる所得税・健康保険料・厚生年金保険料の額
・出資持分(株式に相当するもの)の評価額・引下げ方法
・所得の分散による所得税対策
といった諸々の税制は、株式会社と合同会社で違った取り決めはされていません。
社員死亡時の出資持分を払い戻しでなく相続できるように、定款を作成しておく必要はあります。
ただ株式会社と比べた際の運営コストが明らかに安くなるのを考えれば、資産管理会社は合同会社で設立しておいた方がいいと言えます。
まとめ
相続対策として資産管理会社を設立する方法に関して、解説いたしました。
事実として、資産管理会社を立ち上げることは相続対策となります。さらに家族経営をすることで、そのほかの税金の対策にもなるのです。
しかし、相続税の特例を知らずに資産管理会社を設立したり、無計画に設立して経営し早期に廃業したりしようとすると、普通に相続税を払うよりかえってコストがかかる危険性があります。
その意味では、安易に資産管理会社を設立・運営しようと考えるのは危険です。
設立前に対策前・対策後の各種費用を入念にシミュレーションした上で、運営経費を抑えることができる合同会社で資産管理会社を設立することが最も効果的と言えるでしょう。
この記事で紹介したメリット、デメリットを参考に、本当に資産管理会社の設立が最適なのか検討をしてみてください。
相続について困ったら、財産相続のコンサルティング会社に相談をすることも有効な手段です。
資産管理会社の立ち上げが適しているのかどうかは、人生に関わる大きな決断となります。
そんな時でも、経験豊富な相続のプロフェッショナルなら答えを導き出してくれるでしょう。
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