「株式分散」から生じる問題を解決し、企業の永続的発展を目指す「ファミリーオフィス」
「株式分散」は、どのような経緯で生じるのか
「円滑な事業承継のため後継者へ株式集約を検討しているが、株式が分散してしまっている。」
企業オーナー様から、このようなお悩みが寄せられます。
なぜそのような事態に陥ってしまうのか、まずは背景をお話ししましょう。
事業承継においては、株式を次世代の経営者へどの様に承継していくかが課題となります。
株式の承継には、相続税等の課税が生じますが、納税するためには資金が必要となります。株式を資金化するためには、会社から配当等を受けるか、第三者に売却する方法しかありません。しかしながら、個人が会社から配当を受けた場合には、総合課税で最高税率約56%が生じますし、第三者に売却すれば、ご一族の会社ではなくなってしまいます。
株式の承継では、前述の課題に対応するため、相続税等を抑え次世代へ承継する手法として、多くの税理士法人や金融機関が企業オーナーに提案しているのが「配当還元方式」による承継となります。
配当還元方式とは、少数株主に例外的に認められている評価方式であり、他の評価方式の中で、評価額が最も低額になる方式となります。配当還元方式が適用される要件は、相続時の株式の議決権割合が5%未満等である事が必要となるため、当該方式を適用しようとすると、必然的に「5%未満の株主」が増加し、「株式分散」が生じることになります。
事業への関与度が低い株主が多数。スピーディな意思決定を阻害
過去に当該方式を採用し、現在、株式分散にお悩みの企業オーナー様は少なくありません。
当該方式の適用を決断した世代がご存命の間は、ご一族内の意思疎通やご一族全体の総意をとりまとめることも可能ですが、時間の経過とともに、次世代・次々世代へと株式が承継されるにつれ、必然的に株主数が増加します。結果として、株式分散の拡大をコントロールできない状況となるわけです。
株式分散が拡大すると、株主の内、事業や経営に関与しない株主が生じ、経営に関与する株主との意思疎通が困難となったり、意見対立が生じたりすることもあります。オーナー企業の本来のメリットは「スピーディな意思決定」であるはずなのに、それが阻害されてしまうのです。
変化が激しい今の時代、同族企業の最大の強みである、意思決定のスピードは企業の存続を左右しかねません。早々に解決すべき問題ですが、株式の集約には、多額の資金が必要となり、実施を断念してしまうのです。
また現時点では株式分散が生じていなくても、将来、次世代・次々世代と承継していく中で、当然ながら後継者の人数は増加します。株式の分散が進み、経営への関与度合いも株主間で差が開いていくでしょう。
なお配当還元方式以外の事業承継対策として、一般的な手法としては、「公益財団」へ株式を寄附する手法がありますが、公益財団は、経営には関与しませんので、経営に関与しない株主が増加する点で、同様の問題が生じる可能性があります。このため、配当還元方式や公益財団を適用する場合には、将来を見据え、経営に関与しない株主が増加する点を考慮して、将来世代も維持運営できる様に仕組みを構築する必要があると考えます。
株式分散状態でも議決権を集約できる仕組み――「ファミリーオフィス」
前述の課題を解決するために、私たちが今年1月に立ち上げたのが「ファミリーオフィスサービス」です。当該サービスは、事業を支える一族の一体性を維持・強化するための仕組みの整備・運用を支援する取り組みです。
すでに、ファミリーオフィスの導入により、株式分散状態のまま、事業会社の経営に関与するご一族に議決権を集約できた事例が生まれています。
ある企業では、まさに配当還元方式の適用によって株式分散が生じていました。当該企業では、経営に関与しない一部の株主から株式の買取請求があったため、将来の株式承継方針を見直し、株式集約を検討されていました。
そこで弊社からご提案したのが、「ファミリーオフィス」の導入となります。お客様には、主に以下の点をご説明しました。
●ファミリーオフィスの目的は、ご一族の永続的な発展である
●ご一族の永続的な発展のためには、一族で理念を共有し、一体化する必要がある
●経営に関与されるご一族と経営に関与されないご一族との間の、利害対立を解決や防止するためには、ご一族内のガバナンスの仕組みを構築する必要があり、永続的に運営していく必要がある
●ファミリーオフィスは、株式分散が生じた状態においても、ご一族の総意をまとめる仕組みであるため、株式集約は必須ではない
●いわゆる相続税対策(例えば配当還元方式の適用等)は、部分最適であり、部分最適では、ご一族の永続的な発展は達成できない
●ファミリーオフィスでは、仕組みを運営する「人」の育成を最重要視している。人財育成も仕組み化し、運営していくものである
この考え方と仕組みにご納得されたオーナー様は、株式分散の状態のまま、多額の資金を要することなく、事業経営に関与するご一族へ株式に係る議決権を集約する選択が可能となりました。ご一族企業の永続的な発展のため、事業経営の迅速な意思決定を行うことが可能となったのです。
オーナー企業の節税・相続対策として、「部分最適」の手法は世の中に数多くあります。しかし、それらを小手先で組み合わせるだけでは「木を見て森を見ず」となり、企業の永続的な発展という本来の目的が達成されない結果となるため、本来の目的のための「全体最適」の視点が欠かせないと考えます。
弊社では、親族承継や第三者承継の枠を越え、ご一族の永続的な発展につながる全体最適なプランでお役に立ちたいと考えています。永続的発展につながる事業承継方法、そして永続のための軸となる「理念」の承継を重視し、お手伝いしてまいります。
平岡 絢也
コンサルティング第三事業本部 第一事業部 第二グループ チームリーダー/税理士
大手ファームにて、各種申告業務、税務調査や事前照会対応業務、組織再編を中心としたM&A及び事業承継コンサルティング業務等を経験。現職では、上場オーナーや大規模非上場オーナーを中心とした富裕層及び超富裕層向けの事業承継及び財産承継コンサルティングが専門。
複雑なストラクチャーの構築と助言で数多くの事業承継をサポート。
※役職名、内容等は取材時のものです。
おすすめ記事はこちら