2023.03.17
財産承継
「総則6項」の最高裁判決で注目される「相続対策」のあり方
――家族の状況により異なる最適解。敢えて「何もしない」が有効なケースも
「今まで行ってきた相続対策で大丈夫なのか」
「不動産の購入を検討する際はどの点に注意すればよいか」

ここ1年、主に不動産オーナーを中心とした皆様から私たちのもとへ、このような問い合わせをいただくことが増えてきました。そのきっかけは、2022年4月に出された「総則6項」に関わる最高裁判決です。
今回は、相続税にまつわる判例を参考に、相続対策の適切な進め方についてお話しします。

「相続税節税」より「不動産事業としての健全性・投資効率」を重視すべき

「総則6項」とは、国税庁が公表する財産評価基本通達の規定の一つ。財産の種類ごとに評価方法を定めており、市街地の宅地は路線価方式を原則としている。しかし、この通達の定めによって評価することが「著しく不適当」である場合、不動産鑑定等による時価で評価できるルールです。

つまり、不動産オーナーにとって何を意味するか。
「相続税対策を目的に不動産を取得し、極端な節税を図った場合、路線価評価ではなく鑑定評価(時価評価)を適用した相続税額が課せられる」ということです。

●今回の最高裁での判決事例
・被相続人が90歳のとき、財産総額を超える過大な借金をして、2棟のマンションを購入(計約14億円)
・およそ3年後、被相続人に相続が発生
・相続申告期限内にマンション1棟を売却
・路線価方式により、購入価格の4分の1に圧縮した評価額で計算し、相続税0円で申告

この結果、「著しく公平に反する」と判断されました。路線価ではなく不動産鑑定評価が適用され、数億円の追徴課税の支払いが求められたのです。相続人はこれを不服として訴訟を起こしましたが、最高裁まで争った結果、原告が敗訴しました。

被相続人が他界して相続が発生したのは10年ほど前。その4年後、税務署からの更正処分等を受け、不服を申し立てて審査請求→棄却→東京地裁に提訴し敗訴→東京高裁で敗訴→最高裁で敗訴と、6年にわたり裁判を続けることになりました。

この判決は、新聞や経済紙を始め、メディアでも大きく報道され、不動産オーナーに動揺が広がりました。
そのため、多くの不動産オーナー様の運用を支援している私たちのところにも、「自分は大丈夫か」というご相談が寄せられたのです。

もちろん、私たちのお客様に、今回のケースに当てはまるような運用をされている方はいらっしゃいません。
収益物件を購入するなら「相続税の節税」ではなく、「収益拡大」や「納税資金の確保」などの目的を基本とし、借入金や経費を引いた後に利益が残る「正攻法」の対策をすることが大切なのです。

購入の仕方も、全額借入ではなく自己資金率3割~4割以上としたり、今後、金利上昇や賃料下落など「まさかの事態」が起きても耐え得る資金計画を立てたりするようお勧めしています。
仮に税制改正などが行われたとしても、円満な財産承継をサポートしています。

収益物件購入時には「実質利回り」と「税引き後の手残り」に注目を

確かに、収益物件の購入は相続対策の一つとして有効です。優良な物件を所有して不動産所得を増やすことができれば、対策そのものに問題はありません。
皆さんも、不動産仲介会社から「借入れをして購入すれば相続税が下がります」といった提案を受けたことがあるかもしれません。

ここで注意が必要なのが「利回り」です。不動産仲介会社は「賃料収入が○○円で利回り○%の優良物件です」などと案内しますが、ここで語られるのは、年間賃料収入を物件価格で割った「表面利回り」であるケースが多いのです。しかし、本当に必要な情報は「実質利回り」と「税引き後の手残り」です。

次に重要なのが、自己資金と借入金の割合です。
「借入れを増やして高額な収益不動産を購入すれば、相続税を節税できます」という提案は、相続税の額だけを見れば間違いではありません。
しかし、借入金を増やせば当然ながら返済額も増え、手残り額は減ります。空室率上昇や賃料下落など、計画通りにいかなければ「負動産」になりかねません。

不動産仲介者の営業担当者から提案を受けた場合、次の質問をしてみることをお勧めします。

「運営経費や固定資産税などを引いた後の実質利回りはどのくらい?」
「そんなに借入金を増やして、10年後・20年後の事業収支は大丈夫?」
「人口減少などのリスクを踏まえて、空室率や賃料下落を織り込んだ事業収支を試算してもらえる?」
「ゆくゆく売却したときの想定額は?」
「建物を法人で購入したほうがメリットはあるか?」

おそらく、1番目の質問には答えられるでしょうが、その他の質問には明確な回答が返ってこないことが多いのではないでしょうか。

私たちが「この収益物件を購入すべきか」と相談されたときは、物件そのものの価値だけではなく、資産全体のバランス、相続税の納税、資産の分割が可能かどうかなどを検証した上で総合的に判断しています。
不動産仲介会社は「売るまでが仕事」ですが、私たちは購入後の運用、そして将来の売却や建て替え計画までを視野に入れた相続対策をご提案します。

最善の相続対策は、100家族あれば100通りある

ここまで「不動産」を主眼としてお話ししてきましたが、私たちが相続のご相談をお受けした際には、不動産の価値・収支をはじめすべての資産を洗い出すと同時に、家族・一族の関係や希望を個別にヒアリングしています。
なぜかといえば、最善の相続対策は、100家族あれば100通りあるからです。

資産構成だけでなく、家族構成・年齢・価値観によって最善の対策は異なりますし、対策の優先順位も変わります。私たちは、ご家族一人ひとりの不安やストレスを解消し、家族の関係とその家の未来まで見据えた相続対策のご提案を行っています。

相続の形として多いのは、後継者や長男に財産のほとんどを相続させる「家督相続」。一方、「平等に相続したい」というケースが近年増えています。事業を運営していても、自分の代でたたむ、あるいは子どもには継承させないといった場合、「平等」を望む傾向が見られます。
ところが「平等」を簡単に考えている方が多く、後々トラブルにつながるケースは少なくありません。
何をもって「平等」とするかは、見る人の立場によって異なるからです。

これは、ある上場企業の社長・Aさんのケースです。
Aさんは「子どもたちに平等に相続する」という考えで、遺言状を用意。Aさんの奥様も事業を運営していて資産をお持ちであるため、二次相続での税金対策を踏まえ、一次相続ではほとんど相続させない形としました。それは合理的な戦略といえます。
当初は税理士に相談し、公正証書で遺言状を作成。ところが、後から遺言内容を知った奥様が自身の相続の権利を主張し始めました。

私たちは銀行から「相続で揉めている家族があるので、とりまとめてもらえないか」と依頼を受けて対応。
ご家族の皆さんと協議の場を設けました。
自分への扱いに怒った奥様は、結婚当時から現在まで抱えてきた不満が爆発。母親のそんな様子に、お子さんたちも率直な考えを言いづらくなっている状況でした。
私たちは、ご家族それぞれの想いをヒアリングし、Aさんの真意を皆さんに伝え、結果的には全員が納得いく形で決着を迎えました。

この事例を踏まえて私たちがお伝えしたいのは、相続対策については配偶者・後継者と一緒に考え、全員が納得することの大切さです。
相談していなかったがために、考えや気持ちのすれ違いが生じ、トラブルに発展するケースは多々あります。

そこで私たちは、ご家族が集まって話し合う場をセッティングすることもあります。状況に応じ、「最初は当人と配偶者のみ」→「ご子息たちも交えて」、「最初は当人とご子息」→「配偶者も交えて」、あるいは「最初は相続人のみ」→「当人も交えて」といったように、参加する顔ぶれや話す順番を調整しながら進めています。

私たちコンサルタントは話し合いを円滑に進めるべく、立ち会って司会を務めます。
第三者がいることで、当事者は感情的になり過ぎず冷静に話し合うことができますし、当人たちが言い出しにくいことや聞きにくいことも、私たちが代わりに切り出します。
話し合いが行き詰ったときには、「このような事例もあります」「このポイントを気にされる方もいます」などと観点を提供することで、対話が進みやすくなることもあります。

このようなファシリテーションはテクニックを必要とするものですので、ぜひ長年経験を積んできたコンサルタントにお任せいただきたいと思います。
私たちはご家族の関係性を早い段階でつかみ、課題を発見・分析することを心がけています。そして、優先順位をつけ、1カ月~半年~1年単位での行動プランをご提案し、実行まで伴走します。

「手段」が「目的」にならないように、5つの視点で検証を

資産家の皆さんには、さまざまな事業者から相続対策手法の提案が持ち込まれるかと思います。それらは、場合によっては課題解決の手段となり得ますが、手段そのものが目的になってはいけません。
状況によっては、「何しない」ことが最善策であるケースも少なくないのです。
以下5つの視点から検討することで、ご家族の状況・財産の種類によって最適な形を選択しましょう。

●円滑な財産承継
●円滑な経営承継
●納税資金の確保
●財産の運用と保全
●まさかへの備え

ご自身の相続対策が現状のままでよいのかどうかを診断するために、下記の項目をチェックしてみてください。

【チェック項目】
□誰にどの財産を渡すか決めている
□遺言書を作成し、その内容を家族が理解・納得している
□不動産は地域や種類、築年数をバランス良く分散している
□不動産の収支は返済利息や空室率が上昇しても心配ない
□今だけでなく、5年、10年後の想定相続税を把握している
□同族法人の株式の相続税評価を把握できている
□認知症になってしまっても家族が困らない状態になっている
□預貯金が円に偏っていない

もし一つでも不安なものがありましたら、ぜひ私たちにご相談いただきたいと思います。

相澤 光 
コンサルティング第二事業本部 第三事業部 副部長

2014 年に株式会社青山財産ネットワークスに入社。入社後は土地持ち資産家、金融資産家、企業オーナーへの財産コンサルティングに従事。その経験から、財産のみならず非財産(想い)の承継が一家の永続的発展に不可欠と確信し、クライアントの本質的な課題解決を支援。
資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士

※役職名、内容等は取材時のものです。


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