自分の子や孫などに財産を残す手段、あるいは親族から財産を受け取る手段として、「贈与」と「相続」という方法があります。
贈与税と相続税で納める税金の額が異なるのであれば、負担が少ない方を選択したいというのが自然な考えと言えるでしょう。
では、贈与税と相続税にはどのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、財産の受け渡しを検討している方に向けて、贈与税と相続税の基本的な仕組みや、それぞれの税率・基礎控除額・特例などの比較、覚えておきたい制度などについて解説していきます。
贈与税と相続税の概要
財産を他者に贈与するまたは相続させると、それぞれ贈与税と相続税が発生する可能性があります。
性質としては似ているように感じる贈与税と相続税ですが、実際は異なる部分も数多くあります。
それでは、まず贈与税と相続税の基本的な仕組みについて、それぞれ見ていきましょう。
いずれも財産を受け取る側にかかる税金
贈与税は財産の贈与を受けたときに、相続税は遺産相続が発生したときにかかる税金です。
贈与税も相続税も、所有している財産を渡す側ではなく受け取る側に課税されることが共通点です。
贈与税も相続税も財産の金額によって税率が変動し、財産額が大きくなると税額も増えます。
ただし、いずれの税金にも各種控除や非課税制度等があり、贈与財産や遺産の金額がこれらの金額を上回っていなければ税金はかからない仕組みです。
贈与税の課税対象
贈与税は、個人から何かしらの財産をもらった際に課税されます。財産とは、現金や預貯金、株式などの金融商品、土地・建物などの不動産、車など多くのものが対象範囲です。さらには、保険会社から受け取る保険金、負債の肩代わり、無利子や極めて低い金利での金銭の借り入れなどによって得た利益についても贈与税の課税対象となります。
相続税の課税対象
贈与税と同じように、現預金や金融商品、書画骨董、不動産といった財産が相続税の課税対象です。また、死亡保険金、死亡退職金などの「みなし相続財産」も同様に課税されます。税を支払うことになるのは、被相続人(亡くなった人)から財産を受け取った相続人で、相続人は主に被相続人の配偶者や子、孫といった親族です。
2024年1月に贈与と相続に関する税制が変更
「令和5年度 税制改正」により、2024年1月1日から贈与や相続に関する課税のルールが大きく見直されました。
では、具体的にどのように変わったのでしょうか。2023年までと2024年からの制度の違いについて、確認していきましょう。
2023年までの生前贈与加算
贈与税には「暦年課税」という制度があります。暦年課税とは1年間に贈与された合計額に対して課税される制度で、1人あたり年間110万円の基礎控除があり、年間で受けた贈与が110万円以下であれば贈与税を申告する必要がありません。
しかし、相続開始前3年以内、つまり被相続人が死亡日以前の3年間に贈与した財産については、年間110万円以下であっても相続財産への持ち戻しが行われ、相続財産に加算して相続税が計算されます。
この仕組みを「生前贈与加算」と言い、2023年まではこれが適用されていました。
2024年からの生前贈与加算
2024年1月1日から、暦年課税による生前贈与加算の対象期間が変わりました。
2023年までは3年間だった期間が2024年から徐々に延長され、2031年には7年間となります。
つまり、毎年110万円以下の贈与で相続税の対策をしていたとしても、8年以上続けなければ効果を得られなくなるため要注意です。
ただし、延長された4年間に受けた贈与については、合計額から100万円が控除されます。
贈与税と相続税の違い
贈与や相続による財産の授受により贈与税や相続税が発生することになりますが、当事者として気になるのは、どちらがより多くの税金を払うのかという点ではないでしょうか。
そこで知っておきたいのが、税率と基礎控除額、特例制度です。これらによって納めるべき税金の額は変わります。
それでは、贈与税と相続税のそれぞれの税率、基礎控除額、特例制度を確認していきましょう。
税率表
◎贈与税の税率
贈与税の税率には、「一般税率」「特例税率」の2種類があります。
贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の人が、親や祖父母など直系尊属から財産を贈与された場合に、特例税率が適用されます。
一般税率は、それ以外の贈与の場合です。
<贈与税の税率>
・一般贈与の場合
200万円以下 |
10% |
なし |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1,000万円以下 |
40% |
125万円 |
1,500万円以下 |
45% |
175万円 |
3,000万円以下 |
50% |
250万円 |
3,000万円超 |
55% |
400万円 |
・特例贈与の場合
200万円以下 |
10% |
なし |
400万円以下 |
15% |
10万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
1,000万円以下 |
30% |
90万円 |
1,500万円以下 |
40% |
190万円 |
3,000万円以下 |
45% |
265万円 |
4,500万円以下 |
50% |
415万円 |
4,500万円超 |
55% |
640万円 |
◎相続税の税率
相続税は、あらゆる相続によって取得した財産を合計した額にかかる税金です。
現金や預貯金、株式などの有価証券、不動産など相続財産の合計から、被相続人の借入金などマイナスの財産、さらにはお葬式の費用などを差し引いた金額が、相続税の課税価格となります。
その課税価格から基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を差し引いた金額が、相続税の課税遺産の総額となります。相続税の税率は、以下の通りです。
<相続税の速算表>
1,000万円以下 |
10% |
なし |
1,000万円超3,000万円以下 |
15% |
50万円 |
3,000万円超5,000万円以下 |
20% |
200万円 |
5,000万円超1億円以下 |
30% |
700万円 |
1億円超2億円以下 |
40% |
1,700万円 |
2億円超3億円以下 |
45% |
2,700万円 |
3億円超6億円以下 |
50% |
4,200万円 |
6億円以下 |
55% |
7,200万円 |
上記の通り、贈与税と相続税の税率を単純に比較した場合、同じ財産であれば贈与税の方が相続税よりも税率が高いことがわかります。
基礎控除額
◎贈与税の場合
贈与税は年間で110万円の基礎控除があります。これは、1年間に受け取った財産の合計が110万円を超えた場合に課税される仕組みで、複数人からの贈与の合計が110万円を超えても課税されます。
1年間に贈与を受けた財産の合計が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
◎相続税の場合
相続税はすべての相続でかかるわけではなく、相続した財産の相続税評価額の合計から基礎控除額を差し引いた額等がプラスになった人にのみ、申告・納付の義務が生じます。
基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、法定相続人が1人であれば基礎控除額は3,600万円、2人なら4,200万円となります。
このように、法定相続人の数が多いほど基礎控除額は大きくなる仕組みです。
特例制度
◎贈与税の場合
贈与税には、税額が減額される特例がいくつかあります。たとえば「配偶者控除」は、婚姻の期間が20年以上の夫婦を対象にした控除です。
居住用不動産または居住用不動産を取得するための資金を配偶者に贈与した場合、2,000万円の贈与税の配偶者控除と110万円の基礎控除の合計額2,110万円までは、税金がかかりません。
また、教育資金について受贈者1人あたり最大で1,500万円まで非課税になる特例や、結婚・子育て資金の贈与に関して1,000万円まで非課税となる特例もあります。
◎相続税の場合
配偶者が遺産を相続する場合、基礎控除に加えて配偶者控除の特例も適用されます。
具体的には、「相続した遺産の総額が1億6,000万円」もしくは「配偶者の法定相続分」の、いずれか大きい方があてはまります。
たとえば、相続人が1人で、相続財産全体の評価額が1億5,000万円の場合。基礎控除額は3,600万円であるため、本来は相続税が発生します。
しかし、相続人が配偶者であれば1億6,000万円の配偶者控除が適用されるため、相続税は課されません。
また、土地の相続に関し、一定要件を満たす土地であれば相続税の課税価格を最大80%減額できる小規模宅地等の特例も活用できます。
暦年贈与の贈与税と相続税の税額比較
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)において、基礎控除額である110万円以下の贈与であれば贈与税が非課税になるルールを用いた贈与方法です。
暦年贈与を活用して生前贈与をすれば、贈与税に課税される財産を減らす効果が期待できます。
では、暦年贈与の贈与税と相続税では、税額にどの程度の違いが生まれるのでしょうか。
贈与税と相続税の金額を比較するために、財産5,000万円を子2人に生前贈与または相続する場合を例に計算します。
贈与税額の算出
財産5,000万円を子2人に生前贈与する場合、子はそれぞれ2,500万円ずつ受け取ることになります。特例税率が適用される場合、贈与税は下記の通りとなります。
課税財産:2,500万円-110万円(基礎控除)= 2,390万円
贈与税額:2,390万円×45%-265万円(控除) = 810.5万円
つまり、子1人に課税される贈与税は810.5万円となります。
相続税額の算出
法定相続人が2人の場合、基礎控除の額は4,200万円(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)です。
課税財産:5,000万円-4,200万円(基礎控除)= 800万円
相続税額:800万円÷2 = 400万円
相続税の場合、子1人に課される税額は、400万円×10%で40万円となります。
どちらの税額が大きいかは一概には言えない
上記の例の場合、贈与税が810万円、相続税が40万円と税額に大きな違いがあります。そのため、贈与税の方が多くの税を払うように見えるかもしれません。
ただ、これはあくまで一例であり、財産の種類や渡す人と受け取る人の関係によって控除に適用できる特例制度は変わります。
そのため、どちらの税額が大きいかを一概に言うことはできません。
贈与税と相続税を通算できる制度がある
暦年課税では年間110万円以下の贈与は非課税ですが、その反面、一度に多額の贈与をすると贈与税が課税されます。
しかし、相続が発生した際に「相続時精算課税制度」という仕組みを利用することで、子や孫に円滑に財産を渡すことが可能です。
では、この相続時精算課税制度についての概要や利用できる条件などを見ていきましょう。
相続時精算課税制度とは?
生前贈与をする場合、2,500万円までは贈与税が課されないという制度です。
なお、贈与額が累計で2,500万円を超えた場合は、超えた部分の額の20%を贈与税として納めることになります。
ただ、その贈与税は相続時に相続税額から差し引かれ、相続税額が少ないと差額が還付されます。さらに税制改正により、2024年から新たに年間110万円の基礎控除枠が設けられました。
この変更により、相続時精算課税では毎年110万円までは贈与税の申告が不要です。
さらに、暦年贈与の場合と異なり、基礎控除額については相続財産に加算する必要もないため、贈与税も相続税もかかりません。
相続時精算課税制度を利用する条件
相続時精算課税制度を適用するには、条件があります。
適用対象となるのは、60歳以上の親または祖父母などから、推定相続人である18歳以上の子や孫などへの贈与です。
また、相続時精算課税は一度選択すると暦年贈与に変更することはできません。税制改正により相続時精算課税制度の活用が盛んになる可能性がありますが、どの制度が有利か判断することは難しいと言えます。
そのため、悩んだときには相続の分野に強いプロフェッショナルに相談することが重要です。
まとめ
親族間の財産の受け渡しの際には、贈与税と相続税の問題が浮上します。
各家庭の財産状況や家族構成などによって税率や控除、適用できる特例などは異なります。
そのため、自分に適した贈与の方法を選択するためには、贈与税と相続税に関する仕組みの理解を深めることが必要です。
贈与税や相続税は、今後の税制改正により課税強化されていくことが予測されており、安易に贈与を実行した結果、相続発生時には財産に持ち戻されることもありますし、将来に禍根を残すこともあります。
従って、全体を俯瞰して、目的に沿って実行計画を立てることも重要になってきます。ただ、専門知識が不十分な場合、何をどうすればいいのかわからないかもしれません。
そのようなときには、税金や相続に関する問題の専門家に相談してアドバイスを受けたり、手続きを依頼したりすると、自分にとってより良い結果を得られるでしょう。
青山財産ネットワークスの特徴
青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が 150 名以上在籍し、30 年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、資産の管理・運用・相続に関するさまざまなご提案をしております。
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「相続時精算課税って?」「生前贈与を行う際の注意点は?」
贈与税にまつわる気になる情報を財産のプロが解説します。
監修者
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青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士 |
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青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光 |
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。
・著書 青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位
※役職名、内容等は2024年2月時点のものです。
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