M&Aや事業承継などを実行する際には、「その企業にどれくらいの価値があるのか」を正確に判断する必要があります。その点において重要な役割を果たすのが、企業の価値を算出する「バリュエーション」です。
バリュエーションの結果によってM&Aの実施に対する判断が変わる可能性もあるなど、投資を行う上で非常に重要なプロセスです。しかし、具体的にどのような手法や指標を用いるかまでは詳しく知らない方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、M&Aや事業承継を検討中の方に向けて、バリュエーションについての基本的な考え方や、バリュエーションの種類や重要な指標、バリュエーションに臨む上での注意点などについて解説していきます。
バリュエーションとは?
バリュエーションは、企業がM&Aや事業承継などを行うにあたり、極めて重要な意味を持つ工程です。それではまず、バリュエーションの定義や概要、バリュエーションと混同しやすい用語について解説していきます。
バリュエーションの定義
バリュエーションは英語で「valuation」と表記され、ビジネスの分野では「企業価値評価」という意味を持ちます。対象となる企業全体の価値を評価することであり、会社や事業の収益性、所有している資産や負債の額などはもちろん、競合となる会社の存在も価値に加味されます。
また、現在の企業価値だけではなく、将来的な収益力や無形資産など含めて評価されるのもバリュエーションの考え方です。企業価値のほか、株価など金融商品の評価でも使われます。
バリュエーションと混同しがちな用語
◎事業価値
企業価値という言葉が企業そのものの価値を指す一方で、事業価値は企業の事業活動がもたらす価値を表す言葉です。具体的には、事業を営む上で必要な資金、土地や機械などの有形固定資産、特許権や商標権といった無形固定資産によって評価されます。
投資用の有価証券や事業に関連しない不動産などの非事業資産は、事業価値には含まれません。
◎株主価値
企業の運転資金は、株主からの出資や金融機関などからの借入金が多くの割合を占めます。株式価値とは、株主の出資で形成されている部分で、企業価値は会社全体の価値のことです。
一方、株主価値は自己資本のみの価値を示すので、企業価値から借入金などの負債価値は差し引かれます。
◎買収価格
買収価格は、他の企業を買収しようとする企業と自社を売却したい企業とが交渉を行い、その結果として決まった取引価格のことを指します。
企業価値はさまざまな要素を計算して算出された価値であるのに対し、買収価格は交渉で決まった金額であるという違いがあります。
◎時価総額
発行済みの株式数に株式市場の株価を掛けた金額が時価総額で、基本的に株式市場に上場している会社を対象としています。
基本的に時価総額が高い企業は、株式市場から「価値の高い企業」と評価されていると考えられています。企業価値は、この時価総額に有利子負債の金額を足したもので、「企業価値=時価総額+有利子負債」として表すことが可能です。
バリュエーションの種類
ひと口にバリュエーションと言っても、いくつかの種類があります。
一般的に「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」の3つに分類されていますので、それぞれに特徴が使われる場面について見ていきましょう。
インカムアプローチ
対象となる企業において、将来的に期待される収益やキャッシュフロー予測に基づいたリスクも含めて、企業価値を算出する方法です。過去の実績や現在の状況だけではなく、将来の成長を反映できるという特徴があります。
ただ、将来の収益性やキャッシュフローは、あくまで企業が作成した事業計画に基づいて算出されます。そのため、客観的かつ正確に評価されるべき企業価値に、対象企業の主観が大いに反映されることになるので注意が必要です。
なお、インカムアプローチには、代表的な方法として「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」の3つがあります。
コストアプローチ
コストアプローチとは、企業の貸借対照表に記載されている純資産と負債をもとに、企業価値を算出する方法です。貸借対照表の数字を使うだけの方法なので素早く計算ができ、客観性も担保されています。
対象企業の過去から現在の状況まで、つまり「過去の実績」を評価するのがコストアプローチです。将来の収益性や無形の資産など「未来の価値」については含まれていません。そのため、企業清算の際によく用いられるものの、M&Aの場面ではあまり採用されません。
コストアプローチは、さらに「簿価純資産法」と「時価純資産法」の2つに大きく分類されます。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチのマーケットとは、「市場」を意味しています。その上でマーケットアプローチとは、対象となる企業と事業内容やビジネスモデルが似ている同業他社を探し、その企業の経営データや時価総額を参考にして企業価値を算出する方法です。
株式市場や実際に発生したM&A取引の価額を参考にするため、市場環境が反映されやすく客観性も高いという特徴があります。
その反面、評価では企業の個別の事情が反映されにくい点には要注意です。類似している企業やM&Aの成立案件が見つからない場合は、マーケットアプローチによる算出はできません。
主な算出方法として、「マルチプル法」「市場株価法」「類似取引比較法」「類似業種比較法」の4つの種類があります。
バリュエーションの主な指標
バリュエーションを実施する中で、特に重視すべき指標がいくつかあります。こちらでは、バリュエーションで覚えておいた方がいい指標について紹介します。
株価純資産倍率(PBR)
PBRとは、英語の「Price Book-value Ratio」を略した言葉で、日本語では「株価純資産倍率」と言います。株価と企業の純資産との関係を表しており、収益性は反映されません。PBRは、低いほど株価は割安と評価されます。なお、PBRは以下の計算式で求められます。
「時価総額÷純資産」または「株価÷ひと株当たりの純資産」
PBRが1倍未満であれば株価が純資産に比べて低く、1倍以上なら株価が純資産に比べて高いことを意味しています。
株価収益率(PER)
PERは「Price Earnings Ratio」の略で、日本語では「株価収益率」を意味する言葉です。企業の株価と純利益の関係を表し、利益水準に対して割高か割安かを判断するために用いられます。
PERが高いと利益と比較して株価が割高、低ければ割安という考えで、PERが高い場合、市場は対象企業の成長や将来の利益に期待していることを表しています。
なお、日本の上場企業では15倍が目安とされており、15倍以下であれば株価は割安の可能性があります。PERの計算法は以下の通りです。
「時価総額÷純利益」または「株価÷ひと株当たり純利益」
PERは業種によって水準は異なります。IT企業や製薬会社などはPERが高い傾向がありますが、電力会社や鉄鋼メーカーなどは低めになっています。こうした現象が起こるのは、投資家の期待度が業界によって異なることが主な原因です。
配当利回り
配当利回りは株価に対する年間配当金の割合を示す指標で、一株当たりの年間配当金を現在の株価で割った数字です。たとえば、現在株価が1,000円で配当金が年間10円であれば、配当利回りは1%となります。
予想配当利回りが高いほど少ない投資額で受け取れる配当金は大きくなりますが、配当の源泉は企業の利益なので、対象企業の業績悪化により減配や無配になってしまう場合もあります。
バリュエーションを実施する際の注意点
バリュエーションを実施する際に注意しておきたいポイントがいくつかあります。では、どのようなことに注意するべきなのでしょうか。代表的な例を挙げて、解説していきます。
現状分析と問題点・課題の抽出
事業承継に向け、まずは自社が置かれている現在の状況を分析することが重要です。保有資産や負債などの財務状況をはじめ、経営理念、商品力、他社と差別化できる点など、自社の強みだけでなく弱みも客観的に把握するのがポイントです。その中から、経営上の問題点や課題などを抽出します。
自社の問題点や課題を見つけられたら、事業承継を実現するために優先すべき事柄の優先順位を付けていきましょう。
非常に複雑で算出が難しい
バリュエーションにはさまざまなアプローチがあり、それぞれのアプローチの中でも算出方法が細分化されています。たとえば、インカムアプローチだけでも「DCF法」「収益還元法」「配当還元法」の3つの算出方法があります。
このように複数の種類から最適な手法を選び取るためには、それぞれの手法の特徴を理解しなければなりません。さらに、算出自体にも知識が必要です。
このように、バリュエーションは複雑で難易度が高いため、実行する際には専門家に依頼した方が安心して進められるでしょう。
結果が実際の取引価格とは限らない
企業のM&Aの場面では、バリュエーションが実施されることが多くなっています。ただし取引価格は、バリュエーションの結果がそのまま反映されるわけではありません。売り手と買い手が合意して決まります。
バリュエーションの結果は双方の希望価格の提示や交渉材料として効果を発揮しますが、最終的な価格は交渉によって決まることをM&Aに臨む際には念頭に置く必要があります。
まとめ
企業の価値を客観的に評価する行為であるバリュエーション。さまざまな手法が確立されていますが、それぞれにメリットとデメリットがあり、算出方法も複雑です。
実行するには高度な専門性が求められるため、より公正で精度の高い結果を求めるのであれば、バリュエーションの経験が豊富な専門家に評価を依頼することが適切と言えるでしょう。
青山財産ネットワークスでは、企業のバリュエーションも行っています。バリュエーションの実施に当たっては、適切な評価手法の選択に努め、評価手法、前提条件等を事前にお客様へ丁寧に説明します。
青山財産ネットワークスの特徴
青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。
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