2024.08.23
事業承継
廃業危機だった会社の財務を改善。M&Aを成功させ、従業員と資産を守る
顧客情報:娯楽業、売上規模:20億円、提供サービス:財務改善コンサルティング・M&A
今回ご紹介するのは、過剰債務状態に陥った会社が財務改善コンサルティングを経て、M&Aに成功したという事例です。
どのようなプロセスによって従業員とオーナーの資産を守ることができたのか、詳しく解説していきます。

目次
1.売ろうにも売れない会社をどうするか
 1-1.財務改善コンサルティングで複数のケースを想定
2.事業のスリム化を行い、黒字に改善
 2-1.現状維持が可能かのシミュレーションを行い、早めの撤退を決定
 2-2.撤退後の不動産の有効活用
 2-3.社員へのフォロー計画を策定
3.子どもたちの未来とファミリーの資産を守りたい
 3-1.最高値で買ってくれる会社のデータを活用
4.まとめ:早めの現状把握~M&A後の資産運用・承継まで
 4-1.大切な資産を守り、次々代へつなぐ
 課題 
  • 業界全体が縮小しており、先行き不安があった
  • 赤字店舗があり、過剰債務状態に陥っている
 提案
  • 赤字店舗を売却し、債務返済を行うとともに、残った店舗を黒字化
  • 財務改善後のM&Aの実施

売ろうにも売れない会社をどうするか



「やめられるならやめたいーー」。

そう悲痛な思いを持って相談に来られたのは、娯楽業を営み、3店舗を経営するA社の社長です。創業社長の娘と結婚し、後継ぎとして経営を引き受けました。しかし、新型コロナの流行や顧客数の減少により業界全体が縮小し、全盛期6店舗あったものの今日では3店舗まで数を減らしていました。

「子どもたちに迷惑をかけて申し訳ない」。創業者である先代はそう嘆かれます。万が一、このまま倒産したら、従業員は路頭に迷い、家族の資産も大きく減らしてしまう。そうならないように備えたい。そして、自分たちで会社を存続させるのが難しければ、何とか良き会社へ売却したい、というのがご家族の願いでした。

とはいえ、初期投資が大きい娯楽業。同社も1店舗10億円ほどの費用が掛かっており、そこそこの銀行借入が残っています。投資が大きい割に最近は利益が出ず、直近期はトータルで8,000万円ほどの赤字が出てしまいました。業績悪化による過剰債務状態で、売ろうにも売れない状態だったのです。

財務改善コンサルティングで複数のケースを想定

ご相談を受けたとき、正直に言うと相当厳しい案件だと思いました。そこで、まず財務改善コンサルティングを提案させていただきました。

行ったことは、現状把握と徹底的なシミュレーションでした。業務改善の努力はするにせよ、現状のまま継続した場合何年もつのか。赤字店舗だけ撤退して事業を継続した場合はどうか。店舗だった不動産は売却するのか、賃貸にするのか。あるいは事業ごと他の会社に売却してしまうのか。または廃業かーー複数のケースを想定し、数字を算出していきました。

そうしてご提案した今回の解決のポイントは、①事業のスリム化、そして②M&Aです。

事業のスリム化を行い、黒字に改善

事業を継続するにも、売却するにも、負債が大きいままだと何も動けないため、最初に事業のスリム化に着手しました。

現状維持が可能かのシミュレーションを行い、早めの撤退を決定


既存の3店舗のうち、1店舗が大幅赤字だったため会社全体では8,000万円ほどの損失を出していました。できる限りの業務改善をして1年後、3年後、5年後に利益を出せるのか、それぞれにおいて資金繰りはどうなるのか、成り行きバージョン、強気バージョン、弱気バージョン、3パターンのシミュレーションを実施しました。
その結果、強気で考えても事業継続するのは難しいことがわかり、まず赤字店舗はできる限り早く撤退させたほうがいいとアドバイスさせていただきました。

撤退後の不動産の有効活用

赤字店舗を撤退したとして、その後の不動産をどうするのかが会社の財務状況には極めて重要な影響を与えます。過剰債務の状態から脱出できれば、第三者にしろ役職員にしろ事業承継者が現れる確率が高まるものです。
店舗だった場所を賃貸する場合、どういう会社が高値で借りてくれるのか、もしくは、売却した方がよいのか、売却する場合にはどういう会社が最も欲しがるのかなど不動産の有効活用について調査しました。

当社には土地持ち資産家や不動産オーナーのお客様がたくさんいらっしゃるので、多種多様な業種の会社に賃貸条件や売却条件をヒアリングすることが可能です。今回も、どういった業種の会社が高値で借りてくれそうか、買ってくれそうか、内々の調査を行いました。

そうして、ある企業に想定より非常に高い金額で不動産を売却することに成功したのです。

社員へのフォロー計画を策定

赤字だった1店舗を畳みましたが、最も大きい店舗だったため、社員へのフォローが必要でした。社員説明会や個別面談を行ったうえで、残る社員の方のための雇用保全計画を当社で策定させていただきました。転職を希望される方には、再就職の支援や退職時の有給休暇の買取りなどを実施しました。

不動産を売却して得たお金で上記のような社員フォローを行い、借金も大幅に返済し、ようやく黒字の会社への転換と財務改善を果たすことができました。そしてようやく、ここからどうしていきたいのか、後継ぎである社長と先代社長のお二人と改めて話し合いを行いました。

子どもたちの未来とファミリーの資産を守りたい


「黒字になったとはいえ、自分たちだけで運営しても成長は難しい。それなら興味を持ってくれる会社に売却したい。従業員のためにもなる」。後継ぎの社長は、その想いを強くされたといいます。

後継ぎのご年齢は40代。「今だったら会社を売っても、他で働くことができる」と本音を漏らします。

それに対し、大株主である先代も「私が会社への思い入れをひきずって、子どもたちに迷惑をかけたくない。子どもたちの思う通りにしてもらい、なるべく資産も残してあげたい」と、理解を示されていらっしゃいました。

最高値で買ってくれる会社のデータを活用

さて、ここから会社は無事に売れるのか。当社はこれまで、企業オーナーのお客様と、いかに収益をあげ、会社の価値をあげていくかを考え続けてきました。不動産のみならず事業自体を鳥瞰して見られることが強みです。さらにいえば、当社には「どのような会社が高く評価されるのか」という知見やデータと「どのような会社が買手候補なのか」を探索するネットワークがあるのです。

今回のケースでは、もともと縮小している業界ということもあり、それほど高い金額とは言えませんが、まだ成長余力のある企業を探し出し、無事に売却することができました。その結果、従業員は引き継がれ、オーナーファミリーは銀行借入の債務保証から無事免れることができ、株の売却金も手にすることができたのです。

早めの現状把握~M&A後の資産運用・承継まで

今回のケースの場合、店舗別損益と不動産の価値を把握し、事業継続、M&A、廃業、不動産活用等、様々な要素を加味して、複数のパターンを徹底的にシュミレーションした結果、いくつかの選択肢を見出し、その中で最善の選択肢をお客様にご提示することができました。

ただ、過去には、問題を先送りして時間が経つことで、選択肢が狭まっていき、良い選択肢が取れなかったケースを何度も見てきました。取れる選択肢を検討する上でも、早めの現状把握が非常に重要になってきます。

大切な資産を守り、次々代へつなぐ

加えて認識しておきたいのが、M&Aに成功して億単位のお金が入ったとして、その運用方法や承継方法の巧拙がファミリーの未来を変えてしまうこと。定期的な給与がなくなった後の生活費の捻出に加え、中長期の視点での分散・積立投資や相続・納税資金対策がとても大切になります。

当社では、ご家族の想いを尊重しながら、大切な資産を守るためのご提案もいたします。会社の財務とご家族の資産の総合的なコンサルティングを通じて、2代、3代と家族をつなぐお手伝いができればと思っています。
 

担当コンサルタント

島根 伸治(公認会計士)
取締役執行役員 事業承継アドバイザリー・ファンド事業部長

大手監査法人、メーカーを経て2001年当社グループに入社。
多くの企業オーナー様と会社の将来について話し、長きにわたり財務・資本政策や事業承継のご支援を実施。経済ショックや自然災害なども多発する今の成熟社会においては、必ずしも「成長」でなく、「縮小均衡」させて承継を図ることも有用と実感している。
他社様と「縮小型」の事業承継ファンドを運営し、株主となってご支援する例もある。

※役職名、内容等は2024年8月時点のものです。

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