2019.10.30
健康
心と体の健康セミナー

「人生100年時代」。老後を豊かに過ごすために

「人生100年時代」が到来。青山財産ネットワークスでは、「財産」の面において支援サービスをご提供する一方、「心」と「体」の健康も大切であると考えています。そこで、高齢者の心と体に関する専門家をお招きし、セミナーを開催致しました。当日語られたメッセージをダイジェストでお届けいたします。

生きたい自分の人生に備える

−認知症というまさかにどう備えるか−

認知症リスクを不安視する方が増えています。認知症に対応する財産承継の手段は複数ありますが、思いがけぬ落とし穴が待ち受けていることも。自分の意思が正しく反映される手段を選択することが大切です。

株式会社青山財産ネットワークス
代表取締役社長

蓮見 正純

公認会計士・ 税理士。青山監査法人等を経て、1996年にプロジェストを設立。2008年より現職。「個人の資産家」「企業のオーナー」に対し、財産の承継・運用・管理の総合的コンサルティングを手がける。

高齢者のこころとからだ

いろいろな役割から解放された高齢期は、人生でもっとも自由な時期。積み重ねた経験や知恵を活かして、新たなチャレンジもできる。年を取ることは、皆さんが思う以上に実は素晴らしいことなのです。

黒川由紀子老年学研究所 主宰 上智大学 名誉教授
黒川 由紀子

臨床心理士・保健学博士。東京大学医学部精神科医学教室、上智大学教授、慶成会老年学研究所所長等を経て、現職。これまで主として病院、福祉施設等で、認知症などの高齢者と家族のこころを支える業務に従事。近年は企業での講演・研修にも携わる。

豊かな老後は自分でつくる

年を取って身体の自由が利かなくなったとき、家族や社会から受けられるサポートには限界があります。老後の生活を豊かに過ごせるかどうかは、自分自身の心の持ち方、そして「早めの準備」にかかっています。

医療法人社団 慶成会 会長
大塚 宣夫

1942年生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後に精神科医として病院勤務、フランス政府給費留学生として2年間渡仏。80年、高齢者専門の療養型病院として青梅慶友病院を開設。2005年、よみうりランド慶友病院を開設。2010年 慶成会会長に就任。

「老い」にどう向き合っていくか。認知症などの“まさか”に備える

高齢期の心と体の変化に対応し、豊かな老後をつくるために知っておきたいこと、心がけておきたいこととは――。
3人の専門家が、それぞれの見地からアドバイスとメッセージを送ります。


黒川 由紀子

高齢期は人生で一番自由な時期

高齢期の心の変化には、2つの方向性があります。「失っていく」「衰えていく」という不安を感じがちである一方、「成熟していく」という感じ方もあります。高齢者の方々はすべて、長い人生の歴史を持っていらっしゃいます。年をとるごとに失うものも増えていきますが、苦しみや困難を乗り越えてきたからこその強さも持っている。経験を重ねた分、知恵も集積されています。
高齢期は、仕事においても家庭においても、いろいろな役割から解放される時期。これまで身に付けた強さや知恵を活用して、新しいことを始めるチャンスであり、人生でもっとも自由な時期であるといえるでしょう。

「幸福感」は年を重ねるほど高く

調査によると、若者はネガティブな情報に目を向けやすいのに対し、高齢者はポジティブな情報を重視する傾向が見られます。そして、さまざまな調査・研究から、「幸福感」は、実は若い世代よりも高齢者のほうが高いという結果も出ています。年を重ねるごとに「幸せ」と感じる人の割合は増えているのです。
高齢期とは、自由な時間を謳歌でき、幸せを感じる小さな時間を増やせて、1人の時間も楽しめる時期。新しいことに挑戦することができて、挑戦してダメならすぐにやめたって構わない。年を取るということは、実は皆さんが思っているより素晴らしい。これが約40年に渡り高齢者の研究を続けてきた私の結論です。


大塚 宣夫

豊かな老後は自分でつくる

高齢者は皆さんこうおっしゃいます。
「私はピンピンコロリで逝きたい」と。元気で長生きし、病気に苦しむことなく突然コロリと死にたいということですが、残念ながら、これを実現できる人は5%以下と云われています。
身体が不自由になったとしても家族が何とかしてくれる、社会が助けてくれると楽観視しがちですが、皆が余裕のない現代ではそれも難しい。他者のサポートは期待できないものと考え、豊かな老後は自分自身でつくらなければなりません。

認知症になる前にやるべきこと

特に「認知症」は、皆さんが不安に思う課題です。人間の臓器の耐用年数は70年、脳も同様です。70歳を過ぎたら、誰にでも認知症になるリスクがあります。TVや雑誌ではよく認知症の予防法が紹介されていますが、1万7千人超の高齢者の最晩年に関わってきた私の経験からしますと、それらはほとんど効果がありません。やりたくない運動や計算などの「予防法」を頑張った結果、認知症を発症してしまう人は大勢いるのです。
ですから苦労して予防対策に励むよりも、認知症になったらできないことを早め早めにやっておくほうが、時間の使い方としてよほど有効です。
中でも、これまで貯めたお金を「生きる」形で使うことは大切です。老後の不便・不自由・寂しさ・気兼ねといったものを解消するために使い、残すお金も生きるように準備しておきたいものです。


蓮見 正純

「まさか」の認知症に備える

私は30年にわたって財産承継・事業承継のお手伝いをしてきましたが、近年「家族が認知症になったら」というご相談をいただくケースが増えてきました。
認知症になると、資産をどう活用するかの意思表示が難しくなります。金融機関は本人の意思を確認できなければ口座からの支払いに応じられないため、家族は預金を引き出せず途方に暮れる、という事態が起きています。
また、不動産オーナーが認知症になった場合、管理・修繕などは家族でも対応可能ですが、大規模修繕のための借入はできないため思うような資産運用ができなくなることもあります。

意思が反映される手法の選択を

認知症になった場合、第三者が資産管理を行う方法として、「成年後見制度」がありますが、この制度は限界があり、意向通りに対応できないケースが多くあります。そのため「任意後見制度」と「民事信託」の組み合わせで意志を反映する対策が求められます。そして、相続に関しては遺言書の作成が必要です。意思能力があるうちに認知症などに備えることが必要なのです。
「まさか」の事態に備えると、その「まさか」に遭わずにすむ、とも言われます。その事態を意識することで脳のアンテナが働き、いろいろな情報を集めるため、対策が強化されていきます。つまりは「備えあれば憂いなし」。ぜひ意識して、実践されてはいかがでしょうか。

対 談

セミナーの後半では、蓮見が進行役を務め、大塚先生と黒川先生によるフリーディスカッションを実施。変化する高齢者像や、いかにしてイキイキと老後を 過ごすかについて語っていただきました。

今の時代の「高齢者像」とは

蓮見「超高齢社会」。全人口に占める65歳以上の比率が21%を超えた状態をこう呼びますが、日本では既に28%を超えています。しかも今後は75歳以上の人口比率が増えていきますね。

大塚日本の「100歳以上」の人口推移を見ると、調査を開始した1963年時点で確認できたのはわずか153人でした。ところが今では7万人を超えており、20年後には30万人を突破する見込みです。

蓮見「老後」の期間がさらに長くなるということは、なおさら豊かさを感じられるように過ごしたいものです

黒川今の高齢者は昔より元気なんですよ。例えば、歩行速度はこの10年で11歳若返ったと言われています。つまり今の75歳の人は10年前の64歳の人と同じ、85歳の人は74歳の人と同じくらいの体力があるといえるんです。

大塚昔と比べると、今は戸籍年齢×80 %。60歳なら昔の48歳、75歳なら昔の還暦。まだまだ一花も二花も咲かせられる。周囲は「もう歳なんだから」などと言うものですが、そんな言葉に騙されてはいけない(笑)。

蓮見自分を元気に保つ秘訣とはなんでしょうか。

大塚「大志を抱く」ことだと私は思います。昔から「少年よ大志を抱け」という言葉がありますが、今は「高齢者よ大志を抱け」です。事業を始める、芸術家になる、新しいパートナーを見つける、若い頃の夢を再び追うなど、生きる目標を持つこと。てっとり早いのはこれまでしてきた仕事を生涯現役でやり続けることでしょう。

黒川海外の高齢者に目を向けてみますと、例えばドイツのミュンヘンでは、「おばあちゃんの手作りケーキが美味しい」ということで、高齢女性が集まってケーキを焼いて販売しているんです。その活動を行政がバックアップし、給与も支払われている。日本政府も高齢者にどんどん働いてほしいと考えているようですから、このようなスタイルで、経験や特技を活かして働く手段が広がっていけばいいな、と思いますね。

大塚高齢になってもお金を稼ぐ道はあるけれど、これまで貯めてきたお金を有効に使うことも大事です。これは特に男性に見られる傾向なんですが、自分が今得ている収入の範囲でしかお金を使わない人が多いんです。つまり年金生活に入ると、年金の範囲内で生活しようとする。だから年金生活になったとたん、小さくしぼんでしまう男性が多く見られます。その点、女性のほうが思いきりがいい。

黒川私の母は60歳過ぎてから外資系企業で働くようになり、高収入を得ていましたが、どんどん使っていましたね。人にごちそうするのも好きで、周囲との交流を深めたから、老後はたくさんの友達に囲まれていました。

大塚日本人は質素に暮らすことを美徳としがちですが、せっかく貯めてきたお金は自分を輝かせるために使うべきだと思うし、その覚悟を決めたほうがいい。私は多くの高齢者の最期を見届けてきましたが、金額の大小に関わらず、お金を残すことで家族間の争いを引き起こすケースは非常に多いんです。生きているうちにちゃんと、自分のためにお金を使う。残していくなら、そのお金の使われ方に自分の価値観や意思が反映されるようにしておくべきです。

どんな心で老いに向き合うか

蓮見老いに対してどう向き合えば、豊かな気持ちで一生を終えられると考えていらっしゃいますか。

黒川自身の現状と今後に対してポジティブなイメージを持つことが有効だと思います。ある106歳の方は、コップを落として割ってしまっても「私は立つことができるから落とせたんだ」と発想するんです。心理学では認知行動療法というものもありますが、この方は自分で実践してきたんですね。このように物事の良い面を見つけていくといいと思います。

大塚周りへの感謝の気持ちを持ち続けること、あらゆることを「感謝」という形に転換できることが、人生の最期を豊かに過ごすために一番大事なことだと感じています。そして、感謝の気持ちを言葉なり物なり、あるいはお金を使ってちゃんと相手に伝える。そうすれば人生も世の中もうまくいくでしょう。

蓮見あらゆることをポジティブにとらえ、感謝の気持ちを持つ。そのように自分の思考をマネジメントするということですね。ありがとうございました。

※役職名、内容等は取材時のものです。