【前編】『非財産』領域を包括したサービスでファミリービジネスの永続的発展を支援
青山財産ネットワークスは、新会社・青山ファミリーオフィスサービスを設立し、2021年1月よりファミリーオフィスサービスを開始しました。
これは、ファミリービジネス(=同族企業)が永続的に発展していくための仕組みを整備・運用するサービスです。これまでは企業オーナーの皆様に対し、「財産」面を中心に支援してまいりましたが、「非財産」の領域も含め、より包括的にお手伝いします。
この新規事業に際し、ファミリービジネスへの非財産分野も含めたコンサルティングにおいて30年の実績を持ち、早稲田大学商学学術院ビジネス・ファイナンス研究センター上級研究員(研究院教授)も務める米田隆氏をお迎えしました。
なぜ、私たちがファミリーオフィスサービスに取り組むのか、どんな問題解決を目指すのかについて、代表の蓮見と米田氏の対談をお届けします。
1. 財産を残すだけでなく「これからの事業のあり方」に目を向ける
蓮見この度は、当社のファミリーオフィスサービス事業の立ち上げにご参画いただき、誠にありがとうございます。
米田こちらこそ、私が抱いていた課題に取り組めることにわくわくしています。このお話をいただいたとき、御社が進化していくプロセスの中で「非財産」に目を向けられたのは必然的だったのでは、と感じました。
蓮見 正純 Masazumi Hasumi
蓮見私たちは長きに渡り、オーナー企業に対して財産承継に関する問題解決を支援してきました。企業オーナーには当然、「出来るだけ多くの財産を次世代に残したい」というニーズがあるわけですが、じっくりヒアリングをしていると、全体を俯瞰した中でその要素はそれほど大きなものではないと気付きました。「どんな想いでこの事業を運営してきたのか。今後はどうしていきたいのか」が語られたとき、そこに問題の本質がある、と感じています。
米田そうですね。特に高齢になったオーナーはお金のために働くというより、自分の人生の集大成として、事業を通じて社会に貢献することに喜びを感じる人生のステージへ進んで行きます。
一族のアイデンティティを強く活かした事業を行い、それによって社会から認められ、地域でも重要な社会的地位を得る。そのことに一族も誇りを感じる。それを私は「社会関係資本」と表現するのですが、まさに「公的な資産」と言えると思います。
そうした地域経済にとっての公的資産を支えている一族であるからには、一族のメンバー個々の資産だけでなく、一族としての価値を守り、次世代に伝えていく使命があります。
そうした中核的なファミリービジネスが全国各地域で永続化すれば、バランスの取れた国土開発も維持されていく。そこに貢献できるのが、この仕事の魅力の1つだと感じています。
2. 2代目から3代目の承継時に立ちはだかる壁
蓮見一族の価値を承継していく上で、壁にぶつかるのが「3代目」ではないでしょうか。
私たちはこれまで、主に創業世代から2代目への事業承継をお手伝いしてきたのですが、多くの企業は今、3代目にバトンを渡すタイミングに差し掛かっています。そのとき、はたと思うんです。今の企業理念や一族の一体性を、次の世代につないでいけるのだろうか、と。
創業世代から2代目に移るときには、「皆で一緒にがんばろう」とお互い支え合うのですが、3代目ともなると価値観に多様性が生じていますから。例えば、兄弟家の中には、「株だけ持って別の道を歩みたい」と考える承継候補者もいたりします。どの一家が中心的に支えていくのか、誰がどのような形で関わっていくのか、調整を図らなければなりません。
米田 隆 Takashi Yoneda
米田私がファミリービジネスの研究対象としているのも、まさに3代以上続いている企業のみなんです。孫の代ともなると、コミュニケーションギャップにより創業時の理念とは乖離が生じてしまう。いとこ同士なので協力し合うにしても、一緒には住んでおらず、自然な絆も結ばれていない。それでも3代以上続いている企業には、何か人為的仕組みがあるはずだと考えて研究を行っています。
2代目から3代目への承継のハードルが高いからこそ、永続価値がある一族であるほど、まさにこのファミリーオフィスサービスが求められていると思います。
蓮見「理念」という無形の資産が有形資産を支えているわけですから、一族の理念を守ることの大切さを改めて感じますね。
そこで、米田先生がお得意とするところを活かしていただきたいテーマの一つが、「一族メンバーの育成」です。ファミリービジネスの成長のためには、一族の若い人たちが成長していかなければなりません。ビジネススキルはもちろん、人間力、そして社会貢献への意識を身に付けなければ。それが、経営のバトンを受け取る人には必要だと考えています。
だからこそ、私たちが展開するファミリーオフィスサービスでは、非財産領域として「一族理念」「個々人の成長と育成」「ファミリーガバナンス」「社会貢献」に視点を置いていきます。
米田私は富裕層の資産運用研究の為、毎年スイスを訪問していますが、ファミリーオフィスサービスはプライベートバンカーが超富裕層の顧客を獲得するためのマーケティングツールとしても使われています。そのため、本来、一族と一族事業の永続を目的として非財産分野もカバーするべきはずのファミリーオフィスのサービスが、資産運用へ傾き過ぎている現状があります。その結果、日本ではファミリーオフィスサービスがまるで超富裕層の資産管理サービスかの様に認識され始めていることに危機感を抱いていました。
私としては、日本で本来あるべき「ファミリーオフィス」を実現したい。ですから、蓮見社長から「非財産」に重点を置いたファミリービジネス永続化支援サービスを創るとお聞きしたとき、ぜひ一緒にやらせていただきたいと思ったのです。
資産運用サービスは世の中に数多くありますが、「非財産」領域まで含めた包括的サービスこそ、時代が求めているものだと思います。
3. 理念の承継には「仕組み化」が必要に
蓮見同族企業において、長男が継ぎ、その次は長男の子どもが継ぐ、そしてまたその子どもが…と承継していくとして、その全員が経営者として優秀であるなんて奇跡に近いですよね。そもそも継ぐことを拒否する可能性もあるわけで。そうした場合でも、核となる経営理念を正しく伝える仕組みがあれば、それを実現してくれる人材を選んで経営を任せればいい。そうすれば、一族の理念が損なわれることなく、永続的な成長が可能なのではないでしょうか。
米田これからの経営はグローバル化も進み、環境変化に対応し、非連続な経営変革を目指さなければなりません。一方、後継世代は高等教育を受けて価値観の多様化が進んでいきますから、職業選択の自由も認めなければならないでしょう。
ファミリービジネスとしての事業の持続的成長と、後継者の職業選択の自由を両立させる為には、例えば「プロ経営者」を招くなど、「所有と経営の分離」の道も用意することも重要です。所有と執行を1人の承継者に委ねることができないならば、即、事業売却……ではなく、新たな選択肢を私たちのコンサルティングによって提供できるのは、社会的意義が高いと思っています。
蓮見ある経営者の方にこのファミリーオフィスサービスの話をしたとき、こう言われたんです。「一族の生き方を考えることが大切だ、ってことですね」と。その人は40代なんですが、「自分たちの世代は財産を残すことにそれほど興味がない。それより、どう生きて、どう貢献するかに興味がある」とおっしゃっていました。もしかすると、生きる拠りどころを、有形財産よりも目に見えない価値に求める時代になってきているのかもしれません。
米田ビールも、1杯目は美味しいけど10杯目ともなると飲みたくもない。お金も、自分に必要な固定費をはるかに超えてしまうと魅力を失うものですからね。それよりも、いかに生きて、何を残すかに興味が向くのでしょう。そんな経営者の力になりたいですし、私自身もこの取り組みを通じ、さらに自己成長していきたいと思っています。
―― 青山財産ネットワークスが展開するファミリーオフィスサービスでは、6つの領域にフォーカスして展開していきます。
そのうち2つは、私たちがこれまで手がけてきた『財産領域』―「事業経営と一族財産の運用」「事業および財産の承継」ですが、残りの4つは『非財産領域』―「一族理念」「個々人の成長と育成」「ファミリーガバナンス」「社会貢献」です。
■ファミリーオフィスサービス6つの領域
対談の後編では、「ファミリーガバナンス」に着目し、その必要性をテーマにお話しします。
※役職名、内容等は取材時のものです。
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