2022.01.12
税制・法令
2022年度(令和4年度)税制改正大綱発表!
昨年12月に発表された税制改正大綱は、岸田政権の政策の基本的考え方「成長と分配の好循環」と
「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに新しい資本主義の実現に取り組むことを反映した内容となりました。
また、毎年当社におきましては、税制改正に関する資料も発行しております。お気軽にお問い合わせください。

主な改正項目の具体的内容

1.賃上げ税制の拡充

「成長と分配の好循環」の実現に向けて、企業の従業員に対する積極的な賃上げや人的資本の拡充、下請け先との取引適正化を
はじめとする多様なステークホルダーへの還元を後押しする観点から、賃上げに係る税制措置を抜本的に強化します。
具体的には、従業員の給与総額と教育訓練費を一定割合増加させた企業に対し、
給与増加額の最大30%(中小企業は最大40%)を税額控除できることとされます。
ただし、前期の業績が黒字の大企業(※)の賃上げが消極的である場合には、研究開発税制、
デジタルトランスフォーメーション投資促進税制、カーボンニュートラル投資促進税制、5G導入促進税制等の適用が
受けられません。
(2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する各事業年度)

大企業(※) 中小企業
 適用要件  基本 前期から継続して雇用される従業員の給与総額が前期と比較して3%以上増加  基本 従業員全体の給与総額が前期と比較して1.5%以上増加
 上乗せ 教育訓練費の額が前期と比較して20%以上増加  上乗せ 教育訓練費の額が前期と比較して10%以上増加
 税額控除額 (基本分、給与増加額)
前年比3%以上➡15%税額控除
前年比4%以上➡25%税額控除
(上乗せ分、教育訓練費増加額)
前年比20%以上➡+5%税額控除
           最大30%の税額控除
(当期の法人税額の20%を限度)
(基本分、給与増加額)
前年比1.5%以上➡15%税額控除
前年比2.5%以上➡30%税額控除
(上乗せ分、教育訓練費増加額)
前年比10%以上➡+10%税額控除
         最大40%の税額控除
(当期の法人税額の20%を限度)

(※)資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には、給与等の支給額の
引上げ方針、取引先との適切な関係構築の方針等をインターネットで公表したことを経済産業大臣に届け出ている場合に限ります。

2.住宅ローン控除の見直し

適用期限を2025年まで4年間延長するとともに、2022年から2025年までの間に居住の用に供した場合の借入限度額、
控除率、控除期間は下の図の通りとなります。

① 控除率0.7%(現行1%)に引き下げます。
② 所得要件を2,000万円以下(現行3,000万円以下)に引き下げます。

この改正により毎年の住宅ローン控除による減税額が住宅ローンの支払金利を上回る益税が生ずる事例が減少すると予想されます。


入居年
2022年 2023年
2024年
2025年
借入限度額  新築・買取再販  認定住宅 5,000万円
4,500万円
 ZEH水準省エネ住宅
4,500万円
3,500万円
 省エネ基準適合住宅
4,000万円 3,000万円
 一般住宅 3,000万円
2,000万円(※1)
 中古住宅(※2) 認定住宅・ZEH水準省エネ住宅
・省エネ基準適合住宅
3,000万円
 一般住宅 2,000万円
 控除率
0.7%
 控除期間
 新築・買取再販
13年(※3)
 中古住宅
10年
 所得要件
2,000万円
 床面積要件
50㎡(※4)

(自民党税制調査会資料を加工して作成)

(※1)2024年1月1日以後に建築確認を受ける住宅用家屋等で一定の省エネ基準を満たさないものは、住宅ローン控除の
対象外となります。
(※2)中古住宅の築年数要件を廃止し、登記簿上の建築日付が1982年1月1日以降の家屋については新耐震基準に
適合している住宅用家屋とみなされ、住宅ローン控除の対象となります。
(※3)2024年、2025年入居の一般住宅については、控除期間が10年となります。
(※4)2023年12月31日以前に建築確認を受けた自宅用家屋は、床面積が40㎡以上50㎡未満であっても適用が
可能です(所得要件1,000万円以下)。

3.住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置

適用期限が2023年12月31日まで2年延長されます。
また、非課税限度額の縮減(※1)と適用対象となる中古住宅用家屋の要件緩和(※2)、
受贈者の年齢要件引き下げ(※3)が行われます。
(※1)非課税限度額の縮減
   ①耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋1,000万円(現行1,500万円)
   ②その他の住宅用家屋500万円(現行1,000万円)
(※2)中古住宅の築年数要件を廃止し、登記簿上の建築日付が1982年1月1日以降の家屋については新耐震基準に
適合している住宅用家屋とみなされ、非課税措置の対象となります。
(※3)受贈者の年齢要件を18歳以上(現行20歳以上)に引き下げます。

4.上場会社の大口株主に係る配当所得の課税の適正化

現行制度において、上場会社の居住者である個人株主が内国法人から支払いを受ける上場株式等の配当等は
原則として分離課税(所得税率20%)の適用が受けられますが、上場株式等の持株割合3%以上の個人株主(大口株主)が
受け取る配当等は総合課税(最高税率55%(所得税+住民税))の対象となります。
この大口株主の要件が改正により見直され、上場株式等の持株割合が3%未満の個人株主であっても、
同族会社が保有する株式等を合計して
上場株式等の持株割合が3%以上になる場合は、その個人株主(大口株主)が
受け取る配当金は総合課税の対象となります
(2023年10月1日以後支払いを受ける配当等から適用)。


5.インボイス制度の登録手続きの緩和

消費税のインボイス制度の円滑な導入のため、2023年10月1日~2029年9月30日の属する課税期間においては、
免税事業者が課税期間の中途においても「適格請求書発行事業者」に登録し、登録日から適格請求書(インボイス)を
発行することができる
こととされます。

6.財産債務調書制度等の見直し

財産債務調書の提出義務者として所得金額にかかわらず総資産10億円以上の者が追加されます(2023年分から)。
   現行  改正後
 提出義務者 ・所得2,000万円超、かつ、総資産3億円以上(又は有価証券等1億円以上)有する居住者 ・所得2,000万円超、かつ、総資産3億円以上(又は有価証券等1億円以上)有する居住者
総資産10億円以上有する居住者
 提出期限  翌年3月15日  翌年6月30日
(国外財産調書の提出期限も延長)
 記載省略の範囲  取得価額100万円未満の家庭用財産  取得価額300万円未満の家庭用財産

7.完全子法人株式等の配当に係る源泉徴収の不適用

完全子法人株式等(配当等の計算期間中100%継続保有)や
関連法人株式等(単独名義で配当等の計算期間中1/3超継続保有に限定)に該当する株式に対して支払われる配当等については
所得税を源泉徴収しないこととされます。(2023年10月1日以後に支払いを受ける配当等から適用)
本改正により、税収の減少が見込まれることから、その影響を緩和するための必要な対応等について
来年度の税制改正において検討することとされています。

8.法人版事業承継税制の特例承継計画の提出期限の延長

現行制度において法人版事業承継税制の特例承継計画の提出期限は2023年3月31日までとなっていましたが、
今年度の税制改正によって提出期限が2024年3月31日までとなります(1年延長)。
併せて、法人版事業承継税制の特例措置の適用期限については現行制度の2027年12月31日のままとし、
今後も延長を行わないことが強調されました。

9.土地に係る固定資産税等の負担調整措置

今年度限りの激変緩和措置として、商業地等(負担水準が60%未満の土地に限る)の2022年度の課税標準額を、
2021年度の課税標準額に2022年度の評価額の2.5%(現行5%)を加算した額とします。
しかし、住宅用地、農地等は、この激変緩和措置を受けることはできません(原則通りの計算をします)。

今後の主な検討項目

1.高所得者の金融所得課税の強化

今年度の税制改正大綱では、いわゆる「一億円の壁」により注目された金融所得課税の強化は行なわれませんでした。
来年度以降の税制改正で、税負担の公平を図りつつ一般投資家が投資しやすい環境を損なわないよう諸外国の制度や
市場への影響等も踏まえて、デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化とともに金融所得課税のあり方を
総合的に検討するとされました。

2.相続税・贈与税のあり方

昨年度の税制改正大綱において、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税に向けた検討(相続時精算課税と
暦年課税制度のあり方の見直し)を本格的に進める」と言及されてから、今回の税制改正において贈与税の暦年課税が廃止、
縮減されるのではないかと話題になりました。しかし、本件について改正は行われず、引き続き本格的な検討を
進めるとされました。
経済対策として講じられている贈与税の非課税措置(住宅取得等資金贈与、教育資金贈与など)は何らの税負担を
求めない制度になっており、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行うとされました。

今年度の税制改正は「分配」をコンセプトに税制改正の議論が進められたため、高齢世代の資産の有効活用を
通じた経済活性化だけでなく、「資産の再分配」と「格差の固定化防止」について前政権以上に注目していることが
分かる内容となっています。

※詳細については、税理士・税理士法人等の専門家や所轄の税務署等にお問い合わせ下さい。


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