2022.07.13
市況・トレンド
路線価が2年ぶりに上昇、全国平均0.5%
回復傾向もエリアで明暗が分かれる結果に


※国税庁「令和4年分財産評価基準」、各国税局「標準宅地の平均変動率」をもとに資料作成


国税庁が7月1日、今年の路線価を発表しました。
全国の平均変動率は前年比プラス0.5%と2年ぶりに上昇となりましたが、コロナ禍前の水準までは戻らず、国内外の観光客動向、リモートワークの浸透やワーケーションの広まり等で地方都市でも明暗が分かれた結果となっています。都道府県別の平均変動率については、上昇が20都道府県、下落が27県、横ばいはゼロとなりました。全国トップの路線価は東京・銀座の鳩居堂前で1㎡あたり4,224万円。2年連続の下落にはなりましたが、前年比マイナス1.1%に留まっています。

特徴的なエリアの動向

都道府県庁所在都市の最高路線価の変動率

上昇率 10%以上 なし
5%以上10%未満 千葉
5%未満 札幌、仙台、山形、福島、宇都宮、さいたま、横浜、富山、名古屋、大津、京都、岡山、広島、佐賀
横ばい 0% 青森、秋田、前橋、新潟、福井、岐阜、和歌山、松江、山口、徳島、松山、高知、福岡、長崎、大分、宮崎
下落率 5%未満 盛岡、水戸、長野、東京、甲府、金沢、静岡、津、大阪、奈良、鳥取、高松、熊本、鹿児島、那覇
5%以上10%未満 神戸
10%以上 なし

※国税庁「令和4年分都道府県庁所在都市の最高路線価」より資料作成

 


都道府県庁所在都市の最高路線価が上昇した都市は15都市、ほぼ横ばいが16都市、下落した都市が16都市となっています。国内外の観光客の動向が反映されており、商業地を中心とした関西圏では大阪市4%下落、神戸市5.8%下落といったように特徴的な下落となっています。これらは訪日外国人客の激減の影響が未だ強く影響を受けていることに起因するところが推測されます。

都市の詳細を見ていくと、神戸市三宮駅前では再開発事業で数年間は上昇が続いていましたが、コロナ禍による余波が諸に生じた結果、今年は下落となっています。一方、国内の観光客需要が戻り始めている京都市内では外資系ホテルの建設ラッシュが続いており、商業地・住宅地ともに概ね上昇傾向となっています。

大阪でも2025年に国際博覧会(大阪・関西万博)が控えている大阪メトロ中央線沿いでは延伸計画を中心に都市開発への期待が高まり、大学キャンパスの開設も予定されていることも手伝って、前年を上回る結果となっています。同じ傾向ですが、芦屋市や灘、西宮等駅周辺の利便性の高いエリアでも路線価が上昇しています。

北陸3県(石川県・富山県・福井県)の平均路線価は2年連続のマイナスでしたが、北陸新幹線の敦賀延伸計画が控えていることもあり、駅周辺の再開発への期待から下げ幅が縮小しており、小松駅前・富山駅前・敦賀駅前はそれぞれ上昇しています。

九州では福岡駅、博多駅前の再開発プロジェクトが進み路線価は軒並み順調に推移しているほか、熊本駅前の大型商業施設開業に伴い近隣市町が地価上昇をけん引しています。

他、路線価が上昇したエリアとして、千葉市(5.1%上昇)、札幌市(4.8%上昇)、広島市(3.5%上昇)と続きますが、いずれも駅前の再開発が進むエリアが路線価の上昇を牽引しているようです。
コロナ禍での在宅勤務の広がりで都市部からの移住が増え(所謂ワーケーション)、郊外のリゾート地や住宅地が上昇しているのも特徴の一つです。長野県白馬村の最高路線評価地点は前年比プラス20%と全国最大の上昇率となり、富裕層や外国人投資家による不動産需要が活発化している現状を表しています。同じく長野県の軽井沢町でも前年比プラス2.1%となり、活況な状況が見受けられます。

東京の動向

東京都平均では1.1%の上昇となりました。都内の観光地周辺は各地と同様の傾向が見られ、前年度は12%弱の下落だった浅草も1.1%の上昇に転じています。コロナ禍の影響が薄れて若年世代の国内観光客が多く流入、客足が戻りつつあるようです。感染の沈静化に伴い、国内経済を動かす方向にシフトしている日本経済が、路線価の反転上昇と連動しているとの見方もできます。また、コロナ禍での働き方の変化により在宅勤務が広がりをみせ、郊外の住宅地で路線価の上昇が際立っています。

一方で、オフィス離れが進む丸の内や八重洲等都心のオフィス街は空室率が高くなっている影響から、賃料および路線価の下落傾向は今年も続いています。当社の不動産共同所有システムADVANTAGE CLUB(以下、アドバンテージクラブ)で昨年組成された「銀座花椿通り」も前年比では正面路線価がマイナス5.3%・側方路線価がマイナス4.6%となり、今年組成された「銀座六丁目西銀座通り」も正面路線価がマイナス2%・裏面路線価がマイナス3.5%となっており、路線価については影響を受けているものの、アドバンテージクラブの稼働率は約97%と高い水準を誇っている状況です。

まとめ

落ち着きを見せつつある日本経済ですが、ウクライナ情勢の混迷長期化や原材料価格の高騰、供給面での制約等懸念が引き続き予測されるところでもあり、金融資本市場の変動による下振れリスクの懸念要素とともに、不動産市場を中心とした国内経済の動向も注視する必要があります。

路線価が変動すれば、所有している不動産の相続税評価額も毎年変動します。路線価が上昇すれば、資産価値が増える一方で、相続税も増える結果となります。また、固定資産税・都市計画税も上昇しますし、税制改正があれば評価額は更に大きく変動することもあります。そのため、過去に試算をしてご自身の相続税額等を把握している方も、毎年の路線価発表を契機にして財産評価をあらためて行い、ご自身の財産の状態を分析・把握されることは大切なことです。

相続税評価額の見直しと併せて、個人や法人の資金の流れを分析検証することも重要です。相続税のみならず、法人税や所得税を含めた総合的な財産全体の分析を実施することで個人・法人のキャッシュフローと将来予測を行い、不動産・保険・金融資産・借入等財産全体の検証を行うことが将来に残す資産を増やすことに繋がり、それが「まさかに備える」相続対策という結果に繋がります。財産全体のポートフォリオの見直し(メンテナンス)を毎年行うことで、「五つの視点」から最適な相続対策が可能となり、それが次世代へ財産を承継させる一番の安全かつ近道となるでしょう。


二俣 圭輔

コンサルティング第二事業本部 第三事業部 第一グループ グループ長

教育サービス業のコンサルタント、マンションコンサルタントを経て、青山財産ネットワークスに入社。
底地人/借地人との交渉、土地活用提案、建物保善提案などのサポートを得意とする。
宅地建物取引主任者・管理業務主任者  他資格多数所有

※役職名、内容等は取材時のものです。


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