債務超過とは、企業の負債総額が資産総額を上回っている状態のことです。債務超過に陥ったとしても、事業継続が可能であれば、即座に企業が倒産するわけではありません。
一方で、債務超過と近い印象を持たれている赤字は、損益計算上のマイナスを指します。仮に赤字であっても、運転資金が確保できれば事業承継の検討が可能です。
この記事では、債務超過の意味や赤字との違い、債務超過になる原因、デメリット、そして債務超過に陥った際の対策などについて解説します。
また、事業承継やM&A、資産運用の相談をお考えの方は、ぜひ当社への無料相談をご検討ください。
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債務超過とは
債務超過は、企業が抱える負債総額が資産総額を上回っている状態を指します。そのため、経営状況が厳しいことは確かである一方、すぐに倒産するとは限りません。債務超過と近い印象のある赤字は、損益計算書において当期純損益がマイナスの状態のことです。
つまり、債務超過と赤字の違いは、累計で判断するか、単年度で判断するかにあると言えます。ここでは、債務超過の定義や判断方法、黒字倒産について、解説していきます。
債務超過の定義
債務超過とは、「企業が抱えている負債総額が、資産総額を上回っている状態」のことを指します。言い換えれば、全ての保有資産を売却したとしても負債が残っている財務状況のことです。個人に置き換えた場合、所有している不動産や自動車、宝石、株式などあらゆる持ち物を売却しても、債務(借金)を返済しきれない状態です。
債務超過にある企業は、厳しい経営状況に直面していることは確かです。ただし、債務超過に陥ったからといって、即座に企業が倒産するわけではありません。倒産は、企業が抱えている債務の支払いが不可能になることを指すため、債務超過でも手元にある程度の流動資産があり、当面の支払いが可能であればすぐに倒産することはありません。
赤字との違い
債務超過は赤字と混同されやすいですが、実際には意味が異なります。債務超過は、貸借対照表(バランスシート・B/S)において負債が資産を上回っている状態のことです。一方で、赤字は損益計算書(プロフィット&ロスステイトメント・P/L)で当期純損益がマイナス(当期純損失)となっている状態を表します。つまり、債務超過は累計で見るのに対し、赤字は単年度の収益についての問題という違いがあります。
そのため、仮に企業が赤字の状態であっても、債務超過に陥っているとは限りません。なかには、債務超過の企業であっても単年度で見れば黒字(利益を出している状態)というケースや、赤字決算であっても保有している資産が潤沢なために債務超過ではないケースもあります。
このように、債務超過と赤字では判断する指標が異なるため、同じ状態を意味するわけではありません。ただし、赤字が続けば最終的に債務超過に陥る可能性は高く、債務超過も赤字もネガティブな経営状態であることには変わりありません。
債務超過の判断方法
債務超過であるかどうかは、決算書の貸借対照表(バランスシート・B/S)の数字から判断することができます。貸借対照表の「資産の部」の合計額から、「負債の部」の合計額を引いた金額がマイナスであれば、債務超過です。反対に、資産総額が負債総額を上回っていれば、資産超過の状態です。たとえば資産が10億円で、負債が20億円の場合、10億円の債務超過と言えます。
黒字でも倒産することがある
倒産とは、損益が黒字であっても、それ以上債務を返済することができず、事業の継続が不可能となった状態を指します。損益計算上、赤字に転落したとしても直ちに倒産するわけではありませんが、支払いに充てる資金が手当てできなければ、赤字でなくても倒産することがあります。これを、黒字倒産と呼びます。
黒字倒産には、手形の支払期限が売掛金の回収期間より短く、支払いに充てる資金が不足している状態が当てはまります。事業で利益が出ていたとしても、手元の資金が不足し、手形の決済ができなくなってしまうと倒産してしまうのです。こうした黒字倒産を防ぐためには、経営者は決算書の内訳や経営の実態を常に正確に把握し、日々の資金繰りを適切に行うことが必要です。
赤字、債務超過になる主な原因
企業は、赤字になると現預金などの資産が減少します。赤字が続けば将来的に負債の額が資産を上回ってしまい、最終的に債務超過の状態に陥ってしまいます。経営努力を積み重ねている企業でも、赤字や債務超過に直面する可能性は否定できません。企業が赤字や債務超過になってしまう原因は、自社の経営判断によるものだけでなく外的要因によるものもあるため、それぞれ解説していきます。
赤字の原因
企業の赤字には、複数の原因が考えられます。自社が提供している商品やサービスの価格設定が適切ではない、本業が不調で売上が伸びないといった場合に、売上総利益から販売費や一般管理費を差し引いた結果、赤字となってしまいます。また、本業が好調で黒字を出していたとしても、営業外費用や特別損失が大きい場合、決算では最終的に赤字となるケースがあります。
赤字状態の継続
赤字決算が続くことで負債が積み重なり、企業の純資産は減少していきます。たとえば現時点の純資産が10億円の企業の場合、単年4億円の赤字であれば、まだ6億円の純資産がある計算です。しかし、4億円の赤字が3年続けば2億円の負債になります。
純資産の減少が続くことで貸借対照表(B/S)における資本がマイナスになり、やがて債務超過に陥ります。こうした状態にならないためにも、問題点が見つかった段階で素早く収益基盤の改善に取り組むことが重要です。
保有資産の価値の減少
自社で保有している資産の価値の減少も、債務超過の原因となり得ます。たとえば、株式や債券などの有価証券は、景気の影響で価値が変動します。株価は景気が悪化すると全体として下がり、企業の業績が悪ければ個別でも下がります。このように、有価証券は購入した時点より価値が大きく減少するという可能性も否定できません。状況によっては、保有するあらゆる資産よりも借入金などの負債が大きくなり、実質的に債務超過に陥ってしまうこともあります。
簿外債務や偶発債務
簿外債務や偶発債務が、債務超過の原因となるケースもあります。簿外債務とは、貸借対照表上に記載されていない債務のことであり、まさに帳簿外の債務と言えます。現時点では負債ではない場合でも、将来的に負債となるものは簿外債務に分類することができます。
また、損害賠償金など偶発的に発生した債務が、債務超過を引き起こす場合もあります。債務者の保証人となった際の債務保証、訴訟による損害賠償金の支払いなどが偶発債務とされており、自社の事業とは直接は関係がありません。しかし、法律上は自社(自分)の責任になるため、負担する金額によっては債務超過に陥ってしまう可能性があります。
債務超過や赤字状態のデメリット
債務超過や赤字の状態に直面したとしても、すぐに倒産するわけではありません。しかし、債務超過や赤字が積み重なることで、その企業は事業を営んでいくことが難しくなり、倒産のリスクも高まります。債務超過や赤字状態では、信用が低下する、融資を受けにくくなる、人材の確保が難しくなる、事業承継のリスクが増すといったデメリットがあります。可能な限り早期に債務超過や赤字状態から抜け出すことが重要です。
周囲からの信用が低下する
債務超過や赤字状態になることで、その企業は周囲からの信用が低下してしまいます。取引先は、「支払いは大丈夫だろうか」と不安を感じるようになるでしょう。その結果、支払期間をこれまでよりも短縮させられたり、新規の取引を見送られたり、取引において不利な条件や制限を課される可能性が高まります。
金融機関からの融資のハードルが上がる
銀行などの金融機関は取引先に融資をする際、まず対象となる企業の財務状況を確認します。債務超過や赤字の企業は資金繰りが困難な状況にあることが多く、追加融資を申し込んだとしても、銀行は貸し倒れのリスクを避けるために融資を断ることがあります。仮に融資を受けられたとしても、債務超過の企業は高い金利であったり、担保の設定や連帯保証の付与が求められたり、通常より厳しい条件を課される可能性があります。
人材の確保が困難になる
自社の経営状況の悪化が社内に広まると、「近いうちに会社が倒産してしまうのではないか」と不安を感じる従業員も出てくるでしょう。その結果、他社への転職といった人材流出のリスクが高まります。それだけではなく、新卒採用や中途採用においても、「この会社の財務状況は大丈夫なのだろうか」、「長期的に働けるかわからない」というイメージを持たれてしまい、就職先として選ばれにくくなってしまいます。このように、人材の確保が難しくなるというデメリットもあります。
事業承継のリスクとなる
企業は、債務超過や赤字の状態でも他者へ事業承継が可能です。しかし、債務超過の企業価値はマイナスであり、負債も引き継がれることになります。倒産の恐れがある企業を継ぐことに前向きな企業を見つけることは難しく、債務超過は後継者を見つける上でのリスクにもなります。
一方で、営業赤字でも純資産が潤沢な場合は資産超過となるとはいえ、赤字の企業を高く買おうとする企業は多くないでしょう。債務超過の企業と同様に、赤字の企業も事業承継における承継先探しのハードルは高いと言えます。
債務超過や赤字の対策
債務超過や赤字は、企業の存続を危うくする要因です。健全な経営を実践していたとしても、社会状況の変化などによりやむなく経営状態が悪化し、自社が債務超過や赤字の状態に直面してしまうこともあるでしょう。そのような場合の対策として、経営状況の改善に取り組む以外にも、増資したり債務免除を依頼したりするという選択肢があります。ただし、債務超過や赤字の対策は必ずしも即効性があるわけではないため、計画的に取り組む必要があります。
経営状況の改善に取り組む
自社の利益を上げることで資産を増やし、負債を減らすことが、単純ではありますが債務超過や赤字の対策として最も本質的な手段です。また、売上を伸ばすことはもちろん、原価や人件費の見直しなどによる支出の削減も、経営状況の改善につながります。債務超過はすぐに解消できるものではありません。直近1年、2年の結果が良かったとしても、油断をすればまた元に戻ってしまう可能性があります。長期的な視点で経営状況の改善に取り組み続けることで、初めて成果は出ると言えます。
増資する
増資には、第三者割当増資、公募増資、株主割当増資、利益の組み換えなどの方法があります。これらの方法で資本金を増やすことで、債務超過の状態から抜け出すことが可能です。経営状況を考慮すると増資に応じてくれる投資家を見つけるのに苦労するかもしれませんが、債務超過の解消という点では即効性があります。
債務免除を依頼する
資金の貸し手である債権者に、債務の返済を免除してもらう手法です。債権者の立場で考えれば、貸していた資金が戻らないという負担を強いられるため、依頼することは容易ではありません。ただし、自社と債権者の間に強い信頼関係がある、あるいは債権放棄後も関係を継続することが債権者のメリットになるといった場合であれば、実現する可能性があります。
債務超過や赤字企業のM&Aに関する注意点
債務超過や赤字の状態にある企業でも、M&Aの実施は可能です。ただし、債務超過をしている企業の事業を継ぐ買い手側は、経営におけるリスクも背負うことになります。債務超過や赤字企業のM&Aに臨む際は、買収時ののれんや繰越欠損金の引き継ぎに注意する必要があります。また、リスクを抑える手法として縮小型事業承継があるため、事前に検討することで、最適なM&Aを実施できるでしょう。
買収時に発生する「のれん」に注意
企業のM&A(合併・吸収)では、買収される企業の純資産(時価)と実際の買収価格の差額であるのれんが発生します。債務超過の状態にある企業は、純資産がマイナスの状態です。そのため債務超過の企業は、たとえ0円で買収したとしても会計上ののれんが計上されることになります。また、会計の考え方としては、のれんは貸借対照表で無形固定資産として処理され、一定額を費用に計上して20年以内に償却していくことが求められます。そのため、のれんを計上している間は営業利益が圧迫されることになる点に注意が必要です。
「繰越欠損金」の引き継ぎの可否に注意
繰越欠損金とは、課税所得がマイナスとなり税務上の赤字(欠損金)が生じた際、当該の欠損金を翌期(翌年)以降に繰り越せる制度、あるいは欠損金の累計額を指します。M&Aにはさまざまな手法がありますが、合併等かつ一定の要件を満たした場合、繰越欠損金を引き継ぐことが可能になります。株式譲渡による買収では引き継ぐことができないため、繰越欠損金の引き継ぎを念頭に置いている場合は、ルールを正確に理解する必要があります。
縮小型事業承継に取り組む
縮小型事業承継とは、事業規模を自社の競争力や能力に見合うようにスリム化させて事業承継することです。赤字事業から撤退する、不動産などの資産売却により譲渡価格を下げるといったアプローチがあり、技術力やブランド力、取引先など買い手にとっての魅力を残しつつ、手の届きやすい金額で交渉することを可能にします。つまり、赤字であっても資産超過の状態にすることで、事業承継を実現することができるのです。
まとめ
債務超過は負債の部が資産の部を上回っている状態を指します。債務超過になってもすぐ倒産するとは限りません。しかし、経営状況を改善しなければ将来的な倒産のリスクは高まります。特に事業承継を検討している場合は、資産超過を目指したいところです。なお、赤字の状態であったとしても、資産超過であれば事業承継が可能です。そのため、債務超過を解消するために経営方針を見直し、具体的な行動に落とし込むことが重要なのです。場合によっては専門家の助けを借りることで、直面している問題に冷静に対処することとなります。
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