自社ビルは、企業にとって一つのステータスと言える存在です。以前は大手企業や歴史ある老舗企業を中心に、自前で本社ビルを構えるというケースが多くありました。しかし、社会情勢の変化に伴い、自社ビルを所有することそのものの意義が見直されるようになってきました。
多くの企業は、オフィスビルを事業の拠点としています。オフィスビルは、入居の形態によって「賃貸型」と「所有型」のいずれかに分類され、そのうち所有型のビルを自社ビル、他のオーナーが所有しているビルに毎月賃貸料を支払って入居することを賃貸型と呼びます。自社ビルを取り巻く環境の変化や、近年の自社ビルに関する情勢について解説します。
自社ビルとは、そのビルに入居している企業自身が所有しているビルのことを指します。自社ビルを保有する方法は、ビルを新たに建設する場合と、すでに建っている中古ビルを購入する場合の2種類があります。自社ビルを所有するためには、建物の建設費用をはじめ、状況によっては土地を取得するための費用もかかるため、基本的には多額の資金が必要となります。そのため、ひと昔前までは、自社ビルを持つことは売上や従業員などの規模が大きく経営状態が安定している企業、あるいは古くから続いている老舗企業というケースが目立ちました。
自社ビルを取り巻く環境の変化
バブル経済が隆盛を極めていた頃は、不動産そのものに大きな資産価値があり、土地や建物を多く所有していることが企業を評価する要素として重要視されていました。しかし、バブル崩壊後は地価が大きく下落したため、不動産を所有することに対するリスクが意識されるようになりました。
また、株式市場では「物言う株主」の出現に見られるとおり、株主が企業に与える影響力は増大しています。さらに、減損会計制度の導入も相まって、企業は外部から資産の効率化を求められる傾向が強まっていきました。このように企業経営を取り巻く環境の変化によって、不動産へのコスト意識が高まり、自社ビルを所有する企業は減少する傾向にあります。
近年の自社ビル事情
近年では、働き方改革や、新型コロナウイルスの流行によるリモートワークの普及など、企業の自社ビル事情を取り巻く環境は大きく変化しました。そのため、オフィスの集約や自社ビルから賃貸への切り替えなど、自社ビルの所有を見直す企業は増えています。
東京商工リサーチの調査によると、2021年度に国内の不動産売却を公表した上場企業は、東証1部と2部を合わせて87社でした。2020年度は76社、2019年度は59社であり、所有している不動産を手放す企業が増加傾向にあることがわかります。
自社ビルを所有するメリット
自社にとって、所有と賃貸の選択は経営に直結する問題です。正しい判断をするためには、自社ビルを所有することにどのようなメリットがあるのかを把握することが欠かせません。費用の面はもちろん、自社ビルを持っていることそのものに対する周囲からの評価、自社の社員にもたらす影響など、具体的にメリットとして考えられる点について見ていきます。
ランニングコストを抑えられる
自社ビルを所有するには、新築であれば土地の購入費用や建物の建設費用がかかり、新築でない場合でも土地や建物の購入費用がかかります。一方で、ビルを賃貸する場合も同様に費用は必要です。毎月の入居費や共益費、修繕費などが発生します。さらに賃貸の場合は、将来的に賃料が値上げされたり、オフィスの移転を繰り返したりすることもあるでしょう。長期的に考えた場合、修繕費を考慮しても賃貸より自社ビルを所有する方がコストを抑えることが可能です。
信用力が高まる
自社ビルを所有するためには、多額の資金が必要です。十分な手元資金など、相応の財務基盤がなければ自社ビルの所有は実現しないでしょう。そのため、自社ビルを所有していることで、他社からは財務状況が健全であると評価され、企業としての信用を高める要素となります。
自社の資産となる
自社ビルは、不動産という有形の資産です。金融機関が融資の審査を実施する際には、自社ビルが担保となるため、融資を受けやすくなるでしょう。加えて、自社の従業員が入居するだけではなく、余っているスペースを賃貸オフィスとして活用することで、賃料収入を得ることも可能です。このように、自社ビルを所有していることは、本業を支える収益源になり得るのです。
また、仮に自社の経営状況や資金繰りなどが苦しくなった際、自社ビルを売却することによって資金を調達するという選択が可能になります。
社員の帰属意識が強くなる
オフィスを自由に設計することができるのは、自社ビルの所有者だからこそのメリットです。フロアに快適に過ごせる休憩スペースやカフェ、託児施設など、社員のニーズに応じた施設を設置することが可能です。こうした福利厚生を充実させるための施設は社員の満足感の向上につながり、自社に対する帰属意識が高まります。
また、社外に対しても、「あの会社のオフィスは働きやすそう」という印象を与えることができ、人材を採用する際の強みとして有利に働くことが期待できます。
自社ビルを所有するデメリット
多くのメリットがある反面、自社ビルを所有することにはデメリットやリスクも伴います。代表的なものは、取得するために多額の資金が必要となることでしょう。それだけではなく、自社ビルを取得した場合はオフィスの移転を検討しにくくなり、建物を管理するという手間もかかります。取得を検討する際は、デメリットも考慮した上で判断することが重要です。
取得にかかる資金が膨大
ビルの建設用地の取得から始める場合は、土地代がかかります。さらに、昨今の建築費高騰の中で新たにビルを建てるためには、膨大な資金を用意しなければなりません。中古のビルを購入する場合でも、新築より費用は少額とは言え、まとまった資金が必要です。金融機関から融資を受けてローンを組むことで金利も生じ、固定資産税や維持費などもかかります。このように、不動産は所有し続けることで多くの費用が発生するという点に注意を払う必要があります。
オフィスの移転が容易ではない
自社の経営状況や企業規模の変化などに合わせて、オフィスの移転を検討することもあるでしょう。しかし、自社ビルの取得には多額の資金が使われているため、簡単に移転を実施することはできません。加えて、不動産の価値は景気の影響を受けることから、将来的に自社ビルの資産価値は変動する可能性があります。取得時と比較して価値が低下した時点で売却すると損失が発生してしまいますので、売却のタイミングを見極める難しさも考慮しなければなりません。
管理や修繕のコストがかかる
ビルには、日々のメンテナンスや修繕が欠かせません。築年数が経過すれば徐々に設備は老朽化し、大規模な修繕を実施することになるでしょう。つまり、自社ビルには維持・管理のための資金も必要になるのです。また、中古のビルを購入した場合、建築基準法の関係から耐震補強工事が必要となる可能性もあります。近年では、リモートワークの普及により社員が出社しない機会が増えている企業も多いですが、オフィスの稼働状況に関わらずビルはメンテナンスしなければならないため、自社ビルの維持費は発生します。
完成・入居までに時間を要する
自社ビルを新たに建設するとなれば、土地探しからビル建設が終了するまで数年の期間を要することがあります。完成後は設備の搬入など入居するための作業があるため、自社ビルの所有を検討し始めてから実際に業務を開始するまでには、非常に多くの時間がかかることになります。その間に自社の状況や社会の情勢が大きく変化する可能性があるため、スケジュールや費用などに関して、当初の想定通りに進まないかもしれません。
自社ビルの売却という選択肢
近年、リモートワークなど働き方の変化が進み、企業のオフィスに対する考え方は大きく変化しています。複数の拠点を集約したり、都心部からオフィスを安価に取得できる地方に移転したり、さまざまな動きが見られるようになってきました。そうした動きの一つとして、すでに所有している自社ビルを売却する企業も増えています。自社ビルの売却事情や、売却することで享受できるメリットなどについて見ていきます。
国内約90の上場企業が自社ビルを売却
2020年以降、新型コロナウイルスは多くの企業に影響を及ぼしています。財務体質の強化や経営資源の有効活用が急がれる企業の増加や、人がオフィスに集まることを避けるためにリモートワークが浸透するといった動きに伴い、自社ビルを持つ企業では資産の見直しが進んでいます。
東京商工リサーチの調査では、2021年度に東証1部および2部に上場する企業で、国内に保有する不動産を売却したのは87社であり、その中には多くの大手企業も含まれていました。日本通運は東京都港区にある旧本社ビルを732億円、エイチ・アイ・エスは324億円で譲渡を行ったことが公表されています。金額は非公表ながらエイベックスも東京都港区の本社ビルを売却しています。
※参考/東京商工リサーチ『上場企業の不動産売却87社に増加、13年ぶりの80社超【2021年度】』
中小企業にも広がる自社ビル売却
中小企業においても自社ビルの売却を選択する企業が増えてきています。高止まりしている不動産価格を背景とした資産の組み換えや事業投資を行うためにキャッシュを確保するといったプラスの売却や、新型コロナウイルスによる社会変化で業績の落ち込みを背景とした売却、相続にまつわるトラブルなど理由は多岐にわたります。また、不動産の売却後、売却先と賃貸借契約を締結しそのまま利用するリースバックという仕組みを利用する企業も増加傾向にあります。
さらなる事業拡大の足掛かりとなる
自社ビルを売却することでまとまった資金を得られるため、さらなる事業拡大に向けた投資が可能となります。たとえば、M&Aを実施して自社に足りない部分を補強する、新たな人材を採用する、新拠点を開設するなどの選択肢が生まれます。
経営をスリム化できる
経営のスリム化とは、自社ビルを所有することで発生する固定費や維持費を削減することによって、効率的に利益を出せる体制を整えることです。新型コロナウイルスの影響により、オフィスに出社せず在宅で仕事をするスタイルが社会に広く浸透しました。将来的にも、多くの企業がこの形態を継続すると考えられます。オフィスでない場所でも社員は仕事ができ、企業は事業を継続できることが明確になったため、自社ビルを所有している企業にとっては、売却によって経営のスリム化を行うことも経営戦略の一つとして考慮されるようになるでしょう。
まとめ
自社ビルの取得には多額の資金が必要であることから、自社の経営や将来に大きく影響するターニングポイントになる可能性があります。メリットだけではなくデメリットもしっかりと考慮し、慎重に判断することが何より重要です。一方で、近年では新型コロナウイルスによるリモートワークの普及などがきっかけとなり、自社ビルを所有する意義が問われています。企業の状況によっては、所有し続けるよりも売却という判断が合理的なケースもあります。
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青山財産ネットワークスの特徴
自社ビルの取得には多額の資金が必要であることから、自社の経営や将来に大きく影響するターニングポイントになる可能性があります。メリットだけではなくデメリットもしっかりと考慮し、慎重に判断することが何より重要です。
一方で、近年では新型コロナウイルスによるリモートワークの普及などがきっかけとなり、自社ビルを所有する意義が問われています。企業の状況によっては、所有し続けるよりも売却という判断が合理的なケースもあります。
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