借地は、土地所有者にとっても建物所有者にとってもメリットのある土地活用方式です。一方で、借地のデメリットやトラブルを理解せずに契約してしまうと思わぬトラブルが生じるリスクもあります。
本記事では、借地権の特徴やメリット・デメリット、トラブル回避のための注意点について詳しくご紹介します。
借地や底地を所有している方は、ご参考になさってください。
そもそも借地権とは?
そもそも「借地」とは、広義では文字通り「人から借りている土地」のことをいいます。
借地借家法では「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義されており、わかりやすく言い換えると
「土地の所有者から土地を借りる権利」です。また、借地人(借りている人)にとって「借地」となる土地は、地主(土地の所有者)にとっては「底地」と呼称されます。そして、借地権が含まれる一戸建てやマンションは、「借地権付き物件」と呼ばれるのが一般的です。このように借地権には、「貸す人」「借りる人」の構造があるため、契約が発生します。契約の種類によって借地権は異なるため、その種類の違いを見ていきましょう。
借地権の種類
借地権には、必ずその根拠となる契約関係が存在しています。そのため、他人から土地を借りて建物を所有している家主は、
「どのような契約に基づいて土地が使用できているのか」を明確に把握しておくことが不可欠です。
借地権は、大きく以下の3つのケースに分けられます。
●
旧借地権
●
普通借地権
●
定期借地権
契約形態によって特徴や期間に違いがありますので、以下の表にまとめました。
<借地権の種類|旧借地権と普通借地権の違い>
|
旧借地権 |
普通借地権 |
概要 |
1992年(平成4年)8月より前から
借りている土地に適用される借地権。 |
賃貸借契約の期限であっても
正当事由がない限り更新される借地権。 |
利用目的 |
建物所有目的 |
建物所有目的 |
存続期間 |
堅固建物※ |
30年以上
(期間の定め無し:60年) |
30年以上
(期間の定め無し:30年) |
非堅固
建物※ |
20年以上
(期間の定め無し:30年) |
更新後の
期間 |
堅固建物※ |
30年
(期間の定め無し:30年) |
1回目:20年以上
(期間の定め無し:20年)
2回目以降:10年以上
(期間の定め無し:10年) |
非堅固
建物※ |
20年
(期間の定め無し:20年) |
|
旧借地権 |
普通借地権 |
概要 |
1992年(平成4年)8月より前から借りている土地に適用される借地権。 |
賃貸借契約の期限であっても正当事由がない限り更新される借地権。 |
利用目的 |
建物所有目的 |
建物所有目的 |
存続期間 |
堅固建物※ |
30年以上
(期間の定め無し:60年) |
30年以上
(期間の定め無し:30年) |
非堅固
建物※ |
20年以上
(期間の定め無し:30年) |
更新後の期間 |
堅固建物※ |
30年
(期間の定め無し:30年) |
1回目:20年以上
(期間の定め無し:20年)
2回目以降:10年以上
(期間の定め無し:10年) |
非堅固
建物※ |
20年
(期間の定め無し:20年) |
※堅固建物は鉄骨・コンクリートなどの堅牢性が高い建物を、非堅固建物は木造をはじめ解体が容易な建物を指します。
<借地権の種類|定期借地権(事業用)と定期借地権(非事業用)の違い>
|
定期借地権
(事業用) |
定期借地権
(非事業用) |
概要 |
店舗や商業施設といった
事業用に土地を借りる場合の借地権。 |
定期借地権付き一戸建て/マンションとして
住宅用に土地を貸借する場合の借地権。 |
利用目的 |
事業用に限る |
建物所有目的 |
存続期間 |
10年以上50年未満 |
50年以上 |
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定期借地権
(事業用) |
定期借地権
(非事業用) |
概要 |
店舗や商業施設といった事業用に土地を借りる場合の借地権。 |
定期借地権付き一戸建て/マンションとして住宅用に土地を貸借する場合の借地権。 |
利用目的 |
事業用に限る |
建物所有目的 |
存続期間 |
10年以上50年未満 |
50年以上 |
借地権の物件のメリット・デメリットとは
借地権の取引を検討するときは、そのメリット・デメリットの両面を理解した上で総合的に判断しましょう。
借地権のメリット
まずは借地権のメリットを2つご紹介いたします。
1. 固定資産税・都市計画税がかからない
2. 建物を購入する場合は所有権付きよりも取得費を抑えられる
1つずつ、詳しく見ていきましょう。
1.固定資産税・都市計画税がかからない
借地のメリットとしてまず考えられるのが、土地部分に固定資産税・都市計画税がかからない点です。
固定資産税・都市計画税は、その不動産の所有者に納税の義務が発生します。土地を借りる権利を所有しているだけの借地人には、土地部分の課税義務が発生しません。
なお、借地であっても所有する建物部分については固定資産税・都市計画税等、建物所有者としての税金負担が生じる点は注意が必要です。
2.建物を購入する場合は所有権付きよりも取得費を抑えられる
借地上に建物を取得する場合は土地を購入する必要がないので、土地所有権付き建物よりも取得費が抑えられます。
借地権付き建物は安い取得費で好条件の物件を手に入れられるので、選択肢の一つとして注目されつつあります。
借地権のデメリット
ここまで借地権付き建物を所有するメリットを紹介しましたが、反対にデメリットも存在します。
3つのデメリットをご紹介いたします。
1. 土地の所有者にはならないので、権利関係が不安定な状態を強いられる
2. 地代は負担しなければいけない
3. 借地権付き建物は第三者に売却することが困難
一つずつ詳しく解説いたします。
1.土地の所有者にはならないので、権利関係が不安定な状態を強いられる
当然ですが、借地人は土地の所有権を有していません。そのため所有権のある土地に建物を建てる場合に比べると、自由度が低くなるケースがあります。例えば、建物の建て替えや売却を行う際には、地主からの承諾を得なければなりません。
土地の所有者ではない以上、万が一のときに建物所有の権利が脅かされる可能性もゼロではなく、権利関係が不安定な状態が続くと言えます。
2.地代は負担しなければいけない
先ほど借地は安くて良い不動産を取得できる手段の一つであることを紹介しました。実際、土地に対しての固定資産税・都市計画税はかからないのですが、それとは別に毎年の「地代」がかかります。地代とは、借地契約において借地人が地主に支払う賃借料のことです。
建物の想定存続期間内での地代の累計をシミュレーションした際、購入時よりも著しく損しているケースもあります。また、借地の契約期間は30年から(一般定期借地の場合は50年から)と長期なため、この期間内の経済状況の変動により地代が改定されることもあり得ます。
取得費が安いというメリットがある一方で、ランニングコストが発生することや、固定資産税・都市計画税の上昇に伴い、地代も値上がりする可能性があることも判断材料の一つに考えましょう。
3.借地権付き建物は第三者に売却することが困難
借地権付き建物の家主は、地主の承諾がなければ自由に建て替えなどをすることができず、また、借地権付きの建物を売却するときには原則として地主の承諾がなければ借地権を譲渡することも不可能です。
このように権利関係上の成約が多いため、借地権付き建物は所有権付き建物に比べて売却しづらいというデメリットがあります。
借地権の特長
借地権付きの建物を所有する人は、法律上認められている権利や義務の内容をしっかりと理解しておく必要があります。
また、借地契約は長期継続的なものですので、当事者同士が信頼関係を守るよう配慮しあうことが大切です。
ここからは、冒頭でも軽く触れた借地権の2つの特長をご紹介します。
借地権は相続できる
借地権は「借地借家法」という法律で明文化された権利であり、相続の対象となります。
現在、借地権付き建物を所有している人に相続が発生した場合は、建物の所有権と併せて相続人が借地権を承継します。相続後にトラブルにならないためにも契約内容をしっかりと引き継げるよう準備が必要です。
また、建物本体に価値があるように借地権そのものにも金銭的な価値が評価されます。
借地権の評価額は相続税額にも影響しますので、将来の納税額が気になる方は税理士などの専門家に評価額を算出してもらっておくことをおすすめします。
借地には契約期間がある
全ての借地において言える特長として、「借地には契約期間がある」という点が挙げられます。
ただし、その期間や更新の有無、更新後の存続期間は借地権の種類によって異なります。
特に「旧法(旧借地権)」は、建物の構造が木造か鉄筋コンクリートかによって契約期間が変わる点や、そもそも旧法は借地人に有利に作られているためトラブルも多くなっています。旧法が適用される借地権で鉄骨造の建物で期間の定めがない場合、法定の存続期間も最長で60年と最も長くなっています。
借地権にまつわるトラブル
借地権の権利関係は非常に複雑であるため、きちんと理解をしていないと思わぬトラブルが発生する場合があります。トラブルを未然に防ぐため、また実際にトラブルが発生した際に冷静な判断を下すために、よくある借地権にまつわるトラブルをご紹介いたします。
1. 借地権相続にまつわるトラブル
2. 借地権の売買にまつわるトラブル
3. 借地権の更新にまつわるトラブル
借地権相続にまつわるトラブル
相続が発生した際に平等に遺産分割したいとの思いから、借地権の物件を共有名義にしてしまうケースがあります。一見、平等で良い選択に見えますが、その後さらにご相続が発生する度に権利が分散してしまい、権利者全員の同意を得づらくなる、一部の権利者の所在が不明になり連絡がつかなくなるといったことから、権利関係のトラブルに繋がってしまうことがあるのです。
借地権を含む不動産を相続するケースでは、共有名義ではなく単独名義にすることをおすすめします。
借地権の売買にまつわるトラブル
借地権の売買に関しては、以下のようなトラブルが考えられます。
● 借地権を第三者に譲渡する際に、底地の所有者(地主)から承諾をもらえない
● 売却をしたいが、所有権と比較して想定以上に安い価額となってしまう
もっとも、借地権の売買の際に地主から承諾をもらえないというケースでも、借地借家法に則って裁判所へ地主の承諾に代わる許可を求められる場合もあります。
借地権の更新にまつわるトラブル
借地権の更新によって発生するトラブルの多くが、「更新料の支払い」と「更新拒絶」に関するものであると言えます。更新料の支払いに関するトラブルは、契約書で定められていないことが主な原因ですので、契約締結時には特に留意すべき事項となります。
トラブル対策は専門家へ相談を
ひとくちに土地活用といっても手法はさまざまです。また、借地というジャンルの中でも契約の種類や権利形態が細かく分かれていますので、土地の貸し借りをする場合は内容をしっかりと理解しておく必要があります。
ご自身の状況の変化や、将来相続する方が借地権・底地権といった財産をどのような形で承継するのがベストかは、簡単に答えが出るものではありません。自己判断で処理を行うことは避けてプロに相談するのがおすすめです。
土地の貸し借りを伴う土地活用を実施する場合は、専門家に相談した上で対策をとるようにしましょう。
ご相談は青山財産ネットワークスへ
昨今、「借地権付き建物を相続したが、更新でトラブルになってしまった」「借地権の物件が共有名義になっており、売却しようにも売却できない」といった相談が多く寄せられます。これは、借地権は契約の種類が多く、また権利形態も細かいことが1つの要因です。これにより「相続で引き渡す側と引き受ける側でお互いに話せていなかった」「よくわからないからとりあえず共有名義にしてしまった」といった形で問題が先送りにされ、トラブルに発展するケースが目立ちます。
青山財産ネットワークスでは、税理士、公認会計士、司法書士をはじめとした150名以上の国家資格を有する専門家の知見をもとに、借地権にまつわるお悩みについても、ご一族にとって最適なご提案・実行のご支援を行っております。それだけでなく、創立から30年以上に渡り、資産家・企業オーナーの皆様へ、次世代、次々世代を見据えた相続に関するコンサルティングサービスを提供しているため、相続した財産の有効活用、遺産分割のトラブルといった相続にまつわる様々な課題に対して、部分最適ではなく、全体最適の視点でご支援いたします。
対面、WEB面談、電話相談など、お客様のニーズに合わせてご相談いただける場をご用意しているので、ぜひお気軽にご相談ください。
お客様の現状分析を踏まえ、最適な対策プランニングをご提案させていただきます。
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監修者
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青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士 |
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青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光 |
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-CFP
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。
・著書 青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位
※役職名、内容等は2023年10月時点のものです。
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