青山財産ネットワークスは2023年4月、「財産を守る秘訣は?これからの相続対策 ~財産の手当てと心の共有~」をテーマにオーナーズ・スタイル主催セミナーに登壇いたしました。
その内容の一部を抜粋してご紹介します。
2023年度の税制改正とは
まずは、最新の税制についてお伝えします。2023年度の税制改正が実施されましたので、どのポイントが変わっているかを確認しておきましょう。
●相続時精算課税に関する改正
毎年、110万円までの課税がなくなったことで、使い勝手が良くなりました。
●暦年課税に関する改正
こちらは、資産家の方々には大きな影響はないと思われますが、毎年少額の贈与を行う方にとっては影響が出てきます。早めの贈与など、対策が必要となるでしょう。
マンションの相続評価の適正化を検討
現在、マンションの評価について見直す議論が進められています。
例えば、現金1億円の相続税評価額は1億円ですが、時価1億円のマンションの相続税評価額は1億円よりも安くなります。相場として、極端な例では15~20%に評価が下がり、同額の現金相続より納税額が少なくなります。
ここで問題視されているのが、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られることです。そこで、マンションの相続評価を適正化すべく、2023年以降、通達改正を検討していく方針が示されているのです。
昨年春、「総則6項」の事案が大きな話題となりました。
これは、被相続人が節税を目的に収益不動産2物件を購入。相続発生後、相続税を6億円から0円にして申告を行ったものの、税務署より更正処分を受けた事例です。
被相続人は物件購入時に90歳を超えており、借入比率はおよそ75%。キャッシュフローが回らない状態です。また、金融機関の融資審査時の稟議書には「相続対策」と記載されていました。
税務署は、明らかな節税対策を意図した不動産の購入及び借り入れである点を指摘し、通達評価額ではなく鑑定評価額……いわゆる「時価」で評価すべき、と判断。最高裁判所まで争った結果、税務署側の主張が認められ、相続人は更正処分を受けることとなりました。
この判決後、私たち青山財産ネットワークスには、ご自身の相続対策に不安を抱いたお客様から多くの問い合わせが寄せられました。
もちろん、私たちは問題になるような相続対策はご提案しておりませんし、そもそもすべての収益不動産に今回のような判断が適用されるわけではありません。
「相続開始目前の購入」「居住実態がない」など、租税回避の目的が明らかであり、「行き過ぎた節税」については、この総則6項が適用される可能性があるのです。
「節税対策」だけに集中すると、円滑な相続にはつながりません。
だからこそ私たちは「円滑な経営承継」「円滑な財産承継」「相続税の納税資金の確保」「財産の運用と保全」「まさかへの備え」という5つの視点で分析し、コンサルティングを行っています。
相続でトラブルを招きやすい「不動産・株式の共有」
ここからは、これからの相続対策において、トラブルを回避し、円滑に運ぶために大切なポイントをお伝えします。
青山財産ネットワークスに寄せられるご相談でもっとも多い内容、そしてお客様の現状を分析した際に私たちから指摘する問題点は、実は共通しています。
「不動産・株式の共有問題」です。
相続対策を相談した税理士さんなどから「時間がないので、とりあえず共有にしておき、後で考えればよい」と言われ、そのとおりにしているケースは少なくないようです。
しかし、特に不動産を共有している場合、次のような問題を抱えることになります。
●売却や有効活用を自由にできない
●時間とともに「他人との共有」のリスクが増す(兄弟同士→いとこ同士→いとこの配偶者同士など)
●共有者の意思能力によっては何もできなくなる
●一般的に共有持ち分のみの不動産価値は低い
不動産共有が問題となった実例をいくつかご紹介しましょう。
【問題事例-1】共有旅館事例
旅館を経営しており、先代の相続時、土地・建物・法人ともに3兄弟での共有に。旅館業の切り盛りは長男がすべて行い、次男と三男には「地代」「家賃」「役員報酬」を支払っている。
しかし、キャッシュフローが悪化し、建物が老朽化しても改装ができない。地代・役員報酬の未払いが続く状況の中、70代に。法人清算するにも法人税負担がかかり、個人に戻れば所得税の負担がかかってしまう。どう解決したらよいかわからない。
【問題事例-2】兄弟共有事例
創業70年の呉服屋を継承した長男が、個人事業主として営業中。店舗の土地・建物は、父の相続時に4人の兄弟姉妹で共有。長男は4分の1にあたる共有状態にある中、次男から「共有物の分割訴訟をするかもしれない」と言われた。しかし、長男はあまり深刻に考えていない状況。
【問題事例-3】姉と弟の共有事例
母からの相続時、仲の良い長男・長女は生前母から言われたとおりすべての財産(土地・建物・法人株)を平等に分け、半々で共有。
長男には配偶者・子がいて、長女は独身だが外国人と交際しており、相手に連れ子がいる。この先、結婚した場合、お互いの子どもの代へ相続したとき、うまくいくかどうかの不安を抱えている。
【問題事例-4】農家の事例
先代の相続において、自宅・農地を相談者(父親)と長女(相続時に養子縁組)が半々で共有。ところが、長女の配偶者が現金化を希望し、相談者はこれを拒否。すると、長女から共有物の分割訴訟を起こされた。
不動産共有問題の解決策と事例
このような不動産共有問題の解決策としては、次のような選択肢があります。
共有問題がうまく解決できた事例をご紹介しましょう。
5人で共有するマンションに対し「等価交換」の手法を活用した事例です。
共有していたのは、築40年を超えた、旧耐震基準の7階建、自宅賃貸マンションです。長女・長男・法人・おじ・次女の5者で共有していました。
空室率が高く、収支が悪い状況。このままでは地震で壊れるリスクもあり、売却や建て替えも検討しましたが、実現には至りませんでした。
建築基準法の改正により、これから建て替える場合は4階に制限されます。リフォームする場合は1~2億円の借り入れが必要となりますが、多額の借金は回避したい。等価交換では事業として成り立ちません。
また、長男と長女はこの場所で暮らし続けることを望み、それ以外の共有者は現金化を望んでいます。
このご相談に対し、私たちから提案・実施したのが「リファイニング建築(※)+等価交換」の手法です。
※リファイニング建築/リフォームやリノベーションとは異なり、既存建物の耐震性能を建物の軽量化や耐震補強によって現行法レベルまで向上させるとともに、 既存構造躯体の約80%を再利用しながら、建て替えの約60~70%のコストで、大胆なデザインの転換や用途変更、設備一新を行う手法(一般社団法人 リファイニング建築・都市再生協会ホームページより)。
リファイニング建築によって新耐震基準に適合させ、等価交換。ディベロッパーは、7フロアのうち5フロア分を分譲販売しました。購入者にとっても、築40年超の建物を長期ローンで、近隣相場の2~3割安く購入できるメリットがあります。
そして、オーナーは新築同等となったマンションの2フロア分を取得して住み続けるほか、交換差金を取得することができました。
事前にできる対策――「想いを伝える」
事前にできる対策について、事例をもとにご紹介します。
これは、飲食事業会社 A社の創業一族のケースです。A社は創業者と創業者の弟が協力して経営し、成功を収めました。
創業者の意思判断能力が心配になってきたため、相続・事業承継対策の必要性を意識し、青山財産ネットワークスに相談。相続税などの試算を過去に行ったことはないとのことでした。
法人の代表者は長男へ移行していますが、株式は創業者と創業者の弟が所有しています。事業で蓄えた現金により、株価が高額で、相続税も多額になる状況でした。
なお、相続人は長男のほか、長女・次女がいます。
具体的な対策として行ったのは、次のとおりです。
●創業者はA社から受け取った退職金+個人財産で収益不動産を購入。将来的には、長女・次女が共有とならない形でそれぞれ1棟ずつ相続
●長男はA社の代表権を譲り受け、事業を相続
●創業者の弟は、自身の甥にあたる長男を指導しながら経営参画を続け、長男が成長したタイミングで事業を承継
このように、長男に事業、長女・次女に不動産という形で分割相続するにあたっては、長男・長女・次女それぞれに対して、事前に「なぜこの形なのか」という理由や想いを話していただきました。
相続においては、亡くなった後に遺言が明らかとなって、「なぜこうなっているのか」と相続人が納得できなかったり、争いに発展したりするケースが度々見られます。
それを防ぐためには、事前に「想い」を伝えておくことが大切です。
世間に名の知れた某酒類メーカーは、創業4家が輪番で代表取締役を務め、4家が同等の力を持って運営しています。4家の代表が「理念」を大切に共有し、密にコミュニケーションをとっているからこそ、円滑な経営と承継が実現しているといえるでしょう。
相続においては、親から子へ、先祖からの伝承、遺産分割に対する考え、未来への想いなどを伝えていただくことをお勧めしています。
「心を共有」してこそ、トラブルを防ぎ、次世代へつないでいくことができるのです。
【プロフィール】
小野 高義
執行役員 コンサルティング第一事業本部 本部長
住宅メーカーより当社へ入社。相続、不動産、建築と幅広い知識と経験をもとに、財産承継コンサルティングに取り組む。金融機関との連携により個人、法人の課題解決に従事。
資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP、宅地建物取引士
※役職名、内容等は取材時のものです。
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