2023.09.29
財産承継
土地を相続したら相続税はかかる?計算方法や使える控除・特例を紹介

土地を相続するため、相続税がいくらかかるのか不安を感じていませんか?所得税の税率が5~45%であるのに対し、相続税の税率は10~55%と高い傾向があるため不安に感じている方もいるでしょう。
この記事では土地を相続した、あるいはその予定がある方向けに、相続税の計算方法や相続時に活用できる控除や特例、注意事項について解説します。土地に関する相続税が不安な方は、ぜひ最後までご一読ください。

土地を相続すると相続税がかかる?


土地を相続したからといって、必ず相続税がかかるとは限りません。
相続税とは、被相続人(亡くなった方)から財産を相続したときに、相続人に課税される税金です。土地も財産であることから、原則、相続すれば相続人に相続税が課税されます。
しかし相続税は、遺産総額が基礎控除額を超えない限り、税金がかかりません。

基礎控除額は以下の計算式で計算をします。
基礎控除額=3,000万円+法定相続人の数✕600万円 
基礎控除額=3,000万円+法定相続人の数✕600万円 

 仮に法定相続人が配偶者1人、子ども2人の合計3人の場合、遺産総額4,800万円を超えない限り相続税がかからないことになります。

相続税の計算方法

相続税の計算は、まず課税遺産総額を計算して法定相続人全体の相続税額を計算します。そのあとに、実際に相続した財産割合で按分する流れになります。相続税の計算の流れと、計算方法について解説します。

課税遺産総額を計算

課税遺産総額とは相続税の課税対象となる遺産の総額をいいます。
課税遺産総額は以下の計算式を使って計算します。

課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額(3,000万円✕法定相続人の数✕600万円)

遺産総額=財産の総額-非課税財産-(債務+葬儀費用)+相続開始前7年以内に贈与を受けた財産の価格
 課税遺産総額=遺産総額-基礎控除額(3,000万円✕法定相続人の数✕600万円)
遺産総額=財産の総額-非課税財産-(債務+葬儀費用)+相続開始前7年以内に贈与を受けた財産の価格

  • 財産の総額・・・現金や不動産、株式などの財産に、みなし相続財産※を加算した金額
  • 非課税財産・・・礼拝の対象となるもの(墓地や仏壇、仏具、祭具など)や生命保険金や死亡保険金の非課税枠(500万円✕法定相続人の数)など
  • 債務・・・借入金、未払金、買掛金など
  • 葬儀費用・・・通夜・告別式の費用、葬儀に関する飲食代、火葬料・埋葬料、お布施・読経料・戒名料など
  • 相続開始前7年以内に贈与を受けた財産の価格・・・令和6年以降に贈与される財産(令和5年までの贈与は相続開始前3年以内)
※みなし相続財産 被相続人の死亡がきっかけで受け取る財産のこと(死亡保険金、死亡退職金など)
 遺産総額より、基礎控除額のほうが大きい場合、相続税はかかりません。

相続税額を計算

次に課税遺産総額を法定相続分の割合にしたがって取得したと仮定し、各法定相続人の取得金額を計算します。

【法定相続分の割合】
 配偶者と子どもが相続人の場合  配偶者1/2、子ども(2人以上のときは全員で)1/2
 配偶者と直系尊属が相続人の場合  配偶者2/3、直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合  配偶者3/4、直系尊属(2人以上のときは全員で)1/4
配偶者と子どもが相続人の場合
配偶者1/2、子ども(2人以上のときは全員で)1/2
配偶者と直系尊属が相続人の場合
配偶者2/3、直系尊属(2人以上のときは全員で)1/3
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
配偶者3/4、直系尊属(2人以上のときは全員で)1/4

参考:国税庁HP No.4132 相続人の範囲と法定相続分をもとに筆者作成

課税遺産総額が5,000万円、法定相続人が配偶者と子ども2人の場合、各人の取得金額は以下の通りです。
【配偶者】5,000万円✕1/2=2,500万円
【子どもA】5,000万円✕1/2✕1/2=1,250万円
【子どもB】5,000万円✕1/2✕1/2=1,250万円

また各人の取得金額に応じて、下記の相続税率を乗じて、税額を計算します。

【相続税の速算表】
 法定相続分に応ずる取得金額 税率  控除額 
 1,000万円以下  10%  -
 3,000万円以下  15%  50万円
 5,000万円以下  20%  200万円
 1億円以下  30%  700万円
 2億円以下  40%  1,700万円
 3億円以下  45%  2,700万円
 6億円以下  50%  4,200万円
 6億円超  55%  7,200万円
 法定相続分に応ずる取得金額 税率  控除額 
 1,000万円以下  10%  -
 3,000万円以下  15%  50万円
 5,000万円以下  20%  200万円
 1億円以下  30%  700万円
 2億円以下  40%  1,700万円
 3億円以下  45%  2,700万円
 6億円以下  50%  4,200万円
 6億円超  55%  7,200万円

出典:国税庁HP No.4155 相続税の税率

【配偶者の税額】2,500万円✕15%-50万円=325万円
【子どもA の税額】1,250万円✕15%-50万円=137.5万円
【子どもBの税額】1,250万円✕15%-50万円=137.5万円

3人の相続税額を一旦合計します。
325万円+137.5万円+137.5万円=600万円

実際に取得した財産割合に応じて相続税額を按分

計算した相続税額を、実際に相続した金額で按分します。

【実際に相続した財産の割合が配偶者1/2、子どもA1/2、子どもBが0の場合】
【配偶者の税額】600万円✕1/2=300万円
【子どもAの税額】600万円✕1/2=300万円
【子どもBの税額】600万円✕0=0

したがって配偶者、子どもAの相続税額がそれぞれ300万円、子どもBの相続税額は0円となります。
ただし配偶者は配偶者の税額軽減があるため、このケースでは0円になります。
配偶者の税額軽減については後述します。

土地の相続税評価額の計算方法

建物の場合、固定資産税評価額が、相続税評価額となります。
固定資産税評価額とは、固定資産税を計算するときの基準となる評価額のことで、各自治体の担当者が定めています。土地の場合は時価の70%程度、建物は新築の場合で請負工事金額の約50~60%が固定資産税評価額の目安となりますが、土地は面積や形状など、建物は築年数や面積などによって評価額が前後します。
一方、土地の相続税評価額は「路線価方式」と「倍率方式」の2つの評価方法があります。以下、土地の評価方法について解説していきます。

相続税評価額とは?

相続税評価額とは、相続税や贈与税を計算するときの基準となる価額のことを言います。現預金であればその金額をそのまま利用できますが、不動産や株式の場合は相続税評価額を算出する必要があり、しかも土地とは異なって各自治体が評価額を定めてくれるわけではありません。そのため、一定の基準に基づいて資産を評価する必要があるのです。

路線価がない土地は倍率方式で計算

多くの都市部や住宅地は路線価方式を使って計算します。路線価方式とは国税庁のサイトで公表している相続税路線価をもとに計算をする方法です。
一方、相続税路線価が定められていないエリアでは倍率方式で計算をします。

【路線価方式の計算式】
 土地の相続税評価額=路線価✕補正率✕面積(平米)

【計算例】
路線価14万円、奥行きが30メートル、幅15メートルで、普通住宅地区にある土地の場合
路線価14万円、補正率0.95(奥行きがあるため)✕450平米=土地の相続税評価額5,985万円
 土地の相続税評価額=路線価✕補正率✕面積(平米)

【計算例】
路線価14万円、奥行きが30メートル、幅15メートルで、普通住宅地区にある土地の場合
路線価14万円、補正率0.95(奥行きがあるため)✕450平米=土地の相続税評価額5,985万円

倍率方式は、国税庁のサイトで調べられる倍率と固定資産税評価額を乗じて計算します。

【倍率方式の計算式】
 土地の相続税評価額=固定資産税評価額✕倍率
 土地の相続税評価額=固定資産税評価額✕倍率

土地の形状などを含めた評価については、すでに固定資産税評価額に反映されているため、倍率方式は補正がありません。

土地を相続したときに活用できる控除や特例

土地を相続した場合、控除や特例により評価額が減少することがあります。代表的な内容を紹介します。

小規模宅地等の特例

土地を貸したり、土地にアパートを建てたりするなど、不動産貸付業として使用していた宅地は、要件を満たせば小規模宅地等の特例が受けられます。
また被相続人が住居として使用していた土地を、生計を共にしていた親族が住宅として引き続き使用した場合も、要件を満たせば小規模宅地等の特例の対象です。
対象となる要件、面積、減額割合は以下の通りです。

 相続直前の利用区分  要件  限度面積  減額割合
 被相続人などの事業の用に供されていた宅地など 貸付事業以外の事業用の宅地など   特定事業用宅地などに該当する宅地など  400平米  80%
貸付事業用の宅地など  一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業をのぞく)用の宅地など  特定同族会社事業用宅地などに該当する宅地など  400平米  80%
 貸付事業用宅地などに該当する宅地など  200平米  50%
 一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地など  貸付事業用宅地などに該当する宅地など  200平米  50%
 被相続人等の貸付事業用の宅地など  貸付事業用宅地などに該当する宅地など  200平米  50%
 被相続人などの居住の用に供されていた宅地など  特定居住用宅地などに該当する宅地など  330平米  80%
 相続直前の利用区分
 被相続人などの貸付事業用の宅地、特に一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業をのぞく)用の宅地など
 要件
 特定同族会社事業用宅地などに該当する宅地など
 限度面積  減額割合
 400平米  80%

 相続直前の利用区分
 被相続人などの貸付事業用の宅地、特に一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業をのぞく)用の宅地など
 要件
 貸付事業用宅地などに該当する宅地など
 限度面積  減額割合
 200平米  50%

 相続直前の利用区分
 被相続人などの貸付事業用の宅地、特に一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地など
 要件
貸付事業用宅地などに該当する宅地など
 限度面積  減額割合
 200平米  50%

 相続直前の利用区分
 被相続人などの貸付事業用の宅地、特に被相続人等の貸付事業用の宅地など
 要件
 貸付事業用宅地などに該当する宅地など
 限度面積  減額割合
 200平米  50%

 相続直前の利用区分
      被相続人などの居住の用に供されていた宅地など      
 要件
 特定居住用宅地などに該当する宅地など
 限度面積  減額割合
 330平米  80%

出典:国税庁HP No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
例えば、貸付事業用宅地に該当する宅地が500平米あった場合、200平米までは相続税評価額が50%減額されます。

配偶者の税額軽減

被相続人の配偶者が相続する場合、以下のうちいずれか大きい金額まで税金がかからない制度です。
 
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分
 
つまり配偶者が相続をする場合、少なくとも1億6,000万円までは税金がかかりません。

未成年者控除

法定相続人が満18歳になるまでの年数1年あたり、10万円を相続税額から控除できます。
令和4年から民法の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたことにともない、同控除の要件も20歳から18歳に引き下げられました。

【例】
16歳になる方が相続する場合
未成年者控除額:(18歳-16歳)✕10万円=20万円
未成年者控除額は20万円
法定相続人が未成年(満18歳未満)のときは、未成年者控除を適用し、相続税の額から一定の金額を差し引ける

相次相続控除

相次相続控除(そうじそうぞくこうじょ)は、10年以内に相次いで相続が発生したときに適用される控除のことです。
短期間のうちに何度も相続が発生すると、同じ財産に何度も相続税が課税されるため負担が過重になります。そのため相続開始前10年以内に相続税が課税されたときは、1年につき10%の割合で減額した後の金額が、新たに発生した相続税額から控除されます。

贈与税額控除

相続開始前7年以内に暦年課税に係る、被相続人からの贈与によって取得した財産がある場合、支払った贈与税額を、相続税額から控除できます。
これは贈与時に支払った贈与税と、相続時に支払う相続税の二重払いを避けるための控除です。

障害者控除

相続人が満85歳未満で障害があった場合、一定額を相続税額から控除できます。

【障害者控除の計算式】
一般障害者:満85歳になるまでの年齢✕10万円
特別障害者:満85歳になるまでの年齢✕20万円
特別障害者とは障害の程度が特に重度の場合を指します。 
一般障害者:満85歳になるまでの年齢✕10万円
特別障害者:満85歳になるまでの年齢✕20万円
特別障害者とは障害の程度が特に重度の場合を指します。 

土地の相続に関する注意事項

相続税は納付期限があり、納付期限を過ぎるとペナルティが課されてしまいます。相続税の納付期限に遅れないために、ここでは相続税の納税の流れについて解説します。

死亡日の翌日から10カ月以内に申告する

相続税は相続開始を知った日(通常の場合は死亡日)の翌日から10ヶ月以内に以下の手続きを済ませる必要があります。

①被相続人の最後の住所地を管轄する税務署に「相続税申告書」を提出
②相続税の納税

また相続税は原則、納税猶予がありません。仮に相続税申告書の提出が遅れると、無申告加算税というペナルティが加算され、配偶者控除や小規模宅地等の特例のような各種特例も使えない場合があります。
相続税の支払いが遅れた場合は、延滞税というペナルティの対象になります。

相続税申告手続きの基本的な流れ

相続税申告の基本的な流れを紹介します。

・死亡届の提出
死亡後7日以内に役所に死亡届を提出します。遺言書がないかも早めに確認しましょう。公正証書遺言であれば、公証役場の遺言検索システムで検索できます。

・相続人の特定
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人を特定します。すでに法定相続人がわかっているという方もいるかもしれませんが、今後の手続きでも必要になるため、早めに取り寄せましょう。

・相続人の承認
相続の放棄や、限定承認をする相続人は、相続開始を知った日から3ヶ月以内に手続きをする必要があります。

・所得税の準確定申告
1月1日から被相続人の死亡日までの所得税の申告と納税を、相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。

・財産の評価
相続財産の評価、財産目録を作成します。

・遺産分割協議書の作成
遺産の分割割合を話し合い、その結果を遺産分割協議書として書面にします。

・相続税の申告・納付
相続税の申告と納付をします。

数種類の申告書が必要

相続税の申告書は1種類だけではなく、相続財産の種類や適用する控除によって異なります。相続税にかかる財産や債券などの書類だけでも15種類もあるため、自身で作成すると転記ミスや複数箇所の訂正が発生して、慣れていないと煩雑に感じるかもしれません。
相続の相談などもあわせてできるため、相続の手続きは専門家に依頼するのがおすすめです。

まとめ

相続税は基礎控除や、各種控除や特例があるため、土地を相続したからといって必ず相続税がかかるとは限りません。仮に土地を相続して相続税がかかる場合、土地の相続税評価額は主に路線価方式か倍率方式で計算します。
また相続税は10ヶ月以内に納税しなければ延滞税がかかり、申告をしなかった場合は無申告加算税がかかるうえ、各種特例が使えなくなります。相続税の申告を自身でしようとすると、時間がかかり申告・納税期限に間に合わない可能性があるため、相続の専門家にお任せすると良いでしょう。
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監修者

       青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、シニア・プライベートバンカー、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
  青山財産ネットワークス
財産コンサルタント 相澤 光
-1級ファイナンシャル・プランニング技能士
-シニア・プライベートバンカー
-公認不動産コンサルティングマスター
-宅地建物取引士
・経歴
不動産や信託の活用を軸とした永続型の財産承継コンサルティングを現場の最前線で行っている。節税目的の相続対策に警鐘を鳴らし、「財産全体が最適」となる承継・管理・運用を土台とするファミリーコンサルティングを幅広く手掛ける。ナレッジを集約した書籍を発行。セミナー登壇実績多数。YouTubeにて動画コンテンツも配信中。

・著書
青山財産ネットワークスの30年に渡るノウハウをまとめた『「5つの視点」で資産と想いを遺す~人生100年時代の相続対策』を執筆。2021年(11月15日-11月21日)紀伊国屋書店新宿本店 ビジネス書ランキング 第1位

※役職名、内容等は2023年10月時点のものです。


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