2023.11.20
健康
「心」と「体」の健康セミナー 
健康の正体~自律神経と腸内環境の重要性 
青山財産ネットワークスは、創業以来、総合財産コンサルティングの提供を通じ、主に「財産」面での支援に注力してまいりました。 
一方、人生100年時代を幸せに過ごすためには、同時に健康な「心」と「体」も大切であると考えており、 専門家をお招きしてセミナーを開催しています。 

本年11月、「健康の正体」をテーマに行ったオンラインセミナーより、内容を一部抜粋してお届けします。 
今回お招きした講師は、順天堂大学大学院医学研究科・医学部教授、小林弘幸先生です。 

小林 弘幸
順天堂大学 大学院医学研究科・医学部教授

1987年順天堂大学医学部卒業。
1992年に同大学医学研究科修了後、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、2003年に順天堂大学医学部小児外科講師・助教授を歴任。
2006年、同大医学部病院管理学研究室教授に就任、総合診療科学講座教授を併任。 専門は小児外科学、肝胆道疾患、便秘、Hirschsprung's病、泌尿生殖器疾患、外科免疫学。日本スポーツ協会公認スポーツドクターでもある。

『医者が考案した「長生きみそ汁」』、『医者が考案した「ラクやせみそ汁」』(アスコム刊)などのベストセラー著書のほか、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)や『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBSテレビ)など、メディア出演多数。YouTubeチャンネル「ドクター小林の健康塾」で健康情報も発信。


小林先生は健康のために重要な要素として、「いかにひとつひとつの細胞に質の良い血液を十分に流すことができるか」と語っています。血液の流れを左右する「自律神経」、血液の質に影響を与える「腸内環境」について、整えるための方法を解説いただきました。 

「交感神経」と「副交感神経」のバランスが重要 

テーブル, 屋内, カップ, 皿 が含まれている画像

まず、「自律神経」とはどのようなものなのかについてお話しします。 
「不安なとき、ドキドキする」「興奮すると心拍数が上がる」――これらは自律神経の作用です。自律神経には次のような機能・役割があります。 

  • 身体のソフトウエア
  • 筋、骨格、臓器といったハードウエアをコントロールする
  • 生命を維持する大切な神経

つまり、自律神経は、我々のライフラインの役割を果たしています。 

自律神経には、2つの神経があります。 

交感神経……緊張や興奮したときに働く。車でいえばアクセル 
副交感神経……リラックスしたときに働く。車でいえばブレーキ 
 
交感神経と副交感神経は、「血流」をコントロールしています。 
どちらかが優位になっても血流障害につながるため、アクセルとブレーキのバランスが重要です。しかし、現代人はストレスが強く、交感神経が過剰に優位になりがち。日中の交感神経が高い状態が夜になっても続き、不眠につながるわけです。 
 
私たちの研究によると、自律神経のトータルパワーは次の条件でも差が表れています。 

●年齢 
自律神経のトータルパワーは年齢を重ねるとともに低下していきます。交感神経はあまり変化がないのですが、副交感神経が急速に低下していく傾向が見られます。 

●曜日 
自律神経のトータルパワーが一番良いのは休日であり明日も休みである「土曜日」です。一番悪いのは1週間の疲れが溜まってきた「木曜日」で、事故が多発しやすい。なお、木曜以上に疲れているはずの「金曜日」は、「明日は休み」という気持ちが作用するためそれほど悪くありません。まさに「病は気から」です。 

●地域性 
ストレスが多い関東圏では自律神経のトータルパワーは低め。一方、高いのは四国エリアで、温暖な気候は自律神経の安定につながると考えられます。 

●天候 
雨や台風など、低気圧が近づくと体調が悪くなる方は多いと思います。気圧が低いと、交感神経の数値が低下する傾向があります。 
 
このように、自律神経は様々な要因で毎日一定ではないため、乱れないようにするのではなく、乱れた時にいかに元に戻していくかに力を注ぐことが大切です。 

自律神経の状態は、通常、専門施設でなければ測定できません。 
そこで、私たちの大学院ではサイバーエージェント社と協力し、自律神経を測定できるスマートフォンアプリ『CARTE(カルテ)』を開発しました。 

iPhone限定ですが、無料で利用できますので、ダウンロードして活用してみてはいかがでしょうか。毎日測定することで、体調の変化に気付きやすくなると思います。 

>>CARTEのダウンロードはこちらから行えます。 

自律神経を乱さないために意識すべき3つのこと  

ここからは、自律神経の乱れを防ぐため、そして乱れた自律神経を整えるために意識しておくとよいポイントについてご紹介します。 

●自律神経の流れは「伝染」する 

まず、自律神経の悪い流れは「伝染」します。どういうことかというと、チームやコミュニティ内で誰かの自律神経が悪い状態だと、他のメンバーにも影響を及ぼし、全体の自律神経が悪化するのです。 

もっともバランスを崩しやすい要因の一つが、「怒る」こと。怒るのは交感神経が過剰な状態であり、怒られた方のバランスも崩れます。感情にまかせて怒るのではなく、理性的に「叱る」ことを意識しましょう。叱る方が、叱る側も叱られる側も自律神経のバランスが正常に保たれます。 

また、ジェラシーや時間、数字(お金)も自律神経のバランスを崩す要因でもあります。 

●あなた=私ではない 

 モラルの感じ方は人によって異なります。
ほとんどの方が、あなた=私の関係になっています。 

「これだけやってあげたのだから、感謝して当然だろう」 
「これだけの成果を挙げたのだから、高く評価されて当然だろう」 

しかし実際には、相手はそれほどとは思っていないことも多いものです。このズレが自律神経を乱すことになります。自分と他者が同じ感覚や基準で捉えていると思わないようにしましょう。 
なお、ジェラシー、つまり「他者への嫉妬」も自律神経を乱す要因と言われています。嫉妬の感情を持たないようにコントロールすることが重要です。 

●「Don’t believe anybody!」 

 「Don’t believe anybody!」=「誰も信用するな」。 

言葉はきついですが、リスクマネジメントの基本です。世の中で起きている多くの事故は、人や機械を信じすぎることで発生しています。人を信じる=自律神経が緩んだ状態だと、人や機械に頼ってしまい、ミスにつながります。緊張感を持ち、自身で確認することでリスクを軽減できます。 

身体も心も人生も「腸内環境」で決まる 

テーブル, 屋内, 食品, 座る が含まれている画像

ここからは「いかに質の良い血液を流すか」についてお話しします。 
 

今、医学界のニューヒーローは「腸」です。 
「脳」を重要と考えている方が多いのですが、脳とはもともと腸から発生しているもの。脳にあるシステムは全て腸が持っているのです。そのため、身体も心も、そして人生も「腸内環境」で決まると言っても過言でありません。 

今、医学会での最大トピックスとして注目されているのは、糖尿病・高血圧・高脂血症・認知症などが「腸内細菌」と関係しているということです。「腸内環境が悪いと認知症になりやすい」という研究も複数発表されています。 

また、新型コロナウイルスの重症化因子として「高齢者」「肥満」「糖尿病」「高血圧」の4つが挙げられていますが、この方々に共通する要素に「腸内環境の悪さ」があります。 
免疫細胞の中でも重要な「制御性T細胞」はほとんどが腸にいるのですが、腸内環境が悪ければ数が減ってしまい、免疫機能が低下するというわけです。 
コロナ禍によってそれが明らかになり、腸内環境に注目が集まりました。 

腸内細菌は400~500種類あり、数としては100兆個、重量にして1.5kgと言われています。それだけの腸内細菌が身体の中で働いています。 
腸内細菌には「善玉菌(有用菌)」と「悪玉菌(有害菌)」、どちらにも属さない「日和見菌」があります。 
腸内環境の良い人のバランスは、善玉菌2割、悪玉菌1割、日和見菌が7割。悪玉菌が全くいなくなると、監視する善玉菌も働かなくなるため、悪玉菌は必要悪なのです。 

悪玉菌が増えると、どんなに良い化粧品や食事、サプリメントを摂取しても、吸収されて出てくるのは毒素です。これが血管を通って肝臓へ運ばれ、肝臓にダメージを与え、さらに心臓へ運ばれて全身へ回っていきます。 
また、悪玉菌が多いと腸内腐敗を起こし、下痢や便秘、感染症アトピー性皮膚炎、吹き出物、肝性脳症、栄養障害、大腸がんなどを引き起こします。 

腸内環境改善のために摂取したいのは「善玉菌」よりも「食物繊維」 

 では、どのようにして腸内環境を良好にするか。 

「善玉菌を増やそう」と、ヨーグルトを食べたり飲んだりしている方が多いのですが、実は最近の科学では菌を摂っても腸内環境は良くならないことが分かってきました。 
では、何を摂取すれば良いのか。それは「食物繊維」です。1日あたり20~25gの食物繊維を摂ることが望ましいのです。20~25gの食物繊維とは、レタス8個分に相当します。 

第二次世界大戦直後の日本人は、1日30g程度の食物繊維を摂っていました。しかし食生活の西洋化に伴い、現代では10gほど。この食物繊維の摂取量の低下が、糖尿病・高血圧・高脂血症・大腸がんなどの習慣病の増加につながっているのです。  

食物繊維を補う方法としてサプリメントも利用されていますが、私たちは食品から手軽に摂る方法を研究しました。 

そして、一定の効果を確認できたのが「1日2本のバナナ」です。腸の環境改善をはじめ、自律神経の活性化、ストレス改善の効果が見られました。しかも、熟したバナナより若いバナナ、より緑色に近いバナナが効果的であることが分かっています。若いバナナに含まれる「レジスタントスターチ」というでんぷんは、小腸までは消化されず、大腸に届き、善玉菌のエサになります。これにより腸内細菌が活性化し、悩む人が多い便秘の改善にもつながるのです。 

便秘の解消のために下剤を服用している方も多いのですが、下剤を使用すると大腸がんの発生リスクが高まるという研究データもあります。若い女性には痩せるために下剤を飲む人も多いようですが、ただちにやめることをお勧めします。 また、便秘の方は腸内環境が悪いため、活動性・労働生産性が低下すると言われています。 

「噛む力」「3行日記」が、認知症予防に効果 

 自律神経と腸内環境を整える方法をお伝えしてきましたが、もう一つ、健康にとって重要な要素をお話しします。それは「噛む」ことの大切さです。 

これを説明するにあたり、「免疫グロブリンA(IgA)」についてご説明します。IgAは、体内にウイルスが入ってきた際に撃退するミサイルのような役割を果たします。新型コロナウイルスのほか、インフルエンザなどの感染症に対し、生体防衛機構の最前線で働くものです。 
 
このIgA、実はコロナ禍でかなり減ったことが分かっています。IgAは唾液に多く含まれているのですが、マスク着用が常態化したことで唾液量が減り、IgAも減ってしまったのです。 
IgAは年齢を重ねるにつれて減るものでもあり、風邪をひきやすくなったり疲労感が強くなったりと、さまざまな不具合を引き起こします。 

IgAを増やすには唾液を多く出す必要があるため、食事を噛む回数を増やすことを意識してください。 
回数を数えるのはなかなか難しいので、食事にかける時間を長くするといいでしょう。例えば、30分かけていた食事を40分に延ばすことで、噛む回数も増えることが研究データで明らかになっています。 

「オーラルフレイル(口の老化)」という言葉があります。噛む回数が減ると噛む力も低下し、柔らかいものだけを食べるようになります。すると摂取する食品が偏り、栄養も偏ってしまいます。結果、筋力が落ち、要介護・死亡のリスクが高まります。 

また、ある研究では、認知症の人は噛む力が弱い傾向が見られました。噛む力が低下するから認知症になる、とも言われています。噛むことで脳血流が増加し、脳活動に良い影響を与えるためです。噛む力を維持することが、認知症予防にも効果があると期待できます。 


認知症予防のため、もう一つお勧めしたい習慣があります。それは「日記を書く」ことです。 
たくさん書く必要はなく、「3行」で良いのです。書く内容は3項目です。 

  • 1日を振り返って良かったこと……1行
  • 1日を振り返って悪かったこと……1行
  • 2日前の夕食のメニュー……1行

1日の出来事を思い出して1行にまとめる作業には、脳をたくさん使います。 
「2日前の夕食のメニュー」は、覚えていない方がほとんどですが、日記のために思い出す訓練をしていると、1週間分のメニューを全て言えるまでに脳の活性化の効果が期待できます。 

このほかにも、何でも良いので、ぜひ「趣味」を持つことをお勧めします。 
ストレスからフォーカスをずらすことで解消することができ、乱れた自律神経に効果があります。 

そして、人生最大の武器は「謙虚に生きる」ことだと思います。健康に対しても、他人に対しても、社会に対しても謙虚さを持つことで、自律神経や腸内環境を整えることにつながります。 

最後に、「今日が一番若い」ことを意識すると、ワクワクする日々を過ごすことができ、健康な人生につながると考えます。