2024.06.28
事業承継
事業承継とは?事業承継の基本的な仕組みや目的、種類などについて解説
近年、経営者の高齢化や後継者の不在といった理由から、中小企業を中心に廃業を余儀なくされる会社が目立つようになってきました。そうした状況において注目を集めているのが、事業承継です。

事業承継とは、会社の経営と株式を後継者に引き継ぐ行為を意味します。将来にわたって会社を継続させていくためには、現経営者は後継者へ事業承継しなければならないのです。しかし、事業承継するための具体的な内容について、後継者を探している経営者にしっかりと届いておらず、有効な対策ができているとは言えない状況です。

そこでこの記事では、後継者問題に悩む経営者に向けて、事業承継についての基本的な知識、事業承継を行う目的、事業承継の種類、事業承継の進め方などについて紹介します。

事業承継とは


事業承継とは、具体的にどのような行為のことを指すのでしょうか。まずは、事業承継についての基本的な考え方や意味合いを理解するところから始めましょう。

事業承継の意味合い

事業承継とは、会社の経営権や資産を誰かに引き継ぐことを意味します。なお、「事業継承」という表記も見られますが「事業承継」の方が一般的で、中小企業庁も事業承継という表記を用いています。

事業承継で引き継ぐ経営資源

事業承継は、単に経営者が新しい人物に交代するだけではありません。会社が持っている経営資源を次世代に承継して、さらに事業を発展させていくことが理想です。引き継がれるものとしては、以下のような経営資源が当てはまります。

◎人(経営)
事業承継における人とは、会社の経営権を引き継ぐ新しい後継者のことです。後継者として自社の経営を任せられる人材を選び、会社が培ってきた技術、取引先や金融機関との関係など、経営者が持つ資産を引き継ぎます。

新たな経営者が見つかれば、事業承継そのものは成立します。しかし、生まれ変わった会社の経営をさらに発展させるには、新しい経営者の資質や能力が大きく関わってくるもの。そのため、後継者の選定や育成は非常に重要です。特に中小・中堅企業においては、事業の運営や業績は経営者の資質に大きく左右されると言っても過言ではありません。

◎資産
会社が事業を行うために必要な資産も、後継者に引き継がれます。具体的には、会社の株式、固定資産(設備・不動産)、資金(運転資金・借入金)が挙げられます。こうした物的資産の承継では、資産を移転する契約書の作成、税金の申告といった手続きも発生するので注意が必要です。

形のない「無形資産」も承継の対象です。特許に代表される会社が培ってきた技術やノウハウ、ブランド力、さらに経営理念や経営者の信用、取引先など他社との関係性も無形資産に当たります。形がないため金額などに変換することは難しいですが、無形資産こそがその会社の存在意義を表す重要な資産です。

◎会社の株式を譲渡する場合
現経営者の保有する株式を後継者に譲り渡すことで、事業承継は成立します。この手法が「株式譲渡」です。

株式譲渡には「売買」「相続」「贈与」といったようにさまざまな選択肢がありますが、各企業の経営者や譲渡先の置かれた状況によって適切な手段は異なります。それぞれの手段のメリットとデメリットを見極めた上で、最善の選択をすることが重要です。

中小企業が抱える課題

日本にはさまざまな規模の企業がありますが、大半を中小企業が占めています。中小企業は日本の経済を支えている一方で、全体として難しい状況に直面しています。では、中小企業が抱えている課題について見ていきましょう。

中小企業経営者の高齢化に伴う廃業の増加

中小企業経営者は、高齢化が進んでいます。東京商工リサーチが2023年に実施した調査では、社長の年齢分布は、70代以上の構成比が35%(前年33.3%)と3人に1人を占めている状況です。さらに、70代の構成比は2019年以降5年連続で上昇していて、経営者高齢化の深刻さが伺えます。

後継者が決まらないまま経営者が年を取ると、最終的に廃業を選択せざるを得なくなります。2023年に休廃業・解散した会社は、全国で4万9,788件を数え、前年比で0.3%増加。年齢別(判明分)では70代が最も多く、42.9%を占めました。

出典:東京商工リサーチ 2023年「全国社長の年齢」調査 2023年「休廃業・解散企業」動向調査

後継者が見つからない

中小企業の経営者にとって、悩ましい課題の一つが「後継者の不在」です。東京商工リサーチの調査では、企業の「後継者不在率」は、2021年が58.62%、2022年が59.90%、2023年が61.09%と年々上昇しています。また、年齢別に見ると、代表者が60代の企業では後継者不在率が46.18%、70代は30.53%、80歳以上は23.83%となっており、多くの企業が後継者不在という厳しい状況に直面していることがわかります。

事業承継の種類

事業承継には、引き継ぐ相手によって「親族承継」「社員承継」「M&A」の3つの種類があります。こちらでは、それぞれの承継方法の仕組みやメリット・デメリットについて解説していきます。

親族承継

親族承継とは、現在の経営者の親族(子や兄弟など)を後継者に据えて、会社を引き継いでもらう方法です。その会社の経営が親から子へと代々受け継がれているような場合、経営者が元気な段階で承継を決定することで、後継ぎを育てるための期間を十分に確保できます。また、新たな後継者に対し、社内外からの理解や協力が得られやすいのも親族承継のメリットです。

一方、後継ぎになる人物に、必ずしも経営者としての資質があるとは限りません。そのため、経営者が交代してから業績が悪化するリスクがあります。また、経営者になることを望む人物が複数いる場合、親族内の人間関係がこじれてしまう可能性も否定できません。

社員承継

親族以外の役員・従業員を後継者にする方法が、社員承継です。この場合、共同創業者や有望な若手社員などが後継者候補となる可能性があります。普段から一緒に仕事をしているので、その人物の仕事ぶりや経営者としての資質を見極めた上で、候補者を選定できます。また、社内の事情などについて改めて説明する必要もないため、業務の引き継ぎも容易です。

ただ、複数の候補者がいるケースでは、選ばれなかった人物が居心地の悪さを感じて会社を辞めてしまう恐れがあります。さらに、経営者から株式を買い取ることになるため、十分な資金がない場合は実現しません。

M&A

親族や従業員への事業承継ができない場合には、M&Aを実施するケースもあります。M&Aは、外部の第三者に事業を引き継ぐ手法です。他者に事業を引き継ぐという点ではM&Aも事業承継に含まれます。

M&Aによる事業承継の特徴は、自社の事業や従業員の雇用などを守れることです。場合によっては、自社の事業が将来的に発展・成長して、新しい会社の中で長く残る可能性もあります。さらに、株式を売却することで、会社の売り手がまとまった資金を得られるのもM&Aのメリットです。

ただし、M&Aはすべてが希望通りになるとは限りません。まず、買い手を見つけることそのものが難しいため、自力で候補を探し当てるのは現実的ではありません。見つかったとしても、相手とは売却金額など条件面の交渉をすることになります。事業方針についても相手に委ねることになるため、たとえM&Aが成立したとしても経営の一体性を保てない恐れがあります。

事業承継の進め方

次に、基本的な事業承継のプロセスについて解説していきます。事業承継は企業の経営を他者に引き継ぐことになるため、慎重かつ丁寧に進めていくことが求められます。

現状分析と問題点・課題の抽出

事業承継に向け、まずは自社が置かれている現状の分析が必要です。保有資産や負債などの財務状況をはじめ、経営理念、商品力、他社との差別化ポイントなど、自社の強みだけでなく弱みも客観的に把握します。その中から、経営上の問題点や課題などを抽出してください。自社の問題点や課題を見つけることができたら、事業承継を実現するために優先すべき事柄の優先順位を付けます。

事業承継計画の策定

親族および従業員、または第三者に向けた事業承継計画を策定します。親族内や従業員での承継の場合、一緒に事業承継の行動計画を立てつつ、中長期的な経営方針の確認や目標設定も行いましょう。
第三者承継の場合は、事業を引き継いでくれる企業を探すところから始めます。自力で候補企業を探す場合は選択肢が限定されるため、現実的ではありません。そのため、M&A仲介会社などに候補企業の選定から契約まで依頼するとスムーズです。 

事業承継の実行

社内の事業承継計画あるいはM&Aの手続きをもとに、経営権の移譲、会社資産の移転など事業承継を実行します。株式の譲渡による税の申告、契約など法的な手続きが必要になることもあるため、多くの場合、弁護士や税理士、M&Aのコンサルタントなど専門家の支援を受けます。

事業承継で失敗しないための注意点


事業承継のプロセスは長く複雑で、スムーズに進まないケースも多く見られます。事業承継で失敗しないためには、あらかじめ注意点を把握して必要な備えをしておくことが重要です。

部分最適の対策とならないようにする

事業承継で企業にとっての利益と個人の利益のバランスを取るのは、簡単ではありません。たとえば、自社の株価が上昇することは、企業にとっては歓迎すべき状況です。しかし、事業承継に携わる個人にフォーカスして考えると、相続税や贈与税の金額が増える原因になります。

このように事業承継に向けた取り組みが、視点を変えると不利益になってしまうリスクもあるかもしれません。部分最適ではなく全体最適な事業承継になるよう、複数の視点で検討する必要があります。

事業承継には時間がかかる

事業承継を進める過程では、後継者探しだけではなく、従業員や取引先への説明、融資を受けている金融機関に対する説明など、やるべきことが数多くあります。場合によっては、関係者から反対意見が出たり、候補者との交渉が難航したりと前に進まず、結果として事業承継が完了するまでに数年を要することも珍しくありません。

それを見越した上で、事業承継に興味を持ったのであれば、できるだけ早い段階で準備に入ることが重要です。

税金が発生する場合もある

事業承継では、経営者が保有している株式などの資産を引き継ぐ際、多くの場合で税金が発生します。

親族内承継の場合、株式を相続あるいは贈与で後継者が引き継ぐが、その際に贈与税および相続税がかかります。いずれも税率は10%から55%までです。相続税の税率は、基礎控除額を控除後の課税価格をもとに決定します。

贈与税についても、暦年課税の場合は課税価格に応じて累進課税の税率が適用されますが、精算課税の税率は一律20%です。場合によってはかなりの額の税金を支払う可能性があることは、あらかじめ理解しておいた方がいいでしょう。

信頼できる専門家に相談する

事業承継は複雑で、さらに法律や税に関する知識が必要とされます。また、関係者とのやり取りの中でトラブルが生じる恐れもあります。そのため、事業承継を検討し始めたら、できるだけ早い段階でコンサルタントなどの専門家に相談し、サポートを受けながら適切な対策を講じることが重要です。

まとめ

後継者が見つかっていない企業経営者にとって、事業承継は憂慮すべき重要な課題です。経営者はもちろん、会社に所属している従業員、さらには取引先にも、会社の事業が引き継がれるかどうかが大きな影響を及ぼします。そのような事業承継のプロセスは、非常に複雑で困難です。

満足のいく事業承継を実現するためには、余裕を持って準備を始めることが何より重要になってきます。後継者問題を抱えている経営者にとって、事業承継の対策は早いに越したことはありません。専門家によるサポートを受けながら、時間をかけて計画を立て、着実に実行していきましょう。

青山財産ネットワークスの特徴

青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。

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