遺産相続される財産は、現金や不動産などに限りません。相続財産は亡くなった人の所有していたさまざまな財産が対象で、金融商品である株式もそのひとつです。ただ、株式の相続は手続きが複雑で、あらかじめ理解しておくべきことが数多くあります。
そこでこの記事では、株式を相続する流れや、相続する株式の評価方法、株式の分割方法、株式を相続する際の注意点などについて解説します。将来的に親族から株式を相続する可能性がある方は、参考にしてください。
株式を相続する流れ
相続財産と言えば銀行預金や不動産などがまず思い浮かぶかもしれませんが、株式も含まれます。ただ、株式の相続手続きは複雑で、関係者とのやり取りや手続きを踏んでいかなければなりません。
それでは、まずは株式を相続する基本的な流れについて見ていきましょう。
相続人と相続財産の調査
被相続人が亡くなったら、何より先にまず遺言書が残されているかを確認します。同時に、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて、相続人を確定させてください。
また、被相続人の相続財産についても調査を行い、相続財産に株式が含まれているか確認します。上場株式については、証券会社に被相続人が亡くなったことを伝えることで、相続手続きに必要な書類を発行してもらえます。どの会社の株式を保有していたかについては、取引していた証券会社から定期的に送られてくる取引残高報告書などの郵送物で確認することが可能です。
非上場株式は、証券会社を通じて取引されていません。そのため、被相続人が保管している記録などから確認することになります。
残高証明書の発行
被相続人が取引を行っていた証券会社が判明したら、証券会社に対して「残高証明書」の発行を依頼します。相続人であれば、戸籍などを提示すれば残高証明書を発行してもらうことが可能です。
なお、残高証明書では、被相続人が保有する上場株式の銘柄、数、価格(相続開始日の時価)を証明できます。
遺産分割協議の実施
遺言書が残されていた場合、財産の相続配分は遺言書の内容が優先されるケースが多くなっています。しかし、遺言書が無い場合や、遺言書で相続配分が指定されていない場合は、株式を含むあらゆる相続財産についての遺産分割協議が必要です。
どの相続人がどの会社の株式をどれだけ相続するか協議し、相続人全員で合意したら、遺産分割協議書を作成します。なお、株式の分割には、「現物分割」「代償分割」「換価分割」という方法があります。
名義変更
遺言書の内容や遺産分割協議などを経て株式の相続人が決まったら、株式の所有者の名義変更を行います。上場株式の場合、基本的には証券会社に必要書類や申請書を提出し、その後、株式の相続人の証券口座に株式が移管される流れです。
ただ、相続人が証券口座を持っていない場合、株取引を行うための口座開設から始めることになります。非上場株式の場合には株式の発行会社に相続の件を伝え、名義変更を依頼してください。
株式は相続自体が完了しても、被相続人名義のままでは売却できません。そのため、被相続人の名義であった上場株式を、新しい所有者である相続人の名義の証券口座に移管します。その上で、任意のタイミングで売却することになります。
相続税の申告・納付
相続した財産が基礎控除額を超えていれば、相続税の申告と納付を行う必要があります。相続税の申告は、相続が発生したことを知った日の翌日から10ヶ月以内で、納付の期限も同じです。なお、納付の方法については、原則として現金による一括納付です。
遺産相続のプロセスでは、相続財産や相続人の調査、保有株式の調査や評価、名義変更など、やるべきことは数多くあります。他の相続人や証券会社など関係者とのやり取りなどに時間がかかる場合もあるため、相続が発生したら、できるだけ早い段階で相続問題の解決に着手することが大切です。
株式の評価方法
民法における法定相続人が遺産分割協議を進める際、株式の価値が明確でなければそれぞれの相続人の相続財産を計算することはできません。このように、株式を相続した場合、その株式の価値がどれほどあるかは重要な問題です。そこでこちらでは、株式を評価する方法について解説していきます。
上場株式の場合
上場株式は東証プライムや東証スタンダードなどの証券取引所で売買されており、取引価格を基準に評価することになります。なお、上場株式の相続税評価額は、次の4つのうち最も低い価格を採用できます。
・相続開始日の終値
・相続があった月の終値の平均額
・相続があった月の前月の終値の平均額
・相続があった月の前々月の終値の平均額
非上場株式の場合
非上場株式の評価方法は、被相続人が保有していた株式の割合によって「原則的評価方式」と「配当還元方式」の2つに大きく分けられます。
その中で原則的評価方式には、会社の規模の「大・中・小」に応じて3つの計算法があります。一方、配当還元方式とは、非上場株式の配当金の金額をもとに評価額を算出する手法です。
株式の分割方法
遺言書がなく、親から子に株式を相続させる際、相続人が1人の場合はその相続人がすべての株式を相続することになるため、プロセスは極めてシンプルです。
しかし、遺言状が無く、相続人が複数いる場合は遺産分割をする必要があります。株式の遺産分割方法としては、以下の3つの種類がありますので、それぞれの仕組みについて見ていきましょう。
現物分割
特定の相続人が、株式を金銭へ変換せずにそのまま相続する方法を「現物分割」と言います。1人がすべての株式を相続するのはもちろん、1つの銘柄の株式を2人で同じ数量に分けるのも現物分割に当たります。
代償分割
1人の相続人がまず株式を取得し、その相続人が法定相続分に応じて他の相続人に金銭を支払う方法が「代償分割」です。たとえば相続人である3人兄弟に1,500万円分の株式がある場合、まず誰か1人が全株式を取得します。その後、他の2人にそれぞれ500万円ずつ現金を支払うという流れです。
なお、株式の相続でどの程度手元に現金が残るかは、時価によって変わってきます。売却時に時価が値上がりすると相続時よりも手残り額が高くなる可能性もありますし、所得税や手数料などによって手元にわずかしか残らないかもしれません。
一方で、株式を相続しないで代償金を受け取る相続人からすると、所得税や手数料を支払わずに済むことになります。
換価分割
「換価分割」は、株式を売却して得た代金を相続人の間で分ける方法です。配分は、法定相続分に従うことも、遺産分割協議で決めることもできます。たとえば子ども3人のみが相続人で法定相続分に従う場合、売却代金が1,500万円なら1人が500万円ずつの金額を受け取ることになります。ただし譲渡益が発生した場合は売却代金に応じて相続人はそれぞれ譲渡税を負担しなければなりません。
株式を相続する期限
相続が発生してから数年後に、実は被相続人が株式を所有していたという事実が発覚することもあるかもしれません。このような状況で気になるのは、「株式の相続に時効や期限があるのか」という点です。
そこでこちらでは、株式の相続の期限に関する疑問について解説していきます。
株式の相続自体に時効は無い
株式の相続には、時効はありません。そのため、被相続人が亡くなってから何年も経過した後に発見されるようないわゆる「タンス株」であっても、相続人は相続することが可能です。
一方で相続税には時効があります。相続税の時効は、原則として法定申告期限(死亡日の翌日から10ヶ月後)から5年です。申告期限から5年以上経過してから見つかった株式については、後から修正申告をする義務は生じません。
ただし、相続税の申告と納付の義務を知りながら故意に放置した場合は、時効は7年に延長されます。さらに、税務署からの納税要求や督促があった場合、時効はリセットされて期間は最初に戻ります。
申告・納税に応じないと状況によってはペナルティが課され、延滞税や過少申告加算税、重加算税、無申告加算税などを支払う義務が生じる恐れがあるため要注意です。ペナルティを回避するためにも、遺品整理時にタンス株をはじめとする財産の見落としがないかしっかり確認しておきましょう。
未受領の配当金に時効はある
株式を保有していれば、配当金が支払われる場合があります。被相続人には未受領の配当金がある可能性が生じますが、この未受領配当金には時効が設定されています。
時効期間を経過した後に請求された場合、株式を発行している会社は配当金の支払いの義務を負いません。未受領配当金の時効は民法では10年とされていますが、株式発行会社の定款によっては未受領の株式の支払い義務が消滅する「除斥期間」が定められているケースもあります。
除斥期間は3年や5年など、10年より短い期間で設定されていることが多いため、発行会社の定款をご確認ください。
株式を相続する際の注意点
株式を相続することになった場合、申告や納税など義務が発生します。こうしたことを知らない状態で相続をすると、後から困ったことに直面する可能性も否定できません。そこでこちらでは、株式を相続する際の注意点について解説していきます。
売却して利益が出たら譲渡所得税が発生する
株式を売却して譲渡益が出た場合、相続人には相続税とは別に譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は所得税と住民税で構成され、売却益にかかる税率は20.315%です(2024年5月時点)。
株式の売却益は「株式の売却金額-手数料-株式の取得費」で求められますが、通常の相続の場合に取得費は「被相続人が生前に、その株式を取得するために費やした金額」です。相続人が相続で取得した時点での評価額ではないので、注意してください。
ただし、相続が発生した日の翌日から3年10ヶ月以内に株式を売却した場合、すでに納めた相続税の一部を株式の取得費用として加算できる特例を利用することが可能です。これを、「取得費加算の特例」と言います。
準確定申告をすることになる
通常の確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの税額を計算し、翌年の2月16日から3月15日にかけて本人が申告・納税します。
しかし、確定申告をすべき人が亡くなったら納税がされなくなってしまいます。この場合、相続人が被相続人に代わって「準確定申告」をすることが必要です。
株式を相続した場合、被相続人が株式の売買をしていて、さらに確定申告が必要な場合に、相続人が準確定申告を行います。準確定申告は「相続が始まった日の翌日から4ヶ月以内」という期限があるので、申告の作業にはできる限り早めに取り掛かりたいところです。
非上場株式には売却制限がある
非上場株式は、上場株式のように証券取引所で売買することはできません。相続した非上場株式を売却するのであれば、自分で買い手を見つける必要があります。さらに、非上場株式は自由に売却できない「譲渡制限付き株式」になっていることが多く、原則として相続はできるものの売却は容易ではありません。
場合によっては発行会社が買い取ってくれるかもしれませんが、買い取りの義務は無いので、相続後に持て余してしまう恐れがあることは認識しておいた方がいいでしょう。
まとめ
株式は、相続にあたり名義変更や相続税の納付などを行う必要があります。その際、証券会社や株式を発行した会社などやり取りが発生しますが、手続きが遅れると相続税の申告期限に間に合わないかもしれません。相続が発生したら、できるだけ早く誰がどれだけの財産を相続するのかを確定できるように行動しましょう。
また、遺産分割を行う場合、上場株式であれば手続きはスムーズに進みますが、非上場株式は評価額の算出方法が非常に難解です。自分で適切な評価額を割り出すことは難しいので、税理士等の相続問題に精通している専門家の助けを借りて相続に臨むことをおすすめします。
青山財産ネットワークスの特徴
青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、財産の承継・運用・管理や事業承継に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。
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