2024.07.26
事業承継
株式譲渡にかかる税金とは?課税される税金の種類や計算方法、特例などについて解説
株式譲渡とは、売り手の株主が持っている株を買い手に売って、会社の経営権を移す取引のことです。この取引が成立すれば、売り手の株主は対価として金銭を受け取ることになりますが、同時に譲渡益が出た場合は税金も課税されます。

では、具体的にどんな税金がかかり、どれくらいの金額を支払うことになるのでしょうか。この記事では、株式譲渡でかかる税金の種類や計算方法、特例、注意点などをわかりやすく解説していきます。

株式譲渡にかかる税金の種類


所有している株式を他者に譲渡すると、売り手へ税金が課されることになります。では、株式譲渡にはどのような種類の税金がかかるのかを解説していきます。

所得税

株式の売り手が個人の場合、株式譲渡で発生した譲渡益に対して所得税が課税されます。所得税には、給与などの所得と合算する総合課税と、他の所得とは分離して計算する分離課税の2種類があります。株式の譲渡所得は、分離課税として計算されるルールです。税率は15%で、後述する復興特別所得税と合わせて15.315%が所得税という扱いになります。くわえて、2025年からは年間所得3.3億円以上の人に対する追加課税措置「ミニマムタックス」により、最大22.5%になりますので留意してください。

<総合課税と分離課税について>

所得税への課税方法は、所得の種類によって総合課税と分離課税に分かれます。総合課税には給与所得や事業所得、株式の配当所得、不動産所得などが含まれており、これらの所得をひとまとめにして課税する仕組みです。総合課税は累進課税方式で、所得金額が多ければ税率も高くなります。

一方、分離課税は対象となる所得について個別に課税する方法です。譲渡所得は分離課税に該当し、譲渡所得の種類としては株式等があてはまります。

住民税

住民税も所得税と同様に、個人が株式譲渡して得た譲渡益に対して課税されます。所得税と同じく他の所得と分離して税金計算を行い、税率は一律で5%です。確定申告で所得税は納税することになりますが、住民税の納付は別途行います。確定申告をした年の4~5月に住民税の納付書が送付され、一括あるいは4分割で納付します。

復興特別所得税

復興特別所得税とは、東日本大震災からの復興のための財源を確保するための税金で、2037年12月末までの時限的な措置です。

復興特別所得税の対象者は所得税を納める個人で、税率は所得税額の2.1%。株式の譲渡益に対する所得税率は15%なので、税率は所得金額×所得税率15%×特別復興所得税2.1%=0.315%となります。

法人税

企業などの法人が株式を売却して譲渡益を得た場合、法人税が課税されます。

法人の株式譲渡益は、個人とは異なり課税所得を分類しません。そのため、事業上の利益など株式譲渡益以外の損益と合わせて計算されます。法人税の税率は会社規模や課税所得、自治体などに応じて異なります。東京都の場合は、約22~35%程度です。

株式譲渡にかかる税金の計算方法


株式譲渡によってどれくらいの税金を支払うことになるのかは、当事者としては気になるところではないでしょうか。

こちらでは、株式譲渡で発生する譲渡所得税の計算方法を紹介します。上場株式等とそれ以外の株式(一般株式等)では異なる点がありますので、それぞれについて見ていきましょう。

上場株式等の場合

上場株式等の譲渡における税金は、まず譲渡所得(譲渡益)を割り出すところから始まります。譲渡所得は譲渡価額から取得費や手数料などを差し引いた額で、計算式は「譲渡価額−必要経費(取得費+委託手数料など)」です。取得費とは株式の取得にかかった費用で、委託手数料は株式の売買の際に証券会社などに支払った手数料を指します。

次に、譲渡所得に各種税金の税率をかけます。個人の場合に税率は、所得税と復興特別所得税を合わせた15.315%と住民税の5%です。そして、それらの合計である20.315%が、株式譲渡で課税される税金の合計額となります。

一般株式等の場合

株式市場に上場していない会社の株式など、上場株式等以外のものをまとめて一般株式等と呼びます。

一般株式も譲渡所得の計算方法は上場株式等と同様で、計算式は「譲渡価額−必要経費(取得費+委託手数料など)」です。一般株式等の代表例が非上場株式であり、非上場企業は経営者が株式を保有しているケースが圧倒的に多いという特徴があります。

個人が株式を譲渡する場合、これも上場株式等と同様に、譲渡所得に対して所得税(15.315%)と住民税(5%)を合わせた20.315%が課税されます。なお、法人が株式を譲渡する場合では、譲渡する側に法人税や事業税、住民税が発生する点には注意してください。

ただし、非上場株式等の場合、株式の購入代金や、購入に要した費用といった取得費が不明な場合が多く見られます。このように非上場株式等の取得費がわからないのであれば、「概算取得費」として収入金額の5%を取得費と見なして計算することができます。

株式譲渡の税金に適用される特例制度

株式譲渡を行うと税金が発生するのは、上記の項目で紹介した通りです。ただし特例制度により、状況に応じて税金の負担が軽減されるケースもあります。

では、株式譲渡の税金に適用される特例制度には、どのようなものがあるのでしょうか。

取得費加算の特例

相続で取得した土地や建物、株式などを売却して得た譲渡所得を計算する際、相続税額のうちの一部を譲渡資産の取得にかかった費用に加算できる制度です。

譲渡所得税の所得金額は、「収入金額−((取得費+譲渡資産に対応する相続税額)+譲渡費用)」の計算式で算出されます。収入金額から引かれる金額が大きくなるため、所得税を減額することが可能です。

取得費加算の特例は、上場株式・非上場株式のどちらでも利用できるという特徴があります。しかし、適用されるのは相続発生から3年10ヶ月以内に売却して譲渡所得を得た場合です。生前贈与された株式などを売却した場合は、特例の対象外なので注意しなければなりません。

損益通算で利益と損失を相殺

特定口座内で取引される株式の譲渡所得は、分離課税が適用されますが、上場株式等の譲渡損益であれば損益通算が可能です。そうすることで損失と利益を相殺でき、所得の額は小さくなります。損失が残った場合には譲渡損失の繰越控除を適用することが可能で、この制度では確定申告をすれば譲渡損失を翌年以降3年間繰越せます。ただし、上場株式と非上場株式を合わせての損益通算は認められていません。

なお、一般口座も自身で計算して損益通算することが可能です。なおかつ申告により、譲渡損失の配当等との損益通算ができます。

株式譲渡の税金に関する注意点


株式譲渡を行う際には、譲渡益が出た場合に譲渡所得税が課されるというのは、株式譲渡の当事者にとっては最低限知っておくべき点です。

ただ、株式譲渡にはルールがあり、それに従わない場合には、より多くの税金が課せられる恐れがあります。こちらでは、株式譲渡の税金に関する注意点について解説していきます。

親族間で株式譲渡を行う場合

家族など親族間で株式の売買を行う場合には、譲渡価額の設定には注意しなければなりません。親族間の売買では譲渡価額を低く設定するケースが考えられます。しかし、適正な時価よりも著しく低い価額で譲渡すると、譲渡価額と適正な時価との差額は贈与したものと見なされて、買い手に贈与税が発生する可能性があります。

贈与税は、暦年課税の場合に累進課税方式で計算され、贈与の額に応じて税率は変わります。家族間における非上場株式の売買は、価額の決め方について恣意性が介入するおそれがあるため、株式の時価を適正に計算することが重要です。

同族会社間で株式譲渡を行う場合

親族が経営する同族会社間において、後継者に経営を引き継ぎたい場合には株式譲渡がよく用いられ、株主総会のように承認を求める場を設けずに、書類手続きを進めてしまうケースもあります。その場合、従業員や株主から引き継ぎ後の経営方針や事業計画に反発が生まれるリスクが高まるため、要注意です。

スムーズに経営を行うためにも、株式譲渡は経営陣のみで進めるのではなく、従業員や株主の理解を得やすい形で進めていく必要があります。

まとめ

株式譲渡は、個人や会社が持つ株式を他者に譲渡するM&Aのひとつの手法です。事業譲渡などと比較して手続きはシンプルなので、中小企業のM&Aにおいては頻繁に利用されています。ただ、個人が株式譲渡を行って譲渡益を得た際、譲渡所得税が発生します。同じく、法人が株式譲渡によって利益を得た場合には法人税が課税される仕組みです。

誰が誰に対して株式を譲渡するか、どれだけの価値の株式を譲渡するかによって、かかる税金の額は変わります。税金についての知識を持った上で株式譲渡を実施しなければ、税金で想定外の事態が起こるかもしれません。株式譲渡を検討しているのであれば、税理士に相談すると譲渡税等の税務相談にも対応してもらえるため、安心して進められるでしょう。

青山財産ネットワークスの特徴

青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。ホームページでは専門家がまとめた最新の税制改正情報も公開していますので、ぜひ参考にしてください。


 

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