2024.07.30
コラム
配当還元方式とは?定義や要件、計算方法、使われる場面について解説
上場株式は証券取引所で売買されますが、各株式の価値は取引を通じて株価という指標として表されます。一方、証券取引所に上場していない非上場株式は取引がされていないため、市場価格が存在しません。そのため、たとえばオーナ家ではない方が非上場株式を相続した場合、資産価値を把握するために役立つのが相続税の評価額です。相続税やその評価額を算出するための、相続税法で定められた財産評価基本通達に従った評価方法の1つが、配当還元方式という計算法です。

この記事では、配当還元方式の定義や適用要件、計算方法、配当還元方式を適用可能なケースや適用する際の注意点、配当還元方式以外の非上場株式の評価方式などについて解説していきます。

配当還元方式とは?



株式の売買に関係ある「配当還元方式」ですが、この用語を聞く機会はあまりないかもしれません。しかし、相続の当事者になった際、この配当還元方式が重要な意味を持つ場合があります。

それでは、まず配当還元方式についての基本的な概要や用いられる場面について確認していきましょう。

非上場株式の評価額を計算する手段

配当還元方式とは、非上場株式の評価額を計算する手段のひとつです。

非上場株式は財産であり、親が亡くなった場合は子などの相続人が相続で取得することになります。親族から財産を相続する際には相続税が発生することもあり、相続税の額は株式の価値によって左右されます。上場株式であれば、証券取引所の取引価格で価値を算出可能です。しかし、非上場株式には価格が定められていないため、専用の計算方法が用いられます。そのひとつが、「配当還元方式」です。

配当還元方式が用いられる場面

配当還元方式は、同族会社や同族株主がいる会社において、少数株主の株式を評価する際に用いられます。

同族会社・同族株主とは、オーナー創業家の方々で議決権の大半を保有している会社やその株主で、会社の経営に対して大きな影響力を持っている株主をいいます。一方で少数株主は、会社の経営への影響というよりも、配当金を得ることが株式を保有する主な目的となっているため、少数株主が所有する株式の評価の際には、配当金を基準に株式の価値を計算する配当還元方式が用いられます。

配当還元方式では、株式の配当をしていた場合としていなかった場合(無配)で計算方法が異なります。過去2年以上にわたって株式の配当をしていた場合、会社が持つ資産や価値の中で考慮されるのは配当金のみです。一般的に他の手法で計算した場合より評価額が低くなる事例が多いため、相続税や贈与税の額を抑えられる可能性が高くなります。一方で無配の場合は、1株あたりの年配当金額を2円50銭と仮定して計算します。

配当還元方式の適用要件



上記で説明した通り、配当還元方式が適用されるのは、端的にいうと株式を取得する人物が「同族株主等以外」であることとされています。

自分が同族株主かそれ以外かどうかを判断するには、「同族株主」「中心的な同族株主」「中心的な株主」について理解する必要があるので、それぞれの定義についてそれぞれ解説していきます。

同族株主

同族株主とは、株主の1人またはその同族関係者が議決権の合計で30%以上を持つ場合の株主及びその同族関係者を指します。議決権比率が50%超の株主グループがある場合は、その他の株主グループは同族株式になりません。

なお、同族関係者にある個人は、株主の配偶者や親族、内縁関係にある人、使用人、株主からの金銭や資産によって生活している人などが含まれます。

中心的な同族株主

同族株主グループ内で、取得後の議決権割合が5%未満のケースが中心的な同族株主です。同族株主の1人及び株主の配偶者、直系血族、兄弟・姉妹、1親等の姻族(同族関係者である会社中で、これらの人が持つ株式の議決権の合計が議決権総数の25%以上の会社も含む)が有する議決権が、合計で議決権総数の25%以上である場合の株主があてはまります。

直系血族とは、自分の父母、祖父母、曾祖父母、子、孫、曾孫、玄孫などの親族のことです。一方で姻族とは配偶者の血族で、1親等姻族とは配偶者の父母等のことを意味しています。

中心的な株主

同族株主のいない会社の株主となっているケースです。株主の1人及びその同族関係者が持つ議決権の合計が15%以上の株主グループの中で、1人で10%以上の議決権を有している株主がいる場合、その人が中心的な株主となります。

配当還元方式の計算方法



配当還元方式による評価額である「配当還元価額」は、計算式を理解していれば専門家でなくても算出可能です。

それでは、配当還元方法の計算式について解説していきます。

配当還元方式の計算式

まず、過去2年間の「年間配当金額の平均値」を1株あたりの資本金等の額を50円として算出した「発行済株式数」で割って、1株あたりの「年配当金額」を求めます。その後、「年配当金額」を10%で割り戻します。年間配当額が2円50銭未満の場合は、1株あたり2円50銭として計算します。なお、具体的な配当還元方式の計算式は以下の通りです。

◎配当還元価格=(1株あたりの年間配当額÷10%)×(1株あたりの資本金等の額÷50円)

具体的な計算例

<前提条件>

・資本金等の額/1,000万円
・発行済み株式数/1,000株
・1株あたり資本金等の額/1万円
・前期配当金総額/100万円
・前々期配当金総額/100万円
まず年間の配当金額を算出します。

(100万円+100万円)÷2÷(1,000万円÷50円)=5円

次に配当還元価額を算出します。

(5円÷10%)×(1万円÷50円)=1万円

計算式によると、この非上場会社の場合、配当還元方式で算出した1株あたりの評価額は1万円となります。

無配当でも0円にはならない

非上場会社は上場会社とは異なり、剰余金が発生しても配当金が支払われないケースが多くなっています。そのため配当還元方式では、過去に配当金が出ていない無配当の場合でも、株式の評価額は0円にはなりません。
無配当の場合は、1株当たりの直近2年間の平均配当金を2円50銭に設定することになっており、結果として1株当たりの資本金等の額×50%が配当還元方式の評価額になります。

配当還元方式以外の評価方法

非上場株式の株式を評価する方法は、配当還元方式だけではありません。こちらでは、配当還元方式以外の評価方法について紹介します。

同族株主は原則的評価方式

非上場株式の価額算定に使われるアプローチの1つが、「原則的評価方式」です。原則的評価方式は「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という2種類の方法をまとめた総称で、同族株主等は原則的評価方式で評価します。この方式では、評価の対象となる会社を総資産価額・従業員・取引金額によって「大会社」「中会社」「小会社」に分けて評価するのが特徴です。

なお、以下の項目で、類似業種比準方式と純資産価額方式についてそれぞれ説明します。
類似業種比準方式
類似業種比準方式とは、評価対象の会社を、類似する上場企業と比較する評価手法です。対象となる会社は、上場企業の平均株価や年間の利益、純資産価額、1株あたりの配当金などの指標をもとに、株価を算定します。

類似業種比準方式は上場企業の株価に左右されやすく、配当額が株価に影響を与える倍率が最も高い評価方法です。また、実際の取引価格を参考にしていることも特徴です。

純資産価額方式
純資産価額方式とは、評価対象の会社の1株式に対し、どの程度の純資産を割り当てられるかという点に着目して株式を評価する方法です。簡潔に表現すると「評価対象の会社が解散した場合、株主にどれくらいの金額が戻ってくるのか」という考え方といえます。

純資産価額方式を計算するには、会社の総資産や負債を、相続税を計算するときの時価に置き換え、評価した総資産の価額から負債や評価差額((相続税評価額による純資産評価額−帳簿価額による純資産の合計額)×37%)に対する法人税等の相当額を差し引いてください。そこから最終的に残った金額で評価します。「中会社」であれば、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用します。

配当還元方式により評価する場合の注意点

非上場株式を配当還元方式で評価したものの、期待していた課税額にならない可能性もあります。以下の2点を押さえたうえで、配当還元方式が会社にあった評価方法かどうか入念に検討してください。

原則的評価方式の評価額の方が低くなる場合も

基本的には、原則的評価方式で算出した場合の方が、配当還元方式よりも評価額が高くなります。しかし、状況によっては、原則的評価方式の方が配当還元方式より評価額が低いこともあるため、その場合は原則的評価方式で算出しても問題はありません。

たとえば債務超過となっている場合や、業績を上回る配当を行っている場合などは、原則的評価方式の評価額が配当還元方式を下回る可能性が高いでしょう。

臨時的な配当は含まれない

中間配当がある場合、通常の配当である期末配当との合計が年間の配当金額になります。ただし、「特別配当」や「記念配当」など、将来毎期継続することが予想できない金額は、年間の配当金には含まれません。

まとめ

配当還元方式は、非上場株式の評価額を算定する方法の1つです。同族会社や同族株主がいる会社において、少数株主が保有する株式を評価する際に用いられます。ただ、非上場株式の評価額は、株主や会社の規模などによって類似業種比準方式や純資産価額方式で算出される場合もあります。このように、非上場株式の評価額の算定は非常に複雑です。

非上場株式の仕組みを正確に理解するのは、なかなか大変かもしれません。相続や贈与、遺贈によって非上場株式を取得した際には、自分でどうにかするのではなく、税理士に相談するのもいいでしょう。

青山財産ネットワークスの特徴

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