2024.07.01
税制・法令
【2023年度税制改正】生前贈与加算期間延長と相続時精算課税の見直し:背景、改正内容、影響について解説
目次
1.暦年贈与課税の生前贈与加算期間の延長
 1-1.背景
 1-2.改正内容
 1-3.改正の適用開始時期
 1-4.影響
2.相続時精算課税の使い勝手向上
 2-1.背景
 2-2.改正内容
 2-3.改正の適用開始時期
 2-4.影響
3.まとめ

暦年贈与課税の生前贈与加算期間の延長

背景

相続税及び贈与税はともに超過累進税率を採用していることから、相続や贈与で一度に多額の財産を取得した場合は高税率による相続税や贈与税の負担が生じます。

そのため、早期から長期間にわたり少額の生前贈与を続けることで、暦年課税における基礎控除110万円の活用や超過累進税率による高税率を避けて贈与税を回避するとともに、生前贈与により相続財産を減少させて相続税を回避するといった、いわゆる「最適贈与」とも呼ばれる相続対策が広く行われています。

このような相続対策に対し相続税においては、相続開始前3年間の贈与財産は相続財産に加算させて相続税を課税することで、資産移転の時期に対する中立性を一定程度図っていました。これを生前贈与加算と言います。今回の改正では、この資産移転の時期に対する中立性を高めるために、生前贈与加算期間が3年から7年に延長されました。

改正内容

  1. 相続財産に加算される贈与財産について、加算対象となる贈与の期間が相続開始前3年から7年に順次延長されます。
  2. 延長した4年間に受けた贈与のうち総額100万円までは相続財産に加算されません。



改正の適用開始時期

2024年1月1日以後の贈与により取得する財産に係る相続税について適用されます。

影響

生前贈与加算期間の延長により、相続税の課税対象となる贈与財産が増加する可能性が生じます。改正後は相続税を課税されない贈与をより長期間続けられるように、早い時期から生前贈与を開始するケースが増加することが考えられます。

相続時精算課税の使い勝手向上

背景

贈与税には暦年課税以外に、相続時精算課税という制度があります。相続時精算課税では、贈与財産の総額について特別控除額2,500万円までは贈与税が課税されず、2,500万円を超えた金額に対し税率20%で贈与税を課税する制度です。

2,500万円の特別控除があり超過累進税率が適用されないため、まとまった金額の贈与をする際に相続時精算課税を選択すると、贈与税の負担を少なくすることができます。しかし、相続時精算課税には以下のようなデメリットがあったことから、使い勝手が悪く利用が限定されていました。

  • 相続時精算課税は暦年課税で認められている毎年110万円の基礎控除のような非課税枠がない。
  • 相続時には贈与財産はすべて相続財産に加算され、相続税が課税される。相続税は超過累進税率であるため、相続時精算課税による贈与財産についても、結局は高額な相続税を負担しなければならないケースがある。
  • 贈与後に贈与財産の価格が変動した場合であっても、相続時には「贈与時の価額」で相続財産に加算しなければならない。したがって、贈与後に贈与財産の価額が下落してしまうと、贈与しなかった場合よりも相続税の負担が増えるケースが生じる。
そこで、相続時精算課税の使い勝手を向上させるため、改正により暦年課税における基礎控除110万円とは別枠で、相続時精算課税においても110万円の基礎控除が創設されました。

改正内容

  1. 相続時精算課税制度においても毎年110万円の基礎控除が創設されます。
  2. 相続時に相続税の課税価格に加算される贈与財産の価額は、各年の基礎控除後の残額です。
  3. 相続税の課税価格に加算される贈与財産の価額について、災害により一定以上の被害を受けた場合は、相続時に再計算されます。
 



改正の適用開始時期

2024年1月1日以後贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます。

影響

改正により相続時精算課税にも基礎控除110万円が認められるため、今までの基礎控除110万円の適用が受けられないというデメリットは解消されます。また、相続時精算課税の基礎控除110万円以下の金額については、暦年課税の基礎控除と違い、相続財産に加算する必要はありません。したがって毎年110万円までの贈与財産は贈与税も相続税も課税されないこととなり、これは、改正による相続時精算課税の大きなメリットと言えます。これにより、今後は相続時精算課税による贈与が増加することが見込まれます。

まとめ

暦年課税は生前贈与加算期間が3年から7年に延長されたため、相続税の課税財産が増加する可能性が高くなることから、やや使い勝手が悪くなったと言えます。

一方、相続時精算課税は暦年課税とは別枠での110万円の基礎控除の創設や、被災した贈与財産の相続時の再計算により、使い勝手が向上したと言えます。相続時精算課税を検討できるケースとして、例えば相続税が発生しないと見込まれるケースや多額の財産を一気に贈与したいケースの他、創設された相続時精算課税の基礎控除110万円を適用したいケースなどが挙げられます。

暦年課税贈与と相続時精算課税贈与をどのように使い分けるかを判断するには、贈与者の年齢や健康状態、贈与者の財産構成を中心に様々な要素を勘案しなければなりません。これらの要素に加えて、暦年課税や相続時精算課税の改正内容を考慮して、いつから贈与を始めるのか、贈与する財産の種類や金額をどうするのか判断し、計画的に贈与を行うことが求められます。

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