2024.07.08
財産承継
株式譲渡とは?基本的な概要や種類、メリット・デメリット、手続きなどを解説
自社の株式を第三者に譲渡することで、経営権などを承継させる株式譲渡。M&Aの手法の1つで、株式を売買するのみのシンプルさから、中小企業のM&Aでは非常に多く採用されています。しかし、株式譲渡のために具体的に何をすればよいかわからず、興味があってもなかなか踏み出せない方もいるかもしれません。

この記事では、株式譲渡の基本的な概要やメリットとデメリット、株式譲渡に必要な手続きやかかる費用、株式譲渡を行う際の注意点などについて解説します。

株式譲渡の定義


株式譲渡とは、譲渡企業(売り手となる会社)の株主が、保有株式のすべてまたは一部を譲受先(買い手となる会社)に譲渡することで、会社の経営権を移転させる方法です。株式譲渡が成立すると、会社の経営者や株主が入れ替わり、売り手の事業や資産、人材などが買い手に統合され、法人格もそのまま買い手に移転します。

株式譲渡は当事者の合意のみで効力が発生するという手続きの容易さから、特に中小企業のM&Aとして多く採用されています。

株式譲渡の種類

株式譲渡の方法には、「市場買付け」「TOB(公開買付け)」「相対取引」の3つのパターンがあります。中でも、こちらの記事では非上場企業の株式を譲渡する場合の手法である「相対取引」について、詳しく解説していきます。

非上場株式における相対取引

相対(あいたい)取引とは、株主との直接交渉で、主に非上場企業の株式を取得する手法です。株主の数が極めて少ない場合は交渉がしやすく、基本的に株式譲渡はスムーズに進んでいきます。

一方で、多くの株主が株式を分散して保有している場合は株主と個別に交渉して買い付けることになるため、交渉がなかなかまとまらない恐れがあります。

株式譲渡と似た用語との違い

M&Aの手法として活用されている株式譲渡ですが、会社や事業を譲渡する方法は株式譲渡だけではありません。株式譲渡以外の方法には事業譲渡や合併があります。

それぞれ仕組みとしては株式譲渡とは異なりますが、具体的にどのような違いがあるのかを詳しく解説していきます。

事業譲渡との違い

事業譲渡とは、売り手となる企業の事業の一部、または全部を譲渡するM&Aの手法です。株式譲渡とは譲渡する範囲が異なり、事業譲渡では譲渡する事業や資産は選択できるため、買い手は欲しい資産だけを買い取り、一方で売り手は売りたい資産だけを売却することが可能です。つまり、事業譲渡の場合では売り手企業はそのまま存続しますが、株式譲渡では会社の経営権ごと買い手に移ることになります。この点が、事業譲渡と株式譲渡の大きな違いです。

合併との違い

合併は、複数の企業を1つに統合することを意味する言葉です。合併には吸収合併と新設合併の2つのパターンがあり、吸収合併は一方の企業が他方に吸収され、吸収した企業は存続します。新設合併は、すべての対象企業が消滅し、新設された会社に事業や資産が引き継がれます。

対象企業が存続するかどうかが、株式譲渡と合併の異なる点です。株式譲渡の場合、買い手の支配下に入りますが、対象企業自体は存続します。しかし、合併では買い手への吸収や会社の新設に伴い、対象企業の法人格は消滅することになります。

譲渡企業にとっての株式譲渡のメリット・デメリット


非上場企業にとってのM&Aの手法として、数多く活用されている株式譲渡。具体的に、売り手となる企業にはどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。デメリットと合わせて確認しておきましょう。

メリット1/事業を存続できる

事業をそのまま存続できるのは、株式譲渡の大きなメリットです。株式の保有者が新しくなるだけで、会社としての事業活動や従業員、取引先との関係などは変わることなく引き継がれます。また、買い手の子会社として事業を展開することになれば、親会社のブランド力や資産も活用できるので、新たな発展・成長が期待できます。

メリット2/株式譲渡の対価を獲得できる

株式譲渡では、譲渡した株式の対価は基本的に金銭で支払われます。そのため、売り手は売却によって資金を獲得できます。株式を売却したのがオーナー社長であれば、その資金によって何か新しい事業を始めることはもちろん、退職金の代わりとして受け取るという選択も可能です。

メリット3/株式譲渡の売却益にかかる税金を抑えられる

事業譲渡の場合、売り手となる株主に対して譲渡益の約30%の法人税がかかります。一方で、株式譲渡では税金は譲渡益に対する所得税・住民税の20.315%で済みます。このように譲渡益にかかる税金を抑えることで、売り手は多くの資金を残せるのは、株式譲渡のメリットです。

ただし、2023年度の税制改正より、2025年分以降の所得税は「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置(高額所得者ミニマムタックス)」の後に適用されます。そのため、株主譲渡の際には税負担率が増加する可能性がある点には注意する必要があります。

デメリット1/負債額によっては買い手がつかない

株式譲渡では、自社の事業や資産はもちろん、従業員や負債も含めて包括的に買い手が引き継ぐことになります。ただ、売り手が抱える負債が大きすぎる場合、株式を買うことに積極的になる買い手が現れにくく、株式譲渡が成立しない恐れがあります。

デメリット2/不採算事業があると譲渡価格が下がる

株式譲渡は事業譲渡とは異なり、一部の事業だけを切り離して売却できない仕組みです。そのため、自社に不採算事業があると資産がマイナスの評価になり、譲渡価額が減額される可能性があります。できるだけ良い条件で譲渡するためには、会社分割や事業譲渡などで不採算事業を切り離すといった対策が必要です。

譲受企業にとっての株式譲渡のメリット・デメリット

上記では株式を譲渡する側のメリットとデメリットについて紹介しましたが、一方で買い手となる場合はどうなのでしょうか。

それでは、譲受企業のメリットとデメリットについて見ていきましょう。

メリット1/会社の経営権を取得できる

株式譲渡を行うことで売り手の50%以上の株式を取得した場合、その会社の経営権を持つことができます。具体的には、株主総会において議決権を行使し、自分の意見を通せるようになります。すべての株式を取得した場合、買い手側は支配権を完全取得することになり、経営方針などに他者から影響を受けることはありません。

メリット2/短期間で会社に必要な資源を確保できる

会社の成長には、優秀な人材や技術力、商品力などが必要です。こうした資源を一から集めるには、膨大な時間とコストがかかるでしょう。しかし株式譲渡であれば、売り手が所有する商品や人材、契約など、すべての資産を引き継ぐことができます。株式譲渡は手続きが簡単で、短期間で実行できるのも大きな特徴です。

メリット3/許認可を引き継げる

株式譲渡では、売り手企業が持つ許認可も会社ごと新しい所有者に引き継がれます。特定の事業は許認可が必要であり、許認可を得るためには、基本的に多くの時間やコストをかけ、さまざまな手続きを踏んでいくことになります。費用も手間もかかる許認可も、株式譲渡であれば取得に時間はかかりません。さらに、株式の取得が完了すると、買い手はすぐに譲り受けた会社を通じて許認可が必要な事業活動を開始することもできます。

デメリット1/すべての株式の取得が困難な場合がある

株式の売り手企業の経営者がすべての株式を保有し、その株式をすべて買い取る場合、スムーズに株式譲渡を進めることが可能です。しかし、売り手企業の株式が分散していると、それぞれの株主と個別に交渉し、購入しなければなりません。さらに、反対する株主や所在不明の株主がいると、すべての株式の取得が困難になる恐れがあります。

デメリット2/負債などマイナスの資産も引き継ぐことになる

株式譲渡で、買い手企業は売り手企業のあらゆる資産を引き継ぎます。資産はプラスのものだけとは限りません。簿外債務などマイナスの資産があった場合でも、基本的に株式を譲り受けた側が所有するということです。株式譲渡で不利益を被ることがないよう、買い手としては株式譲渡の手続きが完了する前に売り手の資産状況を徹底的に調査する必要があります。

非上場株式を譲渡する際の手続き


非上場株式を譲渡する場合、必要書類の提出や関係者による合意形成、契約の締結など、複雑な手続きを踏んでいくことになります。こちらでは、株式譲渡を行う際の手続きの流れについて解説していきます。

株式譲渡制限の確認と株式譲渡承認請求書の作成・提出

中小企業では、一般的に株式に譲渡制限が付けられています。そのため、自社の株式を譲渡するにあたり、まずは株式に譲渡制限が付けられているか確認してください。譲渡制限がある場合、譲渡人は会社に対して、株式の数、譲受企業の名称などが記載されている譲渡承認請求書を提出します。

取締役会もしくは株主総会の開催

会社が株式譲渡承認請求書を受領したら、株式を譲渡するかを判断するための取締役会が開催されます。会社に取締役会が設置されていない場合は、株主総会を開催して株式譲渡の承認を決議します。承認・不承認の決定後、会社側は株主に対して結果を通知。株式譲渡が承認されれば、譲渡制限株式の売買が可能になります。

株式譲渡契約の締結

株式を譲渡する株主(売り手)は、承認通知を受けた後に株式の買い手(譲渡先)と交渉を進めます。内容を調整し、双方が合意に至ると、株式譲渡契約の締結に至るという流れです。株式譲渡契約書には、基本合意の内容や株式の譲渡価格、対価となる金銭の支払い方法などが記載されます。

なお、株式譲渡契約の締結前には、簿外債務のチェックなどを目的に、譲渡する側の経営者に対するヒアリングやデューデリジェンス(適正評価手続き)が実施されることもあります。

株主名簿の書き換え

株式譲渡の契約が成立しても、株主名簿の書き換えが完了するまで、株式譲渡が行われたことを会社に対して主張することはできません。株主としての権利が認められるには、株主名簿への株主の記載が必要です。そのため、契約が成立したら、株主名簿の書き換えを行います。

非上場株式の譲渡にかかる費用

株式を譲渡すると、状況に応じて売り手には税金などが課されることになります。発生する費用が大きくなる可能性があるなら、具体的にどれくらいかかるのかはあらかじめ把握しておきたいところ。そこでこちらでは、非上場株式の譲渡にかかる主な費用について解説していきます。

税金

株式を経営者個人が保有している場合、株式譲渡を行うと譲渡所得が発生します。譲渡所得は、株式を売却して得た金額から株式譲渡の手続きにかかった費用や手数料、譲渡対象となった株式の取得費などを引いた金額です。その譲渡所得に対して、20.315%の所得税が課税されます。

なお、株式譲渡では、第三者間での適切な価格(時価)での取引であれば、買い手側には税金は発生しません。

専門家に支払う相談費用

株式譲渡は、株主数が少数の中小企業であれば自身でまとめることは可能ですが、それは現実的ではありません。実際は、M&A仲介会社や税理士、公認会計士、弁護士などの専門家に業務を依頼するのが一般的です。こうした専門家に相談したり、依頼したりする場合には費用がかかります。

M&A仲介会社では、着手金や中間金、成功報酬といった料金体系が基本です。また、弁護士や税理士、公認会計士は、業務内容によって個別に料金が設定されているので、あらかじめ確認しておきましょう。

非上場株式を譲渡する際の注意点

株式を公開していない非上場株式の譲渡には、いくつか注意しなければならない点があります。思わぬ損失が発生したり、譲渡が成立しない等の望まぬ事態にみまわれたりしないよう、以下の注意点は徹底して確認するようにしてください。

株券発行会社は株券発行が必要

株券発行会社では、株式譲渡は株券が交付されて効力を発揮します。そのため、株式を譲渡する人が株券の発行を受けていない場合、株券を譲受人に発行することができず、株式譲渡の効力が無効になってしまう可能性があります。株券発行会社にもかかわらず株式が発行されていない場合、株式譲渡の契約の際にまずは株券の発行を会社に請求した上で、譲受人への交付が必要です。

株主が所在不明の場合がある

株式譲渡の手続きに際して、所在不明の株主がいる場合は通知または催告ができず、配当の受領も完了しません。このような状態が5年以上続いた株主を、所在不明株主と呼びます。所在不明株主は会社法で、取締役会の決議によって売却処分できると定められています。売却代金は当該株主に支払えると定められていますが、通知から3ヶ月以内に申出がなかった場合は会社で管理するといった手間が必要です。

売却から10年以内に所在不明株主から売却代金の請求があった場合には、支払いが必要になるため注意してください。

名義株があると名簿の書き換えなどが必要

実際に会社に出資した人と、会社の株主名簿に記載のある株主が異なる状況にある株式を「名義株」と言います。名義株があると、株式譲渡の手続きでトラブルが発生することがあります。そのため、名義株の存在が発覚した場合、実際の出資者や名義株となった理由などを調査し、最終的に株主名簿の記載を是正しなければなりません。

まとめ

株式譲渡は、事業譲渡など他のM&A手法と比較して手続きがシンプルとなるケースが多く見られます。さらに、株式の売り手は後継者不在や経営難といった問題を解決でき、買収側は時間をかけることなく効率的に事業拡大や新規事業参入を実現可能です。こうした背景から、中小企業の事業承継などでよく活用されています。

ただ、メリットだけではなくデメリットもあり、正当な手続きを踏んでいなければ譲渡契約が無効になってしまう恐れもあります。株式譲渡を行う前には入念な準備を忘れないようにしましょう。

青山財産ネットワークスの特徴

青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。

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