2024.08.09
事業承継
事業承継税制とは?制度の仕組みや要件、手続きなどをわかりやすく解説
事業承継税制は、事業承継の負担となる相続税や贈与税の納税を、猶予・免除する制度です。適切に利用すれば、後継者は事業継承に伴う税負担を軽減できます。ただし、適用される条件や申請手続きが複雑で、しっかりとルールを理解していなければ不利益を被る恐れがある点には注意が必要です。

そこでこちらでは、後継者問題に悩む経営者に向けて、事業承継税制の概要や事業承継税制を適用するための要件、事業承継税制が免除・取り消しになる事象、事業承継税制の手続きについて解説していきます。

事業承継税制の概要

親族などから会社を引き継ぐ際に、相続税や贈与税などの税金が発生することがあります。場合によっては、税金の額が大きくなってしまい、円滑な引き継ぎができなくなることも否定できません。そこで注目されるのが、事業承継制税制という仕組みです。それでは、まず事業承継税制の概要について見ていきましょう。

事業承継とは

事業承継は、会社の経営権や資産を誰かに引き継ぐことを意味する言葉です。単に経営者が新しい人物に交代するだけではなく、会社が事業を行うために必要な資産(会社の株式、設備、不動産、資金など)が引き継がれることも事業承継には含まれます。

さらに、形のない資産も承継の対象であり、特許などに代表される会社が培ってきた技術やノウハウ、ブランド力、経営者の信用などが「無形資産」として承継されます。

事業承継税制の背景

事業承継を実施する場合、継承される企業の経営状態によっては多くの贈与税・相続税が発生する可能性があります。そうなると、事業を引き継いだ人は支出を余儀なくされ、円満な事業承継が困難になってしまうケースも起こり得るでしょう。

こうした状況を鑑みて創設されたのが、事業承継税制です。この制度では、経営の後継者が企業の株式を相続や生前贈与で引き継ぐ際、相続税や贈与税について納税の猶予を受けることが可能です。さらに、要件を満たし続けることで、最終的に猶予された税額は免除されるため、相続や贈与で発生する税金の工面に悩む必要がなくなります。

2009年にこの制度が創設された当初は法人のみが対象でしたが、2019年度に税制が改正され、個人事業主にも事業承継税制の適用を拡大しました。そうした経緯で、個人版事業承継税制(個人事業主用)が新たに創設されています。

事業承継税制の種類

事業承継税制の内容は、法人版と個人版で異なります。それぞれの概要を紹介します。

法人版事業承継税制

法人版事業承継税制は、先代の経営者等から後継者が非上場会社の株式等を贈与あるいは相続で取得した際に、経営承継円滑化法の認定を受けていると贈与税や相続税の納税が猶予される制度です。

法人版事業承継税制は、 2018年度の税制改正によって2027年12月31日まで適用される「特例措置」が設けられました。なお、従来の制度(一般措置)と特例措置では、適用条件や猶予される税額などが異なります。

一般措置と特例措置の具体的な違いは、以下の通りです。

 
  一般措置  特例措置 
対象株数 発行済議決権株式総数の
3分の2まで
 全株式
特例承継計画の提出 不要  必要(2026年3月31日までに提出)
適用期限 なし  2027年12月31日まで
納税猶予の割合 贈与100%、相続80%  贈与・相続ともに100%
後継者 筆頭株主の後継経営者1人のみ  持ち株10%以上の後継経営者3人まで
雇用確保要件 承継後、5年平均で
相続・贈与時の8割以上
 弾力化


個人版事業承継税制

中小企業の中で多くを占めているのは、個人事業主です。社会全体の高齢化に伴って個人事業主の平均年齢も上昇していて、事業の継続が難しい事業者や、後を継ぐ人が見つからない事業者が増えています。
その状況に対応するために、もともと法人のみを対象にしていた事業承継税制が、2019年度の税制改正で個人事業主にも適用されることになりました。

個人版事業承継税制も法人版と同様に、個人事業主の贈与税や相続税の支払いが猶予または免除される仕組みです。
なお、個人版事業承継制度が適用されるのは、2028年12月31日までに贈与や相続が行われた場合に限られます。制度の対象となる資産は、「土地または借地権」「建物」「減価償却資産」に該当する資産であり、確定申告書の青色申告書に記載されているものです。


法人版事業承継税制が適用される要件

事業承継税制ですが、誰もが制度を利用できるわけではなく、一定の要件を満たして初めて適用されます。

では、どのような要件が定められているのでしょうか。こちらの項目では、法人版事業承継税制が適用されるための主な要件について解説していきます。

会社の主な要件

  • 中小企業である。
  • 従業員が1名以上在籍している。
  • 上場会社ではない。
  • 風俗営業会社ではない。
  • 資産管理会社ではない(一定の要件を満たす場合を除く)。

先代経営者の主な要件

  • 会社の代表者だったことがある。
  • 相続・贈与時に、贈与者の親族などで過半数以上の株式を保有し、かつ筆頭株主でもあった。
  • 贈与時に代表者を退任している(贈与の場合)。

後継者の主な要件

<相続時>
  • 相続時において、第⼀種特例経営承継相続⼈とその者の親族などで総議決権数の過半数を保有していること。
  • (後継者⼀⼈の場合)同族関係者の中で最も多くの議決権数を有していること。
  • (後継者複数の場合)各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
  • 相続開始の直前において役員であり(先代経営者が60歳未満で死亡した場合(令和3年4⽉1⽇以後の相続については、先代経営者が70歳未満で死亡した場合⼜は相続発⽣前に確認を受けた特例承継計画に特例後継者として記載されている場合)を除く)、相続開始から5ヶ⽉以内に代表者に就任すること。
  • 相続⼜は遺贈により取得した株式等を継続して保有していること。
  • その会社の株式等について、⼀般措置の適⽤を受けていないこと。
  • 特例承継計画に記載された後継者であること。
<贈与時>
  • 贈与時において、第⼆種特例経営承継受贈者とその者の親族などで総議決権数の過半数を保有していること。
  • (後継者⼀⼈の場合)同族関係者の中で最も多くの議決権数を有していること。
  • (後継者複数の場合)各後継者が10%以上の議決権を有し、かつ、各後継者が同族関係者のうちいずれの者が有する議決権の数をも下回らないこと。
  • 贈与時に18歳以上(令和4年3⽉31⽇以前の贈与は20歳以上)の代表者であり、かつ、贈与の直前において3年以上役員であること。
  • 贈与により取得した株式等を継続して保有していること。
  • その会社の株式等について、⼀般措置の適⽤を受けていないこと。
  • 特例承継計画に記載された後継者であること。

事業承継税制に係る納税猶予税額が免除・取り消しになる要件

事業承継税制は、要件を継続して満たすことにより相続税や贈与税の納税が猶予され、さらに場合によっては納税そのものが免除になるケースもあります。その一方で、事業承継税制が適用されていても、要件を満たし続けることができなければ納税猶予は取り消されます。その場合は結果として税金を支払う義務が生じるため、常に要件を満たしているか留意する必要があります。

こちらでは、納税の猶予が免除になる要件、および猶予が取り消しになる要件について解説します。

納税が免除される要件


事業を承継した人の相続税や贈与税の納税が猶予されるのが、事業承継税制の基本的な仕組みです。ただし、以下のようなケースでは、猶予だけではなく納税自体が免除となります。
  • 先代経営者が死亡した場合。
  • 後継者が死亡した場合。
  • さらに次の後継者に事業承継され、その後継者が事業承継税制の適用を受ける場合。

また、以下のケースでは納税の一部が免除されます。
  • 申告期限から5年以上が経過し、会社が破産手続き開始の決定または特別清算開始の命令を受けた場合。

納税の猶予が取り消されることもある

事業承継税制は、一度適用された後は効果が自動的に継続するものではありません。たとえば、事業承継税制の適用を受けるためには、最初の5年間は年次報告書と継続届出書を提出する義務が生じます。さらに、5年が経過してからも、3年に1度は税務署へ届出書の提出が必要です。この届出書の提出を怠ってしまった場合、納税猶予は取り消されることとなります。

このように、所定の要件を満たし続けていなければ納税猶予は取り消されてしまい、事業を承継した後継者は多くの税金を納めることになります。

代表的な取り消し事由は、以下の通りです。
  • 事業を承継した後継者が代表者を退任した(やむを得ない場合を除く)。
  • 後継者と同族の議決権が50%を下回った。
  • 後継者の同族関係者が持つ議決権が後継者のそれを超えた。
  • 都道府県・税務署への定期的な届出(年次報告書・継続届出書)を怠った。
  • 事業承継した会社が解散または組織変更を行った。
  • 対象となった株式を全部または一部売却した。

事業承継税制の適用が取り消されると起こること

事業承継税制の取り消し事由に該当すると、それまで納税が猶予されていた贈与税や相続税を納付することが求められます。納付額は一部の場合もあれば、状況によっては全額納付が必要な場合もあります。さらに、利息の納付の義務も発生するため、取り消された場合には本来支払う額よりも多くの税金を納めることになるかもしれません。

ただし特例措置では、会社の業績悪化によって売却や廃業が行われる場合、譲渡時の自社株の評価額で相続税や贈与税の額を計算することになります。そのため、事業承継をした時点よりも税の負担を軽減できる可能性が高いでしょう。

事業承継税制の手続き(特例措置)

事業承継税制の適用を受けるためには、必要書類の申請をはじめ、さまざまなプロセスを経ることになります。こちらでは、特例措置の場合の事業承継税制の手続きについて紹介します。

相続税の場合

  1. 特例承継計画を策定し、都道府県庁に計画書を提出します。
  2. 相続が開始したら、都道府県庁に円滑化法の認定を受けます。審査後、問題がなければ都道府県庁から「認定書」が交付されます。申請期日は、相続発生日の翌日を起点に、8ヶ月以内です。
  3. 事業承継税制の適用を受ける旨を記載した申告書、および各種書類を税務署に提出します。さらに、納税が猶予される相続税および利子と同等の担保も提供します。
  4. 納税の猶予期間が始まります。納税猶予を継続するためには、最初の5年間は都道府県庁へ年次報告書を、同じく税務署へ継続届出書をそれぞれ年1回提出する義務が生じます。6年目以降は、3年に1回、税務署に継続届出書を提出してください。

贈与税の場合

  1. 相続税のケースと同様、特例承継計画を都道府県庁に計画書を提出します。
  2. 先代経営者から後継者へ株式の贈与を実行します。ただし、後継者が1人の場合と、2人または3人の場合とでは必要な株式の数が異なりますのでご注意ください。
  3. 都道府県知事に円滑化法の認定申請を行います。税務署への申告書および各種書類の提出、担保の提供が必要です。
  4. 相続税と同じく、納税猶予の開始後は5年間にわたる年次報告書と継続届出書の提出と、6年目以降の3年に1回の継続届出書の提出が求められます。

まとめ

事業承継税制は、親族などが事業を承継する際に発生する税金を猶予・免除できる制度です。税負担を軽減できるという大きなメリットはありますが、事業承継税制の適用を受けるためには長年にわたり要件を満たし続ける必要もあります。仮に納税の猶予が取り消されてしまったら、多額の税金を納めなくてはなりません。

事業承継税制は大きなメリットがある一方、制度的には非常に複雑で、適切に利用するには専門的な知識が必要です。そのため、事業承継や相続、贈与に関する専門家に相談しながら進めると、安心して始められるでしょう。

青山財産ネットワークスの特徴

青山財産ネットワークスでは、税理士、司法書士など、国家資格を有する専門家が150名以上在籍し、30年以上の豊富な実績に基づき、お客様のご希望に沿って、事業承継、財産の承継・運用・管理に関するさまざまなご提案をしております。お客様とその親族の方々にとって最良の結果になるようプランをご提案いたします。
 

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